掲載日:2022年4月6日
宇宙や天体、星空の不思議さや美しさを目の前にすると、その光の魅力に感動すると同時に、その光景を自分で写真に撮影したくなります。カメラやレンズは、そこで宇宙と自分とをつなげてくれる素敵な道具なのです。そして、写真で撮ることによって初めて見えてくる星空の姿というものが、そこにあることに気づきます。
OM-Dシリーズのカメラは、これまで星空撮影を支援するさまざまな機能を搭載してきました。その系譜を引き継ぎ、新しく登場したOM SYSYTEMの新フラッグシップカメラであるOM-1は、新型センサーや新しい画像エンジンが搭載され、星空撮影機能にもさらに磨きがかかったカメラです。昨年秋よりひと足早く本機を星空の元に連れ出すことができたので、その写真を見ながらOM-1の実力をご紹介していきます。
今回OM-1に搭載されたのは、新開発の有効画素数約2037万画素 裏面照射積層型 Live MOSセンサー。ダイナミックレンジが広くなり、高感度性能も1〜2段ほど向上していると聞きました。
宵の明星である金星が最大光輝(太陽との位置関係で最も明るく輝くとき)を迎えた夕刻に、波打ち際に映る金星の光を撮影しました。西空に低く輝く金星の左上には木星があり、それらの惑星を結ぶラインに黄道光(太陽系惑星の軌道に沿って浮遊する微粒子が帯状に明るく見える)が伸びて見え、水平線あたりで逆向きに傾いた天の川とクロスしています。
使用したレンズは、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO。OM-1の常用感度はISO 25600まで上がりました。ISO 25600で絞り開放値がF2.8だと、わずか数秒の露出で天の川まで写ってしまいます。そこからISO3200まで1段ずつ感度を下げ比較撮影し、OM WorkspaseでRAW現像をしてみました。
さすがにISO 25600だと細部の解像が失われがちですが、ノイズの粒は揃っていて見苦しいものではありません。小さな星は高感度ノイズ低減機能により消えてしまうこともありますが、それも少ないようで、自然な星の表情に見えます。
ISO 3200ではほとんどノイズレスと言ってもいい画質に。波打ち際の岩の描写も十分な精細感があります。OM-D E-M1 Mark IIIに比べて、たしかに1段分以上の高感度性能が改善されているようです。
<共通>
カメラ:OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO/14mm相当[※]
※ソフトフィルター使用
OM Workspace RAW現像設定:ホワイトバランス:3300K(M+2)/仕上がり:Natural/明瞭度:+30/かすみ除去:+75/コントラスト:+1/階調:標準/シャープネス:-2.0/ノイズフィルタ:標準
OM-1の高感度性能が大きくアップしていることに気を良くして、手持ちで星景の撮影に挑戦してみました。
OM-D E-M1XやOM-D E-M1 Mark IIIでも手持ちの数秒露出で星空を撮ることができましたが[※]、OM-1には「手持ち撮影アシスト」という機能が新たに採用されています。
(※ED 8mm F1.8 Fisheye PROレンズを使用し、手持ち30秒露出で天の川をくっきり写すことができました。)
これは、シャッターボタンを半押しするとファインダーや背面液晶画面の中央に四角い枠が表示され、その中の点がカメラの動きに応じて移動するというもの。さらに四角枠左右の縦辺にはカメラの傾きに対応して上下するバーが表示されます。これらの表示によってカメラのブレ方がリアルタイムで把握でき、露出中のカメラの姿勢を一定に保ちやすくできるという機能です。
従来機では、露出中のライブビューはブラックアウトしてしまったので、ひたすら勘だけで姿勢を保つしかありませんでしたが、OM-1では枠の表示を見ながら姿勢を保てるのでちょっとしたゲーム感覚で数秒間の露出撮影を楽しく終えることができました。もちろん手ぶれによる失敗率は大幅減となりました。
また、星空をモニターで確認するライブビューも、従来の「LVブーストON2」から「ナイトビュー」という表示スタイルに変わりました。これはアートフィルターのラフモノクロームやドラマチックトーンに似た感じの映像表示で、構図の合わせやすさを第一に考えたとのこと。
画面のざらつきは「LVブーストON2」よりも目立ちますが、雲、天の川の流れ、さらに暗い星まで確実に視認できるようになり、空の条件の良い暗いところでも撮影しやすくなっています。
レンズの有効口径が小さくなってしまう超広角レンズでも、星の像が確認しやすくなったのは助かります。さらに「LVブーストON2」と比べてフレームレートも上がっており、ナイトビューのままで反応の遅さに戸惑うことなく構図やピント合わせができるようになりました。
その一方で、通常のライブビューもそこそこ暗い場所でそのまま被写体を視認できるようになっています。宵の口の薄明などでは、昼間の撮影から切り変えなしでそのまま撮影が可能です。
星空撮影におけるライブビューも、センサーの高感度性能が大幅に向上したことによる大きな改善点と言えるでしょう。
OM-D E-M1 Mark IIIではじめて搭載された機能に「星空AF」機能がありました。星空専用に開発された高精度に星にピントを合わせることができるAF方式で、OM-1にも搭載されています。OM-1では、全1053点のフォーカスエリアを画面最周辺部まで移動することができるようになりました。レンズの収差などの特性で画面周辺部の方が精度良く合焦できる場合もあり、構図によっては周辺部に明るい星が来ることも少なくないので、より利便性が増しています。
ちなみに私は、ボディ背面右肩部にあるISOボタンを「フォーカスリングロック」に割り当てています。これはレンズのフォーカスリングを合焦動作から切り離す機能。合焦後にフォーカスロックすることで、不用意にフォーカスリングに触れてピントがズレてしまうことを防ぐことができます。
そして、フォーカスリングロックをしている状態でも星空AFは動作します。結露防止のレンズヒーターを巻きつけてレンズ全体が覆われた状態でも、ボタンひとつでピント合わせが可能ということです。
私にとって星空AFとフォーカスリングロックは、シャープな星空写真に欠かせない便利な機能になっています。
高感度ノイズ性能が向上した新センサー、強力な5軸手ぶれ補正、新しいナイトビューモード、高精度な星空AF機能、そしてフォーカスリングロック機能。開放絞り値でも周辺光量が豊富で画面全面の結像性能に優れた大口径レンズと相まって、星空も本当にスナップ撮影ができるようになってきました。
星空撮影といえば、これまで三脚が必須でしたが、その束縛から私たちは解放されました。より自由なカメラポジションやカメラアングルが得られるようになったわけです。これからは新しい星景表現がたくさん生まれてくるだろうと感じています。
群馬県の荒船山艫岩(ともいわ)。紅葉が月光に浮かび上がっています。左上の輝星はおおいぬ座のシリウス。その下方の散開星団M41の小さな星までしっかりきれいに分離して写っています。手持ち撮影でここまでの星空が写せるとは驚きです。
ISO25600という高感度ながら稜線の木立の解像感もあまり損なわれていません。OM Workspaceの「AIノイズリダクション」(後述)が効いています。
ナトリウム灯の黄色い光に浮かび上がるのは、長野県にある国立天文台野辺山宇宙電波観測所 45m 電波望遠鏡です。星景撮影の移動中に通りかかったところ急に雲が切れてオリオン座が姿を見せたので、サクっと手持ち撮影です。
雲に覆われていた空に隙間が現れ、はくちょう座からケフェウス座の天の川が見えたので急いで手持ち撮影です。周囲はまだ霧や雲に覆われていて、非常に暗い状況です。それでISO感度25600でも、絞り値F2.0、シャッター速度10秒という長い露出になりました。しかし、まったくブレることなく星々も木立もシャープです。地上の熊笹までしっかり描き出せたのは、センサーのダイナミックレンジの広さがあってこそ。
人の目は暗い場所では色がよくわかりません。そして視神経の増感で、カメラと同じようにザラザラして見えます。そのような雰囲気をアートフィルターのラフモノクロームはよく表現してくれると思います。
月明かりの灯台は、シャッター速度1秒以下の短い露出で夜空をつらぬく光芒を写し止めることができました。海岸で見つけた流木の下に寝そべってカメラを構えました。空に冬の星座が輝いています。淡い冬の天の川もしっかり写っています。いずれも手持ちで撮影です。
OM-1の「ナイトビュー」モード設置時の画面です。小さな星もよく見えるようになり、構図が合わせやすくなりました。グリーンの枠は星空AFのフォーカス枠。大・中・小が選択でき、画面のどこでも使うことができます。
メニュー内で「手持ち撮影アシスト」を「ON」に設定すると、シャッターボタン半押しでインジケーターが表示されます。露出中はライブビューがブラックアウトしてインジケーターだけになりますが、中央の点が四角の枠内に留まるようにカメラを保持します。インジケーターの左右縦辺のバーで回転ブレがわかりますが、想像以上にカメラが回転していることに驚かされました。もちろん5軸手ぶれ補正で回転ぶれも抑えてくれます。
OM SYSTEMの画像編集ソフトウェア「OM Workspace」に「AIノイズリダクション」という機能があります。高感度で撮影したRAWファイル(従来機種にも対応)に適用し、ディープラーニングを使用して、よりノイズの少ない画像を生成できるとのこと。さっそく星景写真で試してみました。
※従来対応機種:OM-D E-M1X、E-M1 Mark III、E-M1 Mark II、E-M5 Mark III
※実行可能なPCに制限があります。詳しくは対応表よりご確認ください。
※別途、OM Workspaceの[ヘルプ]メニューの[AIノイズリダクションのダウンロード]より「プログラム」とカメラに応じた「データ」のダウンロードが必要です。
ノイズリダクションの強度は、「弱」・「標準」・「強」の3段階が選択できます。一般的な高感度ノイズリダクションでは小さな星とノイズの区別がつかずに、星までノイズと一緒に消してしまうことがありますが、AIノイズリダクションはそのようなことがほとんどありませんでした。バックグラウンドのザラザラを軽減しながらも、ノイズに埋もれそうな小さな星をよりハッキリと描き出してくれています。
また、暗い部分に現れがちな不愉快な色ムラも軽減し、ISO 25600という高感度でも、スッキリとした星空を表現してくれました。この新しい機能は、星景写真の強い味方になってくれそうです。
<共通>
OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0/24mm相当[※]/4秒/F2.0/ISO 25600
※ソフトフィルター使用
※解像感優先・偽色抑制OFF/暗部色抑制ON
通りかかった里山の火の見櫓が素敵な雰囲気だったので、星空をサクッとスナップ撮影です。手持ちで、シャッター速度4秒での露出撮影の間に流星がひとつ流れてくれました。流星は一瞬の現象なので、感度が高いほど写りやすくなります。ぎょしゃ座やふたご座、冬の大三角形を描く明るい星たちのにぎやかさ、そして少しのノスタルジーを感じさせる星空です。
OM SYSTEMカメラの星空写真といえば「ライブコンポジット」機能を思い浮かべる方は多いでしょう。星の日周運動の光跡を描き出しつつ、光跡が伸びていく様子をリアルタイムのライブビューで確認しながら撮影をすることができます。もちろん肉眼で見る星空は輝く点の星が空に散らばっているわけで、このような光跡が見えることはありません。時間の経過を写真として記録できるカメラを通すことによって、初めて見ることができる星空の姿なのです。
ライブコンポジット機能では、最初に設定した時間で露出を繰り返し、画面内の明るい部分を上書きしていくという合成(比較明合成)をします。設定できる1回あたりの露出時間は1/2秒から60秒と従来機と同じですが、感度がISO 6400まで使えるようになりました。
ライブコンポジットでは、感度が高いほど1回あたりの露出時間が短くなりますが、星の光はより強く写るようになります。これは、月明かりや街の光で空が明るいときでも、それだけ星の光を強く描けるということです。また、開放F値の数字が大きいレンズ(一般的に暗いレンズと呼ばれるもの)でも、星の光跡が写りやすくなりました。それだけ星の光について表現できる幅が広がったわけですね。
私は、その反対方向にも表現の幅が広がって欲しいと願っています。反対方向とはシャッター速度が60秒よりも長い1コマあたりの露出時間設定ができるようになれば、空の暗いところでも、星の光跡を穏やかに描けるようになるからです。これは今後に期待ですね。
滝口にちょうど北極星が見えています。20分間の日周運動の光跡です。星空は大変賑やかですが地上部は光が無くて非常に暗いので、カメラ固定のままたっぷり露出をした別コマの地上部をPCで合成して一枚の作品に仕上げました。星空部と地上部の画質をなじませるため、地上部は感度を下げて撮影しています。
引き潮で、地殻変動で縦になった地層の断面が姿を現しました。背後に昇ってきた月が周囲を明るく照らしています。ライブコンポジット機能で、星の光だけでなく、岩で砕けた白い波も美しく幻想的に描写できたと思います。
この時は西風が非常に強く、レンズ面に正面から直接波しぶきが当たるような状況でした。それでもIP53の優れた防塵・防滴性能を有するOM-1とM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROレンズの組み合わせは安心です。また、このレンズはフッ素コーティングが施されていて、撮影後に行ったレンズ面のクリーニングもサッと簡単に済ませることができました。
朝焼けをねらって、空の暗いうちから露出を開始したライブコンポジット撮影です。背面モニターで空の写り具合を確認しながら、ちょうど良いと思ったところで露出を打ち切ることができます。自分の思い描いていたイメージ通りに写真ができ上がっていく過程を見られるのは、とても楽しい体験です。
OM SYSTEMカメラには「ライブTIME/ライブBULB」という、長時間露出で画面の明るさをリアルタイムで確認しながら撮影できるという機能が搭載されています。露出時間が伸びるにつれて画像が徐々に明るくなっていく様子をモニターで見られるのです。
使用するISO感度毎に画像表示の更新回数が変わりますが、例えばISO 1600以上の設定では、撮影中に9回の画面表示更新が可能です。
(更新回数の上限で画面表示は停止しますが、シャッターを閉じなければ、撮影はそのまま続行します)
この機能を使えば、大きく明るさの違う星空部と地上部の両方を1枚の写真で適正露出にすることが可能になるのです。画面が空と地上で単純に二分割するような構図の時に便利に使えます。
手順としては、まず黒いシートなどをレンズの前にかざし、地上部だけを画面で見えるようにして露光を開始します。徐々に明るくなる地上部の露出がちょうど良くなったところでレンズ前の黒いシートを避け、星空部の露光を開始します。それで、地上部と星空部のバランスがちょうど良くなったところでカメラのシャッターを閉じて撮影が完了です。
地上部は非常に暗いので、どうしても分単位の露出が必要になりますが、ハーフNDフィルターと違って星空部を単時間で撮影することができるので、目で見たような星空の風景に仕上げることが可能です。
この撮影手順が、写真を印画紙に焼き付けるときの「覆い焼き」に似ているので、私は勝手に「ライブ覆い焼き」と呼んでいます。
2021年11月19日には「限りなく皆既に近い部分月食」が話題になりました。月食の食分(欠ける割合)は0.978。最大で満月の97.8%が地球の影に入るという部分月食です。関東地方では、夕方の東の空で半分ほど地球の影に入った月の近くで、ISSも地球の影に入って行くという予報がされていました。
撮影地は千葉県の九十九里浜。海面に反射する月の光もねらいの一つです。部分月食とはいえ月は明るいので、普通に撮ったのではISSの光跡と一緒に写すことはできません。そこで月のかけ具合が見えるギリギリの露出設定でライブコンポジット撮影です。この機能のおかげで半分影に入った満月と地球の影に入っていくISSという、非常に珍しくも面白い、大変貴重なシーンを撮影することができました。
次いで、2022年最初の天文ビッグイベント、1月4日未明に極大になる「しぶんぎ座流星群」です。8月の「ペルセウス座流星群」、12月の「ふたご座流星群」とともに、3大流星群と言われています。
いつどこに流れるか予想のできない流星を撮影するには、構図を決めてひたすら連写します。しぶんぎ座流星群の放射点が水平線から昇った01時頃から、空が明るくなった05時50分頃までの5時間近く20秒露出を繰り返し、840枚ほどの連続撮影をしました。
驚いたことに、OM-1はこの間ずっと電池交換無しのバッテリー1本で撮影が可能だったのです。最大でも3時間くらいだった従来機に比べて電池の保ちがとても良くなっていたことは、予想外のうれしい驚きでした。
ちなみにOM-1では、さらに長時間の連続撮影が可能なUSB-PD給電撮影が可能です。USB-PDバッテリーを接続するだけで自動的に電源が切り替わるようになっています。
半分ほど地球の影に入った月と、地球の影に入って行く国際宇宙ステーション(ISS)。ISSが飛んでいく間にも月はどんどん昇ってくるので、月が流れないようにポータブル赤道儀で日周運動を追尾撮影しながらのライブコンポジット撮影です。
限りなく皆既に近い部分月食。最大食分を少し過ぎた頃、薄い雲に月が入って月食特有の赤い色がにじんだ美しい眺めになりました。月のすぐそばにプレアデス星団(すばる)、下方にV字型に並んで集まった星々はヒアデス星団です。その中の一番明るい星がアルデバランですが、この一等星は星団の仲間ではなく、たまたま同じ方向に見えているという話です。
究極の超望遠性能を謳う超望遠ズームレンズ。ワイルドライフの撮影によく使われていますが、天体の写真はほとんど見たことがありません。それで空に向けてみることにしました。1000mm相当[※]という焦点距離のわりに1,875gという軽量さもあって、これなら手持ちのポータブル赤道儀で天体追尾が可能そうだというところもあってのことです。
実際に使ってみると、ズームレンズなのに超望遠単焦点レンズ並みにシャープなことがわかりました。しかも、内蔵の1.25倍テレコンバーターや2倍テレコンバーターを使用しても、シャープさがほとんど損なわれないという優れた光学性能です。野生動物の毛並みまでしっかり解像して描写されるのも納得の結像性能です。
星雲の撮影では、「星空AF」機能で難なくジャストフォーカスが得られました。超望遠レンズは、MFだとレンズにちょっと触れただけで像がブレまくってしまい精密なピント合わせが難しいものですが、本当に楽です。
ただ、大気揺らぎの影響か、合焦できないこともありました。そのような時は、フォーカス枠のサイズを変えるなどして何度かトライする必要があるようです。
オリオン大星雲M42。翼を広げた鳥のような形が特徴的です。このガスの中でたくさんの星が生まれつつあるところが観測されています。上方の青っぽい星雲はM43です。
M42星雲は中心部と周辺部の輝度差が非常に大きいので、露出を変えた32コマから合成して仕上げました。一般に天体写真では、画面全体でできるだけ光量がフラットになるように仕上げるものですが、あえて周辺部を暗く落としてみました。このように処理することで、夜空に浮かぶ星雲の姿にリアリティーが増すように思います。
日本の緯度では、南の地平線すれすれに姿を現す一等星のカノープスの光跡です。大気揺らぎの影響による瞬きで、小さく波打つように光跡が震えて写っています。光跡の上側が青く、下側が赤くなっているのは、大気のプリズム効果が原因。超望遠レンズで撮って初めてわかる現象です。
カノープスは明るいので青い光もなんとかカメラに届きましたが、周囲の暗い星は赤い光しか写っていません。星の光の青い成分は大気分子によって回折して散ってしまったため、カメラまで届かなかったのです。
はるか遠くの空を東に向かう夜間飛行の旅客機が、カノープスの手前を横切っていきました。
太陽面にたくさんの黒点や白斑が見えていて、活発な活動をしていることがわかります。太陽表面は中央部に比べて周辺部が暗く見えます。これが正しい意味の「周辺減光」です。
太陽面左にあるH型の黒い影は、太陽面を通過するISSです。ISSは地上から400kmほどの軌道を周回していますが、その向こうの太陽までは1億5000万kmという途方もない距離です。宇宙空間とはいえ、ISSは近い(?)ですね。
青空の中、月齢10.0の月の影部分を通過して行くISSをOM-1の静音連写で撮影し、ひとコマに合成してみました。ISSは月の前を0.7秒ほどで通過してしまうスピードです。それでなるべく速いシャッター速度にするためにISO 3200にしています。大気揺らぎでISSの形は歪んでいますが、中には構造が分かりそうなくらいシャープに写ったものもありました。2倍テレコンバーター MC-20を使用しても解像度が高く、ほんとうに像のキレの良いレンズです。ちなみに月までの平均距離は、38万4000km。月のかけぎわのクレーターも精細に描写できています。
私が星を撮るために初めて所有したカメラがOLYMPUS OM-1でした。35mmフィルム一眼レフですが、いまさら説明する必要のないほど知られたカメラでしょう。
当時、機種を選定するにあたり選択肢は他にも多々ありましたが、OM-1の特長である「小型・軽量・静か」はもちろん、その「合理性・独創性」に大きく感銘を受けたのが決め手になりました。
このOM-1は、星空だけではなく様々な仕事現場で使ってきました。そして現在もフィルム星景撮影に使用しています。
そして今度の新しいOM-1、レンズも含めたマイクロフォーサーズという規格にも、同じように合理性や独創性を感じています。
幸いにもOM SYSTEMカメラ開発の技術者さんとお話しすることもあり、「星空がきれいに撮れるカメラはなんでも良く写せる」とお伝えし、いろいろとお願いもしてきました。
星空写真が人気のジャンルになり、撮る人もすごく増えたこともあってお応えくださったのだろうと思いますが、星のための機能もさまざま開発してくださり、代を重ねるごとに本当に使いやすくてよく写るカメラになってきました。
そして今回、OM-1をしばらくの間手元に置いて使ってきましたが、星ばかりでなく、あらゆる仕事の場所で信頼でき活躍のできるカメラだと、あらためて感じました。
強力な手ぶれ補正機能がもたらしてくれる自由度は、三脚が使えない狭くて薄暗い実験室のような場所の撮影でとても助かります。信頼できる防塵・防滴性能は、粉塵が舞う鉱山のような取材現場や天候が不安定な自然環境でも全く安心です。交換レンズも含めたカメラシステムとして優れた機動力は、現場でのフットワークに直結することは言うまでもありません。
さらに、OM-1に搭載されたさまざまな「コンピュテーショナル フォトグラフィ」機能は、写真の目的である「伝える」ことの可能性を大きく広げています。
カメラは、被写体を観察し撮影することで対象と撮影者をつなげてくれます。その写真は伝えることで写った世界と写真を観る人をつなげてくれます。
OM-1は、私につながる世界をこれまで以上に広く拡張してくれるカメラだと実際に使って強く感じました。今後の私の主力カメラとなることは間違いありません。
※ 35mm判換算 焦点距離
新開発のデバイスと最先端のデジタル技術を結集し、センサーサイズの常識を覆す高画質を実現。また従来機種を大きく上回るAFや連写性能など、基本性能も大幅に進化した「OM SYSTEM」カメラのフラッグシップモデルです。
画面全域でシャープな描写性能を誇る大口径の単焦点レンズです。室内から風景撮影まで迫力のある世界を表現できます。レンズ表面には反射防止コーディング“ZEROコーティング”を施すことで、逆光撮影などの悪条件でもゴーストやフレアの発生を極限まで低減させました。金属外装のデザインがPENボディーとの一体感を高めます。静止画も動画もスムーズに撮影できる、高速&静音のオートフォーカス“MSC機構”を搭載しています。
14群19枚の贅沢なレンズ構成を採用することで、溶けるような美しいボケと解像力を両立。見たままの情景をそのまま写し撮る大口径標準レンズです。