掲載日:2022年4月20日
学生の頃からフルサイズのカメラを使っていたが、OM-D E-M1 Mark IIの頃から本格的にOM SYSTEMのカメラをメインに使っている。アラスカの原野を、昼も夜もなくザックを背負って歩くのが撮影スタイルの僕は、小さく軽くて頑丈、かつ高画質なカメラを求めていたからだ。それらを満たしてくれるOM SYSTEMにしてからというもの、その機能や性能には幾度となく助けられてきた。
そして2022年2月、イメージセンサーと画像処理エンジンというカメラボディーの心臓と頭脳と呼べる重要な部分が刷新された"OM-1"が発表された。残念ながらアラスカには連れて行けてはいないが、国内のあちこちで幅広く撮影を共にさせてもらった。OM-1は、599g(CIPA準拠)という軽量ボディーからは想像がつかないほど、驚きの進化を遂げていた。スペックの詳細については既出のものが多く、様々な記事や、OM SYSTEMのYouTubeチャンネル「OMSystem JP」でもかなりの情報が得られるのでここでは列挙しないが、様々な生き物や風景、敢えて暗い洞窟や高コントラストのシチュエーションを撮影した体感的な部分を共有したい。
僕がまず驚いた部分はEVF(有機ELファインダー)の進化だ。最初にファインダーを覗いた瞬間感じた視力が上がったかのような感覚は、15年ほど前に視力矯正手術を受けた後のような衝撃だった。EVFの画素数が576万ドットと、OM-D E-M1 Mark IIと比べて2倍以上も向上したことにより、ファインダー内の映像がより精緻でとても見やすくなったのだ。これによる恩恵はいくつもあるが、ファインダー内でピントをさらに追求できるようになったことが僕にとっては1番嬉しいポイント。また、暗所にも非常に強くなり、日が落ちてからも見やすくなった。「ナイトビューモード」に設定すれば肉眼を超えて闇の中を見通すこともできる。
背面のバリアングル液晶モニターも画素数が上がっている。162万ドットとなり、今までの1.5倍以上。正直、ここもEVFと同じく2~3倍を狙って欲しかったなと思ったのだが、いざ使ってみるとなかなか良い。モニターを使っての撮影中だけでなく、撮影画像のピントやハイライト部・シャドー部の詳細も見やすくなり、パソコンに取り込まなくても確認できることが増えたので大変助かる。
今挙げた中でも、暗所耐性は衝撃の一言。まずは、この写真を見てもらいたい。
これは、とある夕方、信州で鹿の撮影をしている時に、スマートフォンでカメラと周辺の様子を撮ったものだ。ヘッドライトなしで歩くのは厳しいほどの暗さになると、撮影を断念せざるを得ないことも多い。
その状況でナイトビューモードをONにし、OM-1のファインダーを除くと、このように見えた。写真はスマートフォンをアイカップに押し当てEVF画面を撮ったもの。
このように、肉眼では見えないところがファインダー内で見えてしまう。まるで暗視ゴーグルをつけたレンジャーにでもなったかのようだ。これなら撮影続行できると思い、山の斜面を進んだ。日が落ちてから20~30分ほど経った頃、30mほど先に鹿を発見。
空はうっすら明るいが森の中は暗い。ナイトビューモードでモニターを見ると、うっすらだが鹿の顔が見え、こちらを意識しているのがわかった。音を立てないようそっとファインダーを覗くと、鹿が動き出しそうなことがわかった。いなくなってしまう前にピントが合うか不安だったが、手持ちでファインダーを覗きながらマニュアルフォーカスであっさりと合わせることができた。その時に撮影したのがこちら。
鹿の表情が読み取れるのがわかると思う。ISO 25600と感度が高いこともあり、日中の写真に比べればさすがに解像感が低いことは仕方ないだろう。しかし、肉眼で見えない暗さの中、手持ちで撮って表情がわかるレベルの描写であれば100点ではないだろうか。数枚撮ると、鹿は去って行ってしまったが、暗闇での撮影体験に高揚した。
西表島の洞窟での撮影の際も、ヘッドライトをつけたくなるような暗いシーンだったが、ファインダー内では四隅まで鍾乳洞の質感が見えるおかげでフレーミングもスムーズだった。日差しが遠くから届いており、先ほどの鹿のケースに比べれば光があったため、AFが作動しスムーズに合焦した。テストも兼ね感度をISO 25600まで上げた。そのおかげでできた余裕の分、少し絞れた(絞りF値を大きくできた)のは常用感度が上がった恩恵だ。
OM-1では、イメージセンサーが"裏面照射積層型LiveMOSセンサー"と新しいものになっており、AF方式も"1053点オールクロス像面位相差クアッドピクセル"が新たに採用されている。上の写真でスムーズにAFが効いたのは新センサーのおかげでAF性能が上がっているためだ。他に、ダイナミックレンジが1段広がり、常用感度はISO 25600までとOM-D E-M1 Mark IIIに比べて2段分も上がり、ノイズ耐性も上がった。これらの情報を聞いたとき、撮りたかった写真が撮れるかもしれないと思った。その、撮りたかった写真とは、鍾乳洞の中から外方向を向いたカット。鍾乳洞の内部は奥へ行くと完全暗黒となり外との明暗差が大きいので、今まではストロボなどで鍾乳洞内部に人工光を当てないと綺麗に撮れなかった。
撮影当日、西表島にしては珍しくピーカンの晴れ。うまくすれば洞窟の入り口に向け木漏れ日が落ちてくる。狙い通りの画が撮れるかしら、とドキドキしながら鍾乳洞の奥から入り口にカメラを向けた。天井部分の明るいところではなく、少し手前の暗くなったところに測距点を設定しAFすると、スムーズにピントが合った。
どうだろうか、かなり自然に仕上がったといえると思う。肉眼以上のダイナミックレンジになると不自然になってしまうから、画面上部や左下部分のシャドー部と、光が注いで水面に反射しているハイライト部は想像以上にしっくりきた。学生時代に同じような洞窟をポジフィルムで撮ったが(本記事にも掲載できればと思いフィルムを探してみたが残念ながら見つからなかった・・・)、その時は曇りで今よりローコントラストだったにも関わらずまともに映らなかった。ノイズに関しても、感度をISO 16000で撮ったにしてはかなり良いと思われる。大きく伸ばすような際には、新しくなった画像編集ソフトOM WorkspaceのAIノイズリダクション機能で編集処理を行なえばよい。
「いいぞ、暗くても撮れるし、ハイコントラストでも撮りやすくなった。」これは、と思い海岸に行き、コントラストの高いところでの撮影も敢行した。
ここは、岩が暗く、アオサ(青海苔)の緑、海と空の青とのコントラストがいまいち収まり良く撮れなかった経験がある。ライブNDを使って撮ったのがこちら。狙い通りに各色が階調よく現れている。シャッター速度1/2秒のライブND機能(ND64)を使用しての撮影。手持ちで簡単に撮ることができた。
日の出の後、太陽が雲に隠れているシーンも、マングローブがシルエットになっているカットも、ハイライトからシャドーへの階調が美しく描写されている。
AFについてだが、色々な方による様々な情報がアップされているので詳細は省くが、AI被写体認識AF機能が搭載されており、バイク・車、飛行機・ヘリコプター、鉄道、鳥、それに動物(犬・猫)を認識してピント合わせを強力にサポートしてくれている。僕は鳥認識と犬・猫認識機能を使ってみた。多くの写真家の方が既に言っているように、鳥認識に設定しているとき、ファインダーに偶然入ってきた小さな鳥にもカメラが勝手に認識してくれる、ということも実際にあり、思わず「えっ」と声が出てしまった。犬・猫認識機能では犬猫以外のいくつかの動物にファインダーを向けたが犬、猫以外にも作動した。いくつか写真を見てもらいたい。
鳥の認識能力はOM-D E-M1Xよりも素早く的確になった。AFターゲットモードをALLターゲットにしておくと、思わぬ鳥との遭遇にもカメラが鳥を認識して枠を表示し、スムーズにピントを合わせを行なうことができる。
AI被写体認識AF機能だけでなく、AFは合焦速度も速くなったと実感した。前述したように、暗所にも強くなった。それはイメージセンサーだけでなく、「TruePic X」という新しく搭載された画像処理エンジンのおかげでもある。細かい説明は割愛するが、体感では従来比3倍の計算能力になったのだとでも覚えておけば十分だと思う。それによる恩恵はいくつもあるのだが、ハイレゾショット機能についてはぜひ触れておきたい。普段ほとんどの写真を手持ちで撮る僕は、5000万画素手持ちハイレゾショット機能を使っていたのだが、処理時間を考えると今までは使えるシーンが限定されていた。しかし、OM-1ではその処理が体感として約5秒くらいで完了するので、多用できるようになったのだ。処理時間が短くなったことで「この被写体は高画質に撮っておくか」といった気軽な気持ちでこの機能を使えるようになった。好きなボタンに設定でき、ON-OFF設定ができるので気軽にトライできる。(※デフォルトではムービーボタンに設定されている)
アウトドアのあちこちでカメラに無茶させる僕としては、IP53を有する防塵・防滴性能や、耐低温-10℃性能にもきちんと触れておきたいところなのだが、今回は、-20℃の環境で問題なく使えたこと、暴風雪の中での撮影や、雪に埋もれてしまうような中でも問題が起こることなく撮影できたことだけ共有させていただきたい。
スオウノキの逞しさを1枚に収める。斜度の急な場所におり足元が悪く、「ブレちゃうかな」と思ってシャッターを切ったが根から葉まで細かく描写されていた。体感的にはOM-D E-M1 Mark IIIに比べ合成成功率も上がっている気がする。
西表島のジャングル。このように視覚的にごちゃごちゃしたような被写体でも、5000万画素あれば精細に写すことができる。5000万画素手持ちハイレゾショット機能で撮影した写真はプリントするのが楽しみになる。
普段あまり使ったことのないライブコンポジット機能だが、簡単な設定でヤエヤマヒメボタルの光跡を撮ることができた。OM-1ではライブコンポジット機能使用時にも手ぶれ補正が対応となったので、手持ちでの撮影も可能となった。
さまざまな条件で高いパフォーマンスを発揮してくれたOM-1だが、これ以外にも進化ポイントをあげればキリがない。秒間120枚の高速な静音連写も可能になったし、動画も4K/60Pで撮れる。手ぶれ補正の最大補正能力は最大8段分となり、UIの使い勝手も向上した。
そんなOM-1のボディーは約599g。僕のお気に入りのM.ZUIKO DIGITA ED 12-40mm F2.8 PROはもちろん、先日発売されたM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROとの組み合わせも1kgを切る重さだ。カメラ業界の中でも群を抜いた機動性はそのままに、性能だけが遥かにグレードアップしたというわけだ。今までは「撮ろう」と思うことのなかった被写体と、「撮れる」と思わなかった時間帯。そのどちらも「撮ってみたらどうなるかな」と好奇心をそそられた、というのがこのカメラを数ヶ月使った感想だ。ベテランかアマチュアかを問わず、誰しもをワクワクさせるカメラ。OM-1は、時間帯も被写体も、更に自由な撮影へ導いてくれる。
※ 35mm判換算 焦点距離
※ 全ての写真を手持ちで撮影しています
新開発のデバイスと最先端のデジタル技術を結集し、センサーサイズの常識を覆す高画質を実現。また従来機種を大きく上回るAFや連写性能など、基本性能も大幅に進化した「OM SYSTEM」カメラのフラッグシップモデルです。
風景やドキュメンタリーの撮影に威力を発揮する、開放F1.2の大口径広角レンズ。特殊レンズを贅沢に使用することで、美しいボケと解像力を両立しています。
防塵・防滴・耐低温性能を備えた、ズーム全域F2.8の大口径レンズです。フォーサーズレンズのハイグレード(HG)シリーズを超える光学性能を実現しました。「MFクラッチ(マニュアルフォーカス・クラッチ)機構」や、全域で撮像面から20cmまでよれるマクロ性能など、充実の機能を搭載しています。