写真家 秦 達夫 × OM SYSTEM OM-1 Mark II ~高倍率ズームを使い熟して山風景を楽しもう~

掲載日:2024年08月02日

掲載日:2024年08月02日

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とOM-1 Mark IIが作り出す世界

もはやマクロレンズの表現領域を手に入れたレンズと僕は表したい。兎に角、始めにスペックを見て欲しい。

写真家 秦 達夫

今回の秦 達夫さんのメイン機材

デジタル一眼カメラ OM-1 Mark II
デジタル一眼カメラ OM-1 Mark II 詳しくはこちら

望遠側で焦点距離400mm相当*でセンサー面から0.7mまで被写体に近づいて撮影できてしまうのだ。もう少しスペックを読み解くと望遠側で最大撮影倍率が0.46倍相当*となる。マクロレンズと同等とまでは言わないが、400mm相当*の焦点距離が作り出すボケ効果を考えるとマクロレンズの守備範囲をカバーしたレンズだと言ってもよいと思う。この辺りは後の作例写真を使って詳しくお話ししたいと思う。

本レンズの焦点カバー域は12-200mmの焦点距離を有しており35mm判換算では24mm~400mm相当をカバーすることになる。画角は84°(広角)~6.2°(望遠)となる。倍率を数字で表すと16.6倍となる。特殊な撮影でなければ、このレンズ1本で山撮影は充分だと言っても良いだろう。しかし、使い熟(こな)すと言う意味では少し知識と経験が必要になる。そんな事を踏まえて解説をしていこうと思う。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROとの比較

市販のカメラホルダーを使うとショルダーハーネスにカメラを装着することができる。

このレンズを使い熟すためのポイント

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3は名前に記されているように24-400mm相当*の焦点距離をカバーしており、広い風景から遠くのものまでアップで撮影できる。下記の作例を見てもらっても一目瞭然だろう。広い風景の中にポツンとある富士山がレンズ交換をせずにズームリングを回転させるだけでこんなにも大きく撮影できてしまうのだ。これだけでも充分このレンズの凄さが分かるが、実はこの考え方では本当の意味でM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3を使い熟すようにはならない。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

24mm相当*/1/160秒/F8.0/ISO 200/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

400mm*/1/100秒/F8.0/ISO 200/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

次に下記の作例①と②を見比べて欲しい。一見同じ石仏を撮影しているように見えるが背景に映り込む面積が異なる事が分かる。①は焦点距離を広角側にセットし近づいて撮影しており②は望遠側で被写体から離れて撮影している。焦点距離と撮影距離で背景描写が異なり写真の印象が大きく変わることになる。広角側で近づいて撮影することで背景が沢山写り込むようになり臨場感が生まれる。逆に望遠側で離れて撮影すると背景面積は少なくなりボケ効果も大きくなって行く。撮影データを見比べても①は絞りF5.6、②は絞りF6.1。通常F値が小さいと被写界深度が浅くなりボケが増すのだがF値が大きい②の作例の方がボケは強くなっている。ここからも長焦点になるとボケ効果が大きくなる事が読み取れる。

作例① 広角側での撮影

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

24mm相当*/1/80秒/F5.6/ISO 200/+0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

作例② 望遠側での撮影

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

160mm相当*/1/60秒/F6.1/ISO 200/+0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

もはやマクロレンズ

タンポポの綿毛を焦点距離400mm相当*最短撮影距離近辺で撮影。このようにマクロ的な表現を簡単に撮影できてしまう。そこでカメラの設定を少し解説したいと思う。絞りは望遠端の開放F6.3で良いがISO感度はAuto。手ぶれ補正がONになっている。望遠接写撮影は些細なブレが画質に影響する。

綿毛の1本1本が綺麗に写し出されているのがわかる。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

400mm相当*/1/400秒/F6.3/ISO 200/+0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

前ボケとなる被写体をレンズ間近に配置して撮影。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

400mm相当*/1/80秒/F6.3/ISO 200/+0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

望遠で撮影してみよう

遠くのものを大きく撮影するために望遠レンズが欲しいと思うユーザーも多いと思うが、それだけでは勿体ない。重なりを意識したフレーミングで肉眼では見ることができない世界を楽しみたい。長焦点のレンズの特徴として圧縮効果がある。前後の被写体がくっついて見える現象である。この現象を使い熟す事でワンランク上の表現が可能となるのだ。

麦畑を畦の重なりを意識したフレーミング。圧縮効果で麦の重なりとボリュームが増して写る。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

160mm相当*/1/640秒/F8.0/ISO 200/±0.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

近いものを望遠でよりアップにすると迫力が増す。片目を意識し背景が入らないくらいアップにすると良い。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

200mm相当*/1/30秒/F8.0/ISO 200/±0.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

広角を使い熟そう

広い画角と書いて広角。ご存じの通り広く写るレンズの事を言うが漠然と撮影しても広さを感じる写真にはならない。そこで意識して欲しいのが前景と背景。特に前景が重要である。と言っても難しく考える事はなく、前景(足下に近い)に特徴的なものを配置して遠くの風景をフレーミングすれば良い。前景を意識するだけで写真は大きく変わって行く。

ケルンを左端手前に配置し右奥に山並みをフレーミングする。これだけで空間の広がりが生まれる。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

24mm相当*/1/250秒/F11/ISO 200/-1.7EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

立ち枯れした樹々を前景に黎明の空を大胆にフレーミング。空だけでは空間の広がりの印象は生まれない。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

24mm相当*/1/1.6秒/F8.0/ISO 400/-1.7EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

手前の尾根を入れたショットと入れていないショット。広さの印象が大きく変わることがわかる。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

150mm相当*/1/13秒/F8.0/ISO 800/-1.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

74mm相当*/1/5秒/F8.0/ISO 1600/-0.7EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

番外編!! ちょっと息抜き。難しく考えず好きなように撮る!

望遠・広角の使い熟しポイントを述べてきたが、難しい事を考えると撮影自体が楽しめなくなる。折角自由な画角が選べるM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3を手にしたなら理屈を抜きに好きなように撮影してみてはどうだろうか。写真は道徳に反しなければ自由で良いはずである。そこで1つ提案がある。好きな部分だけをフレーミングするように心掛けよう。これだけで写真は大きく変わる。

1.撮ろうと思った被写体の好きな部分だけをアップで撮影する。
2.四隅を綺麗に整える。

この2つを意識するだけで写真は良くなる。

滝の流れの勢いがある部分だけフレーミングしてみた。これだけで迫力のある写真になる。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

248mm相当*/1/1000秒/F11/ISO 400/-1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

尾根を流れる雲だけをフレーミング。ストレートに良いと思った場所だけを素直に撮る事が最も重要。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

248mm相当*/1/125秒/F8.0/ISO 200/-1.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

光を探し、光を撮る

写真はライティングがとても重要だが自然風景の場合、スタジオ撮影のようにストロボを組むことができない。そこで意識して欲しい事は「逆光」、自分に向かって来る光だ。朝や夕方が最もフォトジェニックな光に出会える時間と心得て欲しい。

早朝は低い位置から光が差し込んでくる。そこを狙って撮影。カメラを花の高さに構えることがコツ。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

400mm相当*/1/125秒/F6.3/ISO 200/+0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

出会う事が難易度の高い被写体だが、時としてこのような状況に出会うことがある。標高の高い樹林帯で見掛かる事が多いので探してみよう。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

46mm相当*/1/40秒/F8.0/ISO 200/-0.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

どんな時にもシャッターチャンスはある

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とOM-1 Mark IIの組み合わせは無敵と言っても過言では無いと僕は思っている。何故なら16.6倍相当の撮影ができ、マクロ的な表現も可能な小型軽量システムで、さらには防塵・防滴性能も備わった組み合わせなので、撮影場所や被写体を選ばないのだ。それは旅行先の食事や散歩などいつでもどこでも撮影できる優れた相棒だ。

室内は意外と暗いことが多いので窓際の席に座ると良い。ISO感度は高めに設定(Autoの設定でも良い)。露出補正はプラス1前後。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

40mm相当*/1/2秒/F8.0/ISO 800/+1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

白く反射するテーブル面を背景に重ね蕎麦をアップで撮影してみる。海苔はふやけやすいので手際よく撮影したい。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

140mm相当*/1/2秒/F8.0/ISO 800/+1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

朝日の撮影の合間のショット。片足をあげる事で影に動きが生まれる。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

36mm相当*/1/25秒/F8.0/ISO 200/-1.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

山は山を撮らずに雲を撮る

小型軽量であるM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とOM-1 Mark IIの組み合わせは山撮影のベストパートナー。しかし、山をモチーフとしフレーミングを考えても思うような撮影ができない事が多い。そこで提案だが、山撮影は雲を撮る事を意識してみよう。雲は表情が豊かで変化がある。自然とフォトジェニックな瞬間が生まれる事が多い。

天候は下り坂。山を眺めて居ると数分の間ではあったが雲間から山が見え始めた。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

100mm相当*/1/4000秒/F8.0/ISO 200/-2.0EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

ライブGND機能

コンピュテーショナル フォトグラフィの1つであるライブGND機能についてお話しをしよう。簡単な話、この機能はハーフNDフィルターのような効果がカメラ内に収まっており、メニュー操作だけでその効果が得られる。斜光や逆光状態で山風景を撮影すると空が明るく写ってしまうので、その部分を暗く写す事ができるのだ。GND段数は番号で管理されて「ND2 / ND4 / ND8」とあり、フィルタータイプは「Soft / Medium / Hard」から選ぶ事ができる。

通常撮影(GNDフィルターなし)
山の向こうに太陽があり斜光が雲を照らしている。空が明るく描写されてしまう。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

50mm相当*/1/500秒/F8.0/ISO 200/-1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid

GNDフィルターあり
GND:ND02,Mediumを使用。トーンや雲のグラデーションが浮かび上がっている。

OM-1 Mark II + ED 12-200mm F3.5-6.3

46mm相当*/1/500秒/F8.0/ISO 200/-1.3EV/Aモード
ホワイトバランス:晴天 仕上がり:Vivid ライブGND(ND02/Medium)

まとめ

いかがでしたでしょうか。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3は望遠側で被写体を切り取るような圧縮効果の表現から、マクロレンズに近い接写表現にいたるまで、焦点距離以上に本レンズの撮影領域が広い事が伺えたと思う。さらにOM-1 Mark IIと組み合わせる事で、防塵・防滴性能が備わり、手ぶれ補正による撮影の安定感や、山風景での光を取り入れた撮影表現が可能になる。OM SYSTEMのカメラをお持ちの方は是非、この唯一無二のレンズを体験し、そして使い熟してほしい。

*35mm 判換算値

記事内で使用した機材

秦 達夫

長野県飯田市遠山郷(1970年4月20日生まれ)。自動車販売会社・バイクショップに勤務。
後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め自分の可能性を感じ写真家を志す。
写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。故郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第八回藤本四八写真賞受賞。同タイトルの写真集を信濃毎日新聞社から出版。
写真集『山岳島_屋久島』『RainyDays屋久島』『Traces of Yakushima』
エッセイ『雨のち雨ところによっても雨_屋久島物語』他多数。
小説家・新田次郎氏『孤高の人』の加藤文太郎に共感し、『アラスカ物語』のフランク安田を尊敬している。
日本写真家協会会員・日本写真協会会員・Foxfireフィールドスタッフ
日本写真芸術専門学校講師