掲載日:2022年3月9日
鉄道撮影では、被写体となる列車を止めたいところに写し止めるということが、思い通りに撮るための最初の一歩となる。それが少ないチャンスで確実にものにできるほど、納得のいく作品が増えていくわけだ。
しかしOM-1を使ってみてそんな鉄道撮影の基本的なステップは、もはや2段とばしでクリアしていけると感じた。従来のOM-D E-M1 Mark IIIでは、AF/AE固定で最高60コマ/秒だった連続撮影速度が、最高画素を維持したままAF/AE固定で120コマ/秒で撮影できるようになったことは特に大きい。
高速で走る新幹線をパースの効いたワイドな画角で捉えるときは車両の鼻先を画面端にギリギリまで近づけたいのだが、当然フレームアウトしてしまっては大失敗というジレンマである。そんなシャッターチャンスの非常に少ない条件であっても、120コマ/秒であれば極めて理想に近い位置に写し止めることができる。
OM-1の連写設定は撮影方法に合わせていくつか選択できる。AF/AE固定で最高120コマ/秒の「高速連写SH1」、AF/AE追従で最高50コマ/秒の「高速連写SH2」、AF/AE追従で最高20コマ/秒の「静音連写」、AF/AE追従で最高10コマ/秒のメカシャッター「連写」と各種あり、基本的にマニュアルで露出を設定することが多い私は、AFを使うシーンか否かで選択している。
ちなみに「高速連写SH2」ではシャッター速度の低速設定下限があり、制限がないのが「静音連写」という違いがあるので、デフォルトとして「静音連写」を設定しておくのがオススメだ。またそれぞれ連写速度を下げることや、連続撮影枚数に上限を設けることもできる。
このような高速連続撮影が可能なのは、電子シャッターを洗練してきたOM SYSTEMだからこそだ。
OM-D E-M1Xで登場したAI被写体認識AF機能がOM-1にも搭載されている。より小型なカメラで搭載が可能になったということは、画像処理エンジンが高性能になったことを示している。
そしてもちろん「鉄道」モードも健在だ。このモードが本当に賢い。正面でも真横でも、鉄道車両の姿がフレームに入った途端、非常に高い精度でカメラが認知し動きを捕捉するのだ。それが正面だとわかれば運転席窓の位置を検知してくれるし、真横だとわかればフォーカスエリアを列車の長さに変形させて捉えにかかる。その精度と感度は筆舌に尽くしがたく作例だけで語りきれない。使って実感するのが一番だ。
また、ミラーレスカメラでは距離計を担う別体モジュールはなく、撮像センサーにその機能を併せ持たせているため、まったく新しい撮像センサー(裏面照射積層型Live MOSセンサー)とエンジン(TruePic X)になったOM-1では、AI被写体認識やAF速度、また精度も大幅に進化した印象だ。AFを作動させてから対象にピントが合うまでの時間は一瞬で、難関であるトンネル飛び出しの瞬間や列車最後部のアップなども、1枚目が撮れるまでが早いとそれだけ迫力ある写真が撮れるわけだ。
OM-1は高さを抑えた小さなカメラボディとしては、初めてAI被写体認識AFが搭載された。「鉄道」モードは電車や蒸気機関車などの正面だけでなく、側面についても学習させて開発されており、最後尾でも認識される。ちなみに私は日常的に鉄道を撮るためこの機能を常時設定している。
雨粒を天に突き返すようにスピードのシズルをまとって走る姿は、新幹線撮影でぜひ捉えたいシーンの一つだ。それを可能にするのはOM-1の連続撮影性能だけではない。飛躍的に進化した像面位相差AFは、クアッドピクセルAF方式で測距点がオールクロスセンサーの1053点となり高速性と正確性が格段にアップ。AF性能の限界が試される新幹線のバックショットだったが、いかに困難な条件であっても最初の合焦スピード、そこから追従への正確さいずれも“見事”のひと言だった。おまけにこちらは雨の中で手持ち撮影である。軽さも耐久性も“お見事”だ。
列車がトンネルから出てくる瞬間は、背景を整理しやすく被写体を際立たせるのに都合が良いためよく狙うところである。特に先頭部を思い切ってアップにし、現実味のある地上設備などをカットするのがオススメだ。こうすると車両の表情を印象的にみせることができる。
しかしピント目標のない構図となる上、被写体が現れないと撮影距離の見当はつきにくい。おまけに車両が外光を受けた瞬間からシャッターチャンスまではコンマ数秒のわずかな時間である。フレーミングとピントを両立するにはAFにピントを追従させて何コマも撮るのがいいだろう。OM-1では私のイメージ通りの撮影をすることができた。
OM SYSTEMは従来から強力な手ぶれ補正で定評があるが、ひとつでも多くの表現を手持ち撮影で可能にするということに執念を感じるシステムだ。OM-1で新しく追加された「手持ち撮影アシスト機能」。この機能は、手持ちでの長秒露光の際に、カメラのわずかな動きを模式的にリアルタイム表示し、手ぶれ補正の範疇に収めやすくする補助機能である。鉄道史跡や駅舎などの記録には「手持ちハイレゾショット機能」を活用し、5000万画素相当の高解像写真を撮ることもできる。
ハイキングコースにもなっている旧信越本線跡の「アプトの道」。その途中にある旧丸山変電所を訪れた。この煉瓦造りの鉄道施設は国の重要文化財である。たとえハイキング中でもあっても「5000万画素手持ちハイレゾショット機能」でより緻密に記録したい。
576万ドットに高精細化したEVFはいっそう自然な見え味に近づいただけでなく、アイセンサーの動作設定を細かく選べるようになった。
またユーザーインターフェースが一新されたのも大きい。メニュー項目が横方向に並ぶように変更され、ページ割り振りの見直しや色分けによって洗練された印象だ。そしてちょっとした変更点だが、メニューをEVF内に表示して操作できるようになったことは重要である。このあたりは撮影時の操作性向上に大いに寄与することだろう。
鉄道撮影では主に太陽を光源にした地明かりで撮ることが多い。しかし日没後の暗転に対してちょっとずつ露出を高めていくと、じわじわと鉄道車両のヘッドライトが効いてくる。地明かりとヘッドライトの光がちょうど良いバランスとなったときは、かなりの高感度を必要とする暗がりだ。デジタルカメラで常に懸案とされる高感度時の画質であるが、OM-1の登場でOM SYSTEMの新しい基準ができたと言って良いだろう。処理技術による画質向上は、結果的に低感度撮影時にも波及するため、日中に撮る鉄道風景も含めてメリットとなるのだ。
まったく新しい画像処理エンジン「TruePic X」で常用感度はISO25600にアップ。これまで撮影が難しかったわずかな地明かり下でも、良好な画質で記録できるようになった。この作例では、高速シャッターを選ばざるを得ない条件のため高感度ISO25600での撮影となったが、ボディーの艶やかさとヘッドライトの灯り、そして雲の立体感。それぞれの質感が失われていないのが驚きだ。
こちらもヘッドライトの灯りが映える時間で、ギリギリの露出となるためISO12800を設定したが、暗部の描写も残すことができている。これまでだと明部が写れば御の字であっただろう。高感度画質の向上は著しい。
新しくOM SYSTEMに加わったM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROは、鉄道写真に限らず使用頻度の高い焦点域をカバーする絞り開放値F4.0通しのレンズだ。動きの大きな列車のクローズアップの場合は、シャッター速度を上げたとしても絞り開放近くできっちりピントを追いかけて撮りたい。逆に動きの小さな風景カットの場合は、できる限り高画質のデータを残したいところだ。そんな鉄道写真の多様性にもマッチするレンズである。
遠景の階調もメリハリよく、周辺まで落差のない解像感でカメラの性能を余すことがなかった。目線の集まる列車の先頭部を画面端に持ってきても、これだけ綺麗に描き切ってくれたら大満足である。「深度合成モード」にも対応しているため、色々なシーンで活躍できるレンズだ。
OM-1の高速連写(SH2)と組み合わせてAF撮影。フェンス越しで障害物もあって、手持ちでしか撮れない場所だったがコンパクトなシステムが活きた。トンネル出口のわずかなシャッターチャンスにも関わらず、他のPROレンズに勝るとも劣らない駆動スピードでピントを合わせてくれた。
同焦点域のレンズとしては極めて小さく軽量なレンズである。非凡な沈胴機構にも注目だが、ズーミングに応じてレンズ全長が変化しないインナーズーム方式なのも、実は大変うれしい要素。ズーミングしながら流し撮りするような場合は、ズーム操作がスムースなインナーズーム方式が向いている。動画撮影中のズーミングにもメリットが大きいだろう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROはカメラにつけたまま撮り歩くのにも便利なサイズで、スナップにも最適なレンズだ。ここでは乗客のシルエットが印象的だったので、逆光と重なるタイミングでシャッターを切り、現像でアートフィルターを適用した。物体と重なった強い光線が、自然なハイライトとして柔らかく表現されている。
夕闇が迫ってきたため空の明るさを映した水面で画面を構成しようと、水の流れにレンズを接近させて撮った。レンズにはフッ素コーティングが施されているため、付着した水滴や汚れが落としやすいように配慮されている。
止めたいところで止める。攻めに攻めたフレーミングにも素直にそれができること、それも最大画素を保ったまま、歪みをほとんど出さずに記録できること。それは私の理想、鉄道写真の理想であった。それを実現するために「裏面照射積層型 Live MOS センサー」と「画像処理エンジン TruePic X」を載せたOM-1は、新しい時代を象徴するカメラである。理想の瞬間を確実に写し止める高速性も、微細なトーンまで堅実に表現する描写力も、これまでの基準では測れないほどの飛躍を実感できた。オールクロス像面位相差クアッドピクセルAF方式やAI被写体認識AFはその基準の上に成り立っているともいえるだろう。OM-1はOM SYSTEMの小型軽量という大きな信頼を守りながら、撮影者の表現したい思いに、強い実現力で応えてくれるカメラだ。
※ 35mm判換算 焦点距離
新開発のデバイスと最先端のデジタル技術を結集し、センサーサイズの常識を覆す高画質を実現。また従来機種を大きく上回るAFや連写性能など、基本性能も大幅に進化した「OM SYSTEM」カメラのフラッグシップモデルです。
沈胴機構を採用し、圧倒的な携帯性を実現した全域F4.0の小型軽量 望遠ズームレンズ。ズーム全域で最短撮影距離0.7mを実現、風景や望遠マクロ撮影など幅広いジャンルに対応します。