掲載日:2022年4月6日
自分の撮り方や撮りたい被写体、あるいは体力・年齢に合わせてカメラを選ぶ、そういうカメラとの出会いもあるに違いありません。むしろ一般的なカメラの探し方なのかもしれません。一方で、そのカメラを使うことによって、自分の撮影スタイルが導かれ、それまでとは違った被写体の発見に結びついた、そんなカメラとの出会いもあるでしょう。カメラとの出会い方はきっと十人十色なのかもしれません。
私自身のことを振り返ると、後者の出会い方をしたように思います。OM-Dシリーズの初代モデル OM-D E-M5に出会い、その後OM-Dシリーズを継続して使い続けることによって、それまでの三脚優先のスタイルではなく、手持ち撮影による柔軟な全方向対応型(なんでも撮れる)の撮影スタイルが開眼し、現在に至っています。
そんな撮影スタイルのきっかけを作ってくれたOM-Dシリーズの特徴について簡単に触れたいと思います。何と言っても小型軽量であり、強力な手ぶれ補正機能があることによって、長時間にわたる手持ち撮影を可能にしてくれます。同時に大伸ばしにも対応する高画質を備えているため、プロの仕事にしっかりと応えてくれます。
現在の私の撮影スタイルにとって欠かすことができない、手足のように動いてくれるOM-Dシリーズですが、新しいフラッグシップ機が登場しました。OM-1です。語りたいことは山ほどあります。伝えたいことは海ほど深く溜まっていますが、スペースに限りがありますので、現在私が感じていること、思っていることの一部を、ここに書き連ねたいと思います。
最初にOM-1に触れたときの第一印象は「なんと気持ちよく手のひらに吸い付くのか」というものでした。画質云々、機能云々の前に、まずカメラを持った時点で心は掴まれました。なぜか。私の撮影スタイルが手持ちだからです。カメラをしっかりと保持できるか否か、握り込めるか否かは、手持ち撮影においては重大事。手持ち撮影を行うにあたっての基礎の基礎が備わっている、そんな印象を受けました。実際、グリップ周りはカードカバーも含めて革が張り込まれ、グリップ力を高めています。
カメラ全体の印象としては、OM-Dシリーズの雰囲気を踏襲。そのことによって「オリンパス」時代の魂を引き継いだ感が強く、その内部に「OM SYSTEM」の精神を詰め込んだのだろうと解釈しています。
フロントからボディ右サイドを回り込み、カードカバー、そして背面の親指が当たる部分にまでグルリと革が張り込まれており、手のひら全体がグリップにピタッと吸い付くイメージ。カードカバーも革張りになったことで、開閉時の指がかりも大幅に改善されています。
具体的なカメラの性能の話とは違いますが、普段から私が意識していることを書いてみようと思います。少し精神的な話です。
どんなカメラを相棒にしているか。どんなカメラシステムを携えているか。それによって撮影スタイルは大きく影響を受け、その撮影現場で見えてくる風景が変わります。これは私の体験なので、すべての方に当てはまる話かどうかはわかりませんが、少なくとも私はそんな風に考えています。
OM-1のように小型軽量で手持ち撮影に強いカメラを持っている場合、自分が動きたいと思った通りに動いて、「このアングルが欲しい」という位置へ躊躇なく身体を移動することができます。この感覚、わかりますか?そこだと思った位置に瞬間的に動くことに対して、なんの壁もないのです。だから、自分の思いや直感、閃きをすぐさま形にできるのです。「こう撮りたい」という思いを実現するために、なんの妨げもないカメラやカメラシステムを使うことは、とても大事なのです。
どんなカメラを相棒にしているか。どんなカメラシステムを携えているか。そのことが表現者にとって、どれほど大事なことなのか、お分かりいただけると思います。もちろん、そのような動きを必要としない被写体もあります。どっしりと構えて撮る風景写真です。その一方で、このように機敏に動けることで見えてくる風景、三脚を持たず気負わずに風景を見つめることで発見できる風景は、確実にあるのです。
暗いうちから撮影していた湖で、陽が昇るころになって発見した水辺の植物。大小2つの背の低い植物が、水面から顔を出し波間に揺らめく姿が気になりました。水辺にしゃがみ込み、OM-1を片手に持って手を伸ばし、背面の液晶を見ながら撮影しています。このアングルを得たことで、小さな植物が波間に揺れている臨場感が伝わります。加えて背景に見える山のシルエットによって、どんな場所なのかもそれとなく伝わるのです。連写設定にしたおかげで跳ねた水玉が写っていることに着目してください。それよりなにより、手を伸ばした姿勢でも撮影を続けられた小型軽量のボディ性能があってこそ表現できた一枚と言えます。
森の中を歩いているときに目にとまった真っ赤なモミジ。幹の下から「こんにちは!」と手を振っているように見えた姿が可愛らしく、すぐさま近寄りしゃがみ込んだところ、背景にレモンイエローの葉を発見。その葉にモミジを重ねる構図が閃き、そのアングルに身体を動かして撮った一枚です。OM-1を持っていると、こういう小さな主役の発見ができるだけでなく、さらにその先の世界観を描くアングルへとスムーズに自分が動いていることを実感します。
このあたりからOM-1固有の機能に基づいた話をしていきますが、スペックや機能の詳しい情報はホームページをご覧ください。
さてOM-1では、新型センサー(裏面照射積層型 Live MOS センサー)と新型画像処理エンジン(TruePic X)が搭載されました。これによって明らかに一味も二味も違う、「これがOM SYSTEMの新たなる画質だ」という結果が得られています。
通常撮影において、これまでの解像力でも十分に手応えはあり、全倍プリント(600×900mm)でもまったく鑑賞を損ねるようなものではありませんでしたが、OM-1においてはひとクラス上の画質を手に入れたような感覚があります。これまで「マイクロフォーサーズはセンサーが小さいから」とか「2000万画素だから」という理由で、一段低いものに見られていたような印象がありますが、それはOM-1においてはまったく見当違いと言ってよいのではないでしょうか。
通常撮影時の画質の進化もさることながら、ハイレゾショット機能も格段の進化を遂げています。それは合成速度です。従来は10秒以上の合成時間がかかっていましたが、「TruePic X」が従来比で約3倍の処理速度を得たことで、大幅な時間短縮に成功したのです。ほぼリズムを崩すことなく撮影を継続できる、そんなイメージです。変化が激しい風景写真の現場では、もろ手を挙げて歓迎したい進化です。
霧氷が訪れた早朝の志賀高原。弱い光によって、霧氷のふんわりとした質感が楽しめる現場でした。手前の霧氷にピントを合わせて撮影をしてみると、目で見た印象通りのふんわりとした霧氷の表情を捉えることができていました。しかしピント確認のために拡大をしてみると、「ふんわり」というイメージとは対照的な、鋭利な棘が無数に付着したように見える表情も捉えていたのです。画質の向上によって得られた描写力と言えます。
山中で被写体を探しながら車で移動しているとき、サルの群れに遭遇。午後3時頃の出合いでしたが、笹の葉をひたすらモグモグと食べていたので、やや遠くから望遠ズームでの撮影を試みました。連写設定にして捉えることで、よい表情の瞬間が得られましたが、顔の皺や美しい毛並み、さらには歯の凸凹までもが描写されています。
深い雪で埋まるハイキングコースを、スノーシューを履いて下りた先に待っていたのは、象の鼻のように曲がった木。他のシーズンでは撮っていますが、冬の雪深いシーズンでは初撮影。三脚を持たず、ザックも背負わず、カメラとレンズだけの軽装で辿りつき、そして5000万画素手持ちハイレゾショット機能で撮影しています。見事な高画質。そして小型軽量の恩恵を受け、安全に行き来できたことに感謝。
「ライブND」という機能は、OM-D E-M1Xに初搭載された機能でした。NDフィルターと同じ働きをカメラの設定だけで実現したこの機能は、とっさのシャッターチャンスに強く、荷物の軽減にも寄与しています。初搭載時のライブNDは最小ND2から最大ND32までの5段階の機能でしたが、OM-1ではND64を実現。たった1段分の進化ですが、されど1段!この1段の差は表現を追い求める者なら、誰しもが嬉しく思えるものだと思います。水の流れは、1段の差が勝負になる場合があります。ND2からND64までの6段階の中から、撮影者の思いを託せる効果が選べるというのは、何よりの贈り物です。
加えて言うなら、外付けのNDフィルターを足すこともできます。例えば「ND16」を持っているとしたら、ライブND64と合わせれば、「ND1000」相当の効果が得られることになります。
シャッタースピードは、風景写真の動感表現を司るもの。これをカメラ内で自由自在に操れるライブND機能のさらなる進化によって、私たち表現者はさらなる一歩が踏み込める、そんな感動を覚えます。
シャッタースピードにして1段の差ですが、水面の光の変化は明らかです。この違いは、この場面、この状況においては一見小さいものに感じるかもしれませんか、場面が異なれば、確かな違いとして現れることも事実です。使いこなせる幅が広がったライブNDの活躍の場は限りなく広いと感じています。
水面に静かに横たわる倒木と、その周辺に広がる緑の藻。水はわずかに動いているために、スローシャッターを使うと面白い模様美が描けると考え、最大の効果が得られるライブND64を使用。狙い通りに美しいラインが描かれ、場所によっては渦模様も見られて、納得の一枚となっています。
OM-1ではAFの進化も著しく、そのために撮ることが難しかった場面での撮影が容易になったり、意識せずとも撮れているといったことが起きています。以下に3つほど、AFの進化を感じたポイントを挙げてみます。
測距点が1053点に増えたことで、画面のどこでもピント合わせが可能になったこと。小さな測距点を使うことで、要素が込み入った場面でも狙い通りの部分にピントを合わせることができること。AFの低照度限界が-8EVに対応したことで暗い場面でのピント合わせもできるようになったこと。これらは風景写真の現場では大きなメリットとなっています。
年齢を重ねるごとに自分の眼の信頼度は下がる一方ですが、カメラの進化は留まるところを知らず、AFの信頼度は上がり続けています。OM-1に至り、理想に近いAF機構になったのではないかと感じています。
写真で見るとそう見えないかもしれませんが、日影での撮影なので、やや暗い場面です。そういった状況の中で、この場面では2つの枯れ木のうち、右の個体の先端部にピントを合わせたいと思っていました。OM-1には1053点もの測距点が備わっているので、その狙いはいともたやすく実現でき、思い通りの表現となっています。
OM SYSTEMのカメラと言えば、代名詞にもなっている「防塵・防滴・耐低温-10℃」性能ですが、OM-1においてはIP53を取得するに至り、さらなる信頼性を獲得しています。ダストリダクションシステムと合わせたとき、アウトドアにおいて「荒天」と言われる状況は、もはや「好天」でしかありません。人間さえ雪や雨風、寒さに耐えてしまえば、カメラは淡々と仕事をこなすだけです。
もちろん濡れてしまったり、砂にまみれてしまったときは、後のケアは忘れてはなりませんが、カメラやレンズに対して信頼こそすれ、心配をしながらでは撮影に集中できません。その点でOM-1は、風景撮影の相棒として最高の性能を誇っていると言っても過言ではありません。
朝は満点の星空だった秋の日は、8時間後には雨へと変わりました。周囲には美しい紅葉が見られる池も、雨降りの中ではどこか寂しそうな様子を湛えています。枯れ草の間から、雨による波紋が広がる瞬間を待っている間も、カメラやレンズに対しての不安はなく、構図やシャッターチャンスに集中できます。
山上では晴れ間はあるものの、強烈な風が吹き荒れ、雪煙が舞い上がります。雪粒は人もカメラも襲いますが、カメラは一瞬ごとに変化する表情を克明に記録し続けてくれた一方で、人はというと少々へこたれ気味でした。
表現者の撮影意欲は、EVF(電子ビューファインダー)の映像が、どれだけ肉眼で見ている現実と近似であるかどうかに深く関わっていると思っています。私の場合、手持ち撮影が圧倒的に多いので、EVFの良し悪しは大いに気にかかる問題です。
その点、OM-1では576万ドットの有機ELファインダーが採用されたため、映像の現実感が格段に高まっています。ファインダーを使って撮影することが楽しい、そんな感覚でいられるのです。楽しいだけではなく、被写体をしっかりと把握したうえで、その被写体が放つ魅力や存在感を感じつつ構図作りができるため、気持ちの上乗せ効果があるように感じています。
気持ちがのればのるほど、当然のように表現の深度は深まります。写真を撮るには、まず「見る」行為から始まり、それを「感じる」ことで心が動き、「撮る」ことにつながるわけですから、ファインダーとは言葉に尽くせないほど重要であることがわかると思います。
日没間際、直斜光が射さず、日影となった雪原で見ることができた柔らかな雪のラインの重なり。あまりに美しく、早速カメラを構えファインダーを通して確認したところ、心が動いたとおりの映像が見えました。左下がりのラインの頂点に測距点を置き、AFを作動させたところ、気持ちよく合焦し撮影に成功しています。
カメラは画質や色作りに深く関わりますが、表現は主にレンズが担います。どんなレンズを携えて風景の現場に出るかによって、見えてくるもの、見ようとするものが変わります。例えばマクロレンズを持てば、マクロの世界が描ける被写体を探そうとします。超広角レンズなら、ダイナミックな遠近感が表現できる風景の発見に努めるでしょう。レンズとは、このように撮影者の思考に影響するものなのです。
そんなレンズですが、OM-1と共に、以下の2本のレンズが登場しました。
前者は従来レンズと光学系は同一ながら、フレア低減のための「ZEROコーティング」を施した製品です。35mm判換算で28mmから80mmをカバーする本レンズは、風景をオーソドックスに捉えるとともに、近接撮影に優れているためマクロの世界観を描き出すことも可能です。
後者は同一焦点距離のF2.8通しズームレンズのF4.0通しタイプで、新規開発の製品です。35mm判換算で80mmから300mmをカバーするため、風景の部分的な切り取りに適すると同時に、ズーム全域で最短撮影距離70cm、最大撮影倍率も0.41[※]と近接性能が高いため、マクロ表現やボケ表現を楽しめます。また極めて小型軽量に設計されているため、手持ち撮影時の負担を大幅に軽減します。
水が抜かれた湖の底には、こんな姿になった木が佇んでいました。よく見ると付着した藻が模様のように見え、木の凹みには小さな貝殻も…。足元の風景を凝視して、面白いと思った瞬間をサクサク切り取るためには最適だと感じています。
OM-1の登場によって、それまで表現できなかった世界が、いまそこに迫っているように感じています。このカメラを持てば、これまでとは違った世界が見えてくる、そんな予感がありますし、それは間違いないでしょう。私自身、OM SYSTEMカメラによる撮影はOM-1へと移行しますが、まだ見つけることができていない、新たな風景を探しに行きたいと思います。
※ 35mm判換算 焦点距離
新開発のデバイスと最先端のデジタル技術を結集し、センサーサイズの常識を覆す高画質を実現。また従来機種を大きく上回るAFや連写性能など、基本性能も大幅に進化した「OM SYSTEM」カメラのフラッグシップモデルです。
超広角16mm相当[※]から標準50mm相当[※]までをカバーする高いズーム倍率を実現しながら、全域で卓越した描写性能を発揮する高性能なズームレンズです。小型軽量化を徹底したうえ、防塵・防滴などの耐環境性能や操作性にも優れ、超広角域ならではのダイナミックな画角から標準域の安定した画角まで、1本で高画質かつ多彩な撮影を快適に楽しめます。
※ 35mm判換算
どんな状況下でも常に高画質を提供するプロフェッショナルレンズ。それが、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROです。F2.8の明るい絞り値のまま35mm判換算80mmから300mmの焦点距離をカバーし、驚異的な解像力とやわらかな円形ボケで美しい画像 を得られます。