写真家 秦 達夫 × OM SYSTEM OM-1 Mark II ~尖ることで現れる至髙のレンズワーク。それを支えるOM-1 Mark II~

掲載日:2024年08月23日

掲載日:2024年08月23日

撮影に2本だけ持って行くとしたらどんなレンズ?

僕の撮影はレンズを多用する。なぜなら焦点距離の数だけ表現力があると考えているからだ。レンズワークが生命線なのだ。そこにアングルやポジションなどフットワークが加味されるから表現力は無限に広がって行く。そんな僕に「レンズ2本だけ持って行くならば?」と質問されたら迷わず「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」と答える。その理由は3つある。1つ目は「画角」二つ目は「開放F値F2.8」3つ目は「最短撮影距離が短い」である。

写真家 秦 達夫

今回の秦 達夫さんのメイン機材

デジタル一眼カメラ OM-1 Mark II
デジタル一眼カメラ OM-1 Mark II 詳しくはこちら

尖る事には理由がある

「尖る」とはどういう意味なのか?M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROは14-28mmと80mm-300mm(35mm判換算)の焦点距離を保有する。28mm~80mm(35mm判換算)の画角が抜けている事になる。だから3本目にM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡを持てば14mm~300mmの画角を手に入れたことになる。小型軽量堅牢なM.ZUIKO DIGITALレンズならばその選択もアリだと思う。しかし、標準ズームレンズはレンズワーク効果を引き出すことが難しいレンズ。標準ズームレンズの名誉のために補足説明をするが、標準ズームレンズは広角の様な効果を生み出し望遠の様な描写も作り出すことができる。だから1本だけ持つとするならばM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡとなるのだが、それはそれで難しいテクニックが必要になるのでまた別の機会に説明したいと思う。話をもとに戻すがレンズワークの特徴が顕著に表れる2本のレンズ限定で撮影をすることでレンズワークの特徴に特化した撮影が自然とできるようになるのだ。

レンズの特徴を知り、使い方を知る
M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO

114°~75°の画角を持つ本レンズは画角が広い。いわゆる超広角レンズというやつだ。撮影時、見た目と違った印象の画像がファインダーに飛び込んで来るので撮影していてとても楽しい。しかし、そこに落とし穴が隠されている。こんな経験をしたユーザーさんも居るのではないだろうか?楽しく撮影していたがPCモニターで確認すると何を撮ったのかわからない。これが広角レンズの落とし穴。そこで僕からは「広角レンズほど狭く撮る」を提案したい。これは望遠側で撮影するという意味ではなく、撮りたい被写体だけをファインダーに収めるということだ。被写体に近づいて撮るとも言える。これを意識し練習をして欲しい。そのためには撮りたい被写体は何かと自問自答する必要がある。それができるようになると自然とレンズの特徴が写真の中に反映されてくる。

桜と境内と人物を配置したが、主題が伝わらない。

桜だけが全面に写る様に撮影している。広角特有の広がりのある描写が桜の個性を強調してくれる。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

14mm相当*/1/3200秒/F2.8/ISO 200/±0.0 EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

左上に遮光するための添えた手が入り込んでいる。下部には奥の林や電線が入ってしまった。超広角レンズはファインダーの四隅をよく確認すること。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

14mm相当*/1/1250秒/F5.6/ISO 200/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

ズームリングを望遠側に少し回転させ、焦点距離を14mm相当*から16mm相当*に変更している。これがズームレンズの一番良いポイント。四隅の縁(ふち)部分を綺麗にすることはとても重要。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

16mm相当*/1/1250秒/F5.6/ISO 200/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

レンズの特徴を知り、使い方を知る
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

本レンズの特徴は長焦点距離&開放絞り値(F2.8)が作り出すボケにある。ここで豆知識として覚えて欲しいのだが、闇雲に開放絞り値で撮影してもボケ効果を引き出す結果に繋がらない。そこでこの3つを意識して欲しい。
1つ目:被写体に近づく。
2つ目:バックスペースがある。
3つ目:AF測距点をシングルターゲットに設定し被写体に合わせる。

2つ目は被写体の後ろに広い空間がある事を意味し、3つ目の意図としては、ピントを合わせた後にカメラを動かして構図を決める手法(フォーカスロック)では、ピント面がズレてしまい正確なピントで撮影できない事があるからだ。時にはマニュアルフォーカスでピントを合わせることが必要で、それだけ被写界深度も浅いためシビアな撮影が求められる。これらを実践し開放絞り値F2.8で撮影する。しかも本レンズは300mm相当*の焦点距離がありながら最短撮影距離(撮像面からの距離)が70cmだ。この領域から作り出されるボケ描写はとても美しい。

ボケの中に花が浮かび上がっていることがわかる。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/4000秒/F2.8/ISO 400/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

注目して欲しい事はピントの合っている白い花。背景の白い花と重なっているが花の輪郭がシャープに浮かび上がっている事がわかる。このことから解像度とコントラスト表現が得意なレンズである事がわかる。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/3200秒/F2.8/ISO 400/+0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

木漏れ日を背景に配置し玉ボケを演出。ピント位置は蕊(しべ)に合わせるようにしている。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/40秒/F2.8/ISO 800/+1.7EV/Aモード
ホワイトバランス:日陰(7500K) 仕上がり:Vivid

OM-1 Mark IIとの組み合わせが新しい表現へと繋がって行く
コンピテーショナル フォトグラフィ

小型軽量、防塵・防滴、手ぶれ補正強化、耐低温設計、そして作品作りに必要な高い解像力。これらがOM SYSTEMカメラのストロングポイントなのだが、OM-1 Mark IIでもう一つお伝えしたいポイントはコンピュテーショナル フォトグラフィである。メニュー内操作にて様々な表現を楽しむ事ができる。コンピュテーショナル フォトグラフィはレンズによって実行できない機能があるが、今回紹介している2本のレンズは全て実行可能だ。

①ライブコンポジット機能
カメラ内比較明合成で星の軌跡を写し出す機能。少し補足すると星の写真を連続撮影しカメラ内にて合成、点を線として表現する。1度露光した光は再記録されないので街明かりなどがオーバーにならない。星は動き続けるので記録され続けるのだ。撮影中ファインダーやモニターで星の軌跡が伸びていくのを確認することができるので、見ているだけでも楽しい機能だ。

黎明の時間に長時間露光を行うと露出オーバーになってしまうが、ライブコンポジットを日の出50分前までに終了させると空も程よい濃度の作品となる。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

22mm相当*/5秒/F2.8/ISO 3200/±0.0EV
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid
ライブコンポジット(比較明合成576コマ)

星を点として表現する基本露出設定は絞り値F2.8+シャッター速度10秒以内+ISO感度1600-3200。鳥居など地表物にピントを合わせると星がややボケる。ボケることで星が膨らんで写り存在感のある描写となる。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

14mm相当*/10秒/F2.8/ISO 3200/±0.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

②深度合成機能
背景をぼかした撮影をしたいが花全体にピントが欲しい時に使用する機能。絞り値F16やF22等で撮影すれば花全体を被写界深度に納める事ができるが、背景まで浮かび上がってしまうため絞り込んでの撮影はできれば避けたいところだ。1stレリーズで継続的に撮影するので三脚を使用することをお勧めしている。

深度合成機能にて撮影(9枚を合成) 背景をぼかしながら花全体を被写界深度の中に納める事ができた。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/1250秒/F2.8/ISO 200/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid 深度合成

③ライブND機能
簡単に説明するとシャッター速度を遅くすることができる機能。読み方はライブエヌディ。番号で管理されていてOM-1 Mark IIは「ND2 / ND4 / ND8 / ND16 / ND32 / ND64 / ND128」と7段階あり数字が大きいほどシャッター速度を遅くする事ができる。ND128はなんと7EVもシャッター速度を遅くする事ができるのだ。つまりシャッター速度1/125秒のときにND128を使用すると1秒相当のシャッター速度で撮影することができるのだ。撮影モードが限定されておりS(シャッター優先)とM(マニュアル露出)モードで使用可、ISO感度は800まで。A(絞り優先)モードで撮影している人は注意が必要だ。

とても天気が良い日。シャッター速度は速く、通常の撮影設定では絹の様な描写(スローシャッター)では撮影することができない状況

ライブND128を使用。太陽が照りつける中での撮影、滝の描写を絹の様に写し出す事ができた。日差しの影響でコントラストが高く、薄暗いときのスロー表現よりもメリハリがあり印象が強い写真になる。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

14mm相当*/1.3秒/F8.0/ISO 200/-0.7EV/Sモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid ライブND:ND128

④ライブGND(グラデーションND)機能
GNDとはGradationNeutralDensity(グラデーション・ニュートラル・デンシティー)。実物のハーフNDフィルターのような効果を持つカメラ内フィルター。ライブND機能のハーフ版と考えてよい。効果が得られるハーフラインはダイヤルで稼働し傾きも自由に変更できる。GND段数は番号で管理されて「ND2 / ND4 / ND8」とあり、フィルタータイプは「Soft / Medium / Hard」から選ぶ事ができる。実物のハーフNDフィルターを持たずに行動できるので荷物の軽減にもなるし、他の実物のフィルターとの併用が簡単にできることも嬉しい。

通常撮影。ライブGND未使用カットは空がややオーバーになり地表物がアンダーになっている事がわかる。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

18mm相当*/1/320秒/F8.0/ISO 200/±0.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

早朝の斜光の中の富士山。ライブGND(ND04/Soft)を使用したカットは青空のグラデーションと大地の霞が浮かび上がり早朝のイメージを強く感じる。

OM-1 Mark II + ED 7-14mm F2.8 PRO

18mm相当*/1/100秒/F8.0/ISO 200/±0.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid ライブGND(ND04/Soft)

⑤ハイレゾショット機能
ハイレゾショット機能とは簡単説明すると画素数を増幅してくれるモードである。従来の約2,000万画素のデータが、最大で※約8000万画素相当として記録される。操作は簡単でハイレゾショット設定をONにしてワンレリーズ(1回シャッターボタンを押すの意味)すると、複数枚連続撮影を行いカメラ内合成にて画素数が増幅する。ハイレゾショットには三脚ハイレゾショット(約8,000万画素相当)と手持ちハイレゾショット(約5,000万画素相当)がある。さらにOM-1 Mark IIからは記録ビット数をRAW12bitとRAW14bitから選ぶ事ができる。解像感が欲しい被写体に出逢えた時に使用すると良い。僕の場合は富士山のような大きな被写体や岩や木肌など質感描写を重視するときに使用している。

通常撮影

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/25秒/F8.0/ISO 400/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

富士山の山小屋の窓まで認識出来る、約8,000万画素相当の超解像度で撮影出来ている事がわかる。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/25秒/F8.0/ISO 400/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid 三脚ハイレゾショット(14bit)

通常撮影

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/80秒/F6.3/ISO 200/-1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

三脚を出すまでもないが光に浮かび上がる森には繊細な描写が必要と考えて、手持ちハイレゾショットで撮影。約5,000万画素相当のおかげで、日の当たった樹々の1本1本が緻密に描写されている。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

300mm相当*/1/80秒/F6.3/ISO 200/-1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid 手持ちハイレゾショット(12bit)

パラパラ漫画のように写真を動かしてみる(タイムラプス機能)

インターバル撮影の延長線上にある機能。通称タイムラプスだ。メニュー内操作で簡単に設定できる。4K動画も生成できるのが嬉しい。僕の場合は夕景撮影など1カ所に長い時間滞在するときや野外でご飯を作って食べる時にセッティングすることが多い。静止画と異なり、今見ている風景がどのように変化していくか予想して構図を決める必要がある。ここが難しいが先を読む感が養われるので積極的にトライして欲しい。注意点は必ずフォーカス設定をMF(マニュアルフォーカス)で撮影すること。撮影モードは何でも良いが、僕はPモードもしくはAモードをおすすめしている。ISO感度はAuto。バッテリーとカード容量の確認をおこたらないようにしたい。

◎カメラチェックポイント一覧
・ピントを合わせたらMFに切り替える
・撮影モードはPモードor Aモード(Pがおすすめ)
・ISO感度はAuto
・三脚の各部締め付け確認
・露光中にレンズが曇っていないか確認
・ピント&ズームリングはテープで固定する
・バッテリー&カード容量の確認

◎タイムラプス被写体別インターバル間隔の目安(秦流)
雲など自然物は20秒から30秒間隔
人物が入る場合は 5秒から10秒

光芒がゆっくり左から右に流れていく様子がわかったのでタイムラプスで撮影。メニューのインターバル撮影設定内にある「露出平均化」もONに設定し露出のバラツキを抑えている。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

タイムラプス撮影

まとめ

M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO とM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROのM.ZUIKO PROシリーズの圧倒的な信頼感や、コンピュテーショナル フォトグラフィを代表とした個性豊かなOM SYSTEM OM-1 Mark IIの機能をフルに活用できる点など、まだまだ話し足りない事が沢山ある。
ライブNDやライブGND機能もカメラ内にあるため、機材の節約や軽量化もできるので、是非参考にして欲しい。

*35mm 判換算値

記事内で使用した機材

秦 達夫

長野県飯田市遠山郷(1970年4月20日生まれ)。自動車販売会社・バイクショップに勤務。
後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め自分の可能性を感じ写真家を志す。
写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。故郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第八回藤本四八写真賞受賞。同タイトルの写真集を信濃毎日新聞社から出版。
写真集『山岳島_屋久島』『RainyDays屋久島』『Traces of Yakushima』
エッセイ『雨のち雨ところによっても雨_屋久島物語』他多数。
小説家・新田次郎氏『孤高の人』の加藤文太郎に共感し、『アラスカ物語』のフランク安田を尊敬している。
日本写真家協会会員・日本写真協会会員・Foxfireフィールドスタッフ
日本写真芸術専門学校講師