写真家 菅原 貴徳 × M.ZUIKO DIGITAL
ED 50-200mm F2.8 IS PRO
~もう一つの”白レンズ”との野鳥撮影旅~

掲載日:2025年09月10日

掲載日:2025年09月10日

もう一つの最高峰レンズ、登場

2025年2月に更新されたレンズロードマップに「白い望遠ズームレンズ」を見つけ驚いた方も多かったことだろう。詳細なスペックは明かされておらず、画像から推測するしかなかったことも、ユーザーの興味を引く要因となった。あれから半年、満を持して発表されたのがM.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROである。

一般的に、白い鏡筒は、「最高峰」と称するレンズに施される特別な塗装だ。PROレンズの中でも特別な製品であるという証であり、これまではM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROにのみ採用されていたものだ。今回、M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROにも白い塗装が採用され、本レンズに対するメーカーの強い覚悟を感じることができる。

筆者はここ数ヶ月、国内外での取材で本レンズを使用してきた。折しも北欧での取材を控え、明るい望遠ズームを待望していたタイミングであり、活躍するシーンをイメージしながら、ワクワクした気持ちでパッキングをしたのを記憶している。それぞれの取材で撮影した作品をご覧いただきながら、フィールドでの活躍ぶりをイメージしていただけたらと思う。

1本で複数分の役をこなす便利で高品質な望遠ズームレンズ

本レンズを使用しての最初の取材は、春の渡りの時期、日本でのことだった。基本的に、野鳥撮影では焦点距離が長いほど撮影チャンスは多くなると思っている。特に日本においては、警戒心が強い鳥が多いので、大きく写そうと無闇に近づくよりも、超望遠レンズの力を借りて遠くのものを引き寄せた方が鳥も落ち着くし、与えてしまう負担も軽減できると考えているからだ。

しかし、作品作りの観点から言えば、鳥のアップだけでなく周囲の様子を取り込みたい場面はある。時にはうまくアプローチをすれば、怖がらせずに鳥に近づける場面もあるし、それを実現するための観察や工夫をするのも一つの楽しみだ。そのような時に、望遠ズームED 50-200mm F2.8 IS PROは欠かせない存在になる。

ED 50-200mm F2.8 IS PROは、テレコンバーターMC-14またはMC-20を使用することで、焦点距離をそれぞれ1.4倍または2倍に伸ばすことが可能だ。本レンズの焦点距離は100-400mm相当*であるが、各テレコンバーター使用時の焦点距離は140-560mm F4.0相当*、または200-800mm F5.6相当*になる。もちろん、5軸シンクロ手ぶれ補正にも対応し、OM-1 Mark IIとの組み合わせでは最大7.0段分[1]の補正効果が得られる。

一般に、テレコンバーターには「足りない焦点距離を伸ばすために使う」というイメージがあるかもしれないが、国内での野鳥撮影がメインとなるのであれば、テレコンバーターを常時装着しておきながら、明るさや、より高速なAF(オートフォーカス)が必要なシーンで取り外すという考え方もできる。このことは、テレコンバーターの脱着によって、異なるキャラクターの野鳥撮影用レンズの役割を担うことができると言い換えることができる。

レンズ単体の絞り値がF2.8と明るく、高画質なので、テレコンバーターを使用しても実用的な明るさや良好な画質を得られる点も大きなポイント。唯一、MC-20装着時には、鳥がこちらに向かってくるような飛翔シーンでは若干のAF速度の低下影響を感じるかもしれない。しかし、そのほかの多くのシーンでは問題なく使えるし、テレコンバーターMC-14に関しては、飛翔撮影でも着けていることを感じない程だ。

公園の池を泳ぐコガモを、カメラボディーのバリアングル液晶を使って鳥の目線の高さから撮影した。前後の大きなボケと、PROレンズならではのシャープさが相まって、自然と鳥に目が引き寄せられるような心地よい描写となった。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/1250秒 F2.8 ISO 400

波打ち際で採餌していたミユビシギをしゃがんで待ち伏せた。
こちらも鳥の目線の高さから撮影したもので、押し寄せる波や周囲の個体が背景に入る、やや広角気味の構図ながらも、メインの個体が浮き上がり、奥行きを感じる作品となった。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/8000秒 F2.8 ISO 200

干潟に降り立つシギ・チドリの群れ。
視野いっぱいに広がる群れの迫力が印象的だったので、ファインダーで追いながら、ズーム調整して撮影した。インナーズームなので、ズームしても重心の変化がない。また絞りF2.8の明るさがあると気持ちよく高速シャッターを切れる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

264mm相当* Mモード 1/5000秒 F2.8 ISO 200

小船の上から撮影したオオミズナギドリ。
テレコンバーターMC-14を装着しているが、こちらに飛んでくるシーンでもAF速度に不足はなかった。波の影響で常に揺れている船上では、小型軽量で取り回しの良い機材が重宝する。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-14

560mm相当* Mモード 1/3200秒 F4.0 ISO 400

テレコンバーターMC-20を使い撮影したジョウビタキ。
芽吹きの季節を迎え、林内で小声で囀っていた。小鳥を大きく写すためには焦点距離800mmあるとチャンスが増える。2倍のテレコンバーターMC-20を装着しても絞り開放値がF5.6という明るさと高画質が確保できるので、常用も選択肢になる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

800mm相当* Mモード 1/2000秒 F5.6 ISO 1600

外観やボタン・スイッチ類の配置はM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROを踏襲している。フォーカスリングに関しても同様で、微調整のしやすいタッチ感だ。

白い塗装はレンズ鏡筒内外の温度上昇を抑える機能上の利点がある。焦点距離が長くなるほどより高いレンズ精度が求められる中、熱による膨張の影響さえも無視できないレベルだそうだ。今回のED 50-200mm F2.8 IS PROにしても、単体で焦点距離400mm相当*、テレコンバーターMC-20装着で800mm相当*までカバーするズームレンズなので、あらゆる環境下での使用を想定して設計されていることが窺える。

あらゆる環境下、という意味では、防塵・防滴性能も見逃せないポイント。もはや説明がいらないほどOM SYSTEMの特徴として認知されているが、本レンズもIP53相当の高い防塵・防滴性能を有している。前玉にはフッ素コーティングも施され、水滴や汚れがつきにくく設計されており、雨や雪の中でも安心だ。

雪の日に撮影したカワセミ。
頭部に体温で溶けかけた雪が乗っている。テレコンバーターを装着しても防塵・防滴性能は変わらないので、このような天候下でも防水カバーなど煩わしい装備を用意することなく撮影を続けられる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-14

560mm相当* Mモード 1/800秒 F4.0 ISO 1600 +0.7EV

M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROとともに北欧へ

さて、ここからは北欧での取材から作品を紹介したい。

取材の概略は、ノルウェーにて、ニシツノメドリやウミガラスなどの海鳥が暮らす離島を訪問するのがメイン。以前にも渡航経験のある場所で、近距離からの撮影ができる状況も想定され、いつものED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROだけでなく、景色を取り込める焦点距離のED 50-200mm F2.8 IS PROを使いたいイメージが明確だった。

メイン取材の前後に訪れたオスロやストックホルムでは、街を散策しながら、そこに暮らす鳥と街並みとを絡めた作品づくりをしたいと考えていた。実際、簡単に取り外し可能な三脚座を置いていけば、小さめのカバンにもすっぽりと収めることができるので、街歩きの最中に見つけた鳥をスナップするのにも最適だった。比較対象になるであろう、ED 40-150mm F2.8 PROよりは重量、サイズともに一回り大型だが、400mm F2.8mm相当*の撮影が可能なレンズとしては際立った軽量性だ。

上述の通り、ED 50-200mm F2.8 IS PROはテレコンバーターをうまく使うことで、野鳥撮影で便利な何通りものレンズ分の役割を担うことができる。身軽に海外での探鳥をしたいと願うユーザーにとっては、このレンズ1本+テレコンバーターというだけでも十分に旅を楽しめる選択肢になることと思う。

ノルウェーでの取材の目的の一つだったニシツノメドリ。
パフィンという英名も一般的で、美しい嘴や愛らしい動きもあって、バードウォッチャーのみならず観光客にも人気のある鳥だ。本レンズの最短撮影距離は0.78mなので、野鳥撮影においてピントが合わないという心配はない。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/1600秒 F2.8 ISO 200

オスロ郊外の公園で、芝生の上を歩き回っていたハイイロガン。
柔らかいボケ味で、穏やかな空気感を理想的に写しとってくれた。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

276mm相当* Mモード 1/800秒 F2.8 ISO 200

獲物の魚を追って飛び回っていたアジサシ。
ファインダーで動きを追いつつ、背景の街並みとの位置関係を確認しながら撮影した。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/2000秒 F2.8 ISO 3200

アジサシの撮影風景(※上の作品は夕方に撮影したもの)。
旧市街を散策中、水辺を舞う姿が目に入ったので、背中のカバンに忍ばせていた本レンズを取り出して撮影した。可搬性が良いので、どこでも作品作りを始められる

街外れの公園の木陰で休憩していると、アカゲラの幼鳥が飛んできた。
同じくカバンに忍ばせていたテレコンバーターMC-20を装着し撮影した。2倍テレコンを装着すれば焦点距離800mm相当*での撮影が可能になり、小鳥も撮影範囲内になる。手ぶれ補正の効きや、画質も良好。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

800mm相当* Mモード 1/500秒 F5.6 ISO 800

ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROと対をなすOM SYSTEMの最高峰レンズだけあって、基本的にOM-1 Mark IIのどの機能も制限なく使用できる。AF設定を「C-AF」で、ドライブ設定は連写中のピント追従が可能な「静音連写SH2」および「ProCapSH2」ともにOM-1やOM-1 Mark II における最高速度の50コマ/秒を実現しており、AFも高速だ。AF固定のドライブ設定「静音連写SH1」および「ProCapSH1」であれば最大120コマ/秒での撮影が可能だ。(OM-1は最新のファームウェアの更新が必要になります。)

ニシツノメドリの撮影ではED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROとED 50-200mm F2.8 IS PROを並べて、適宜入れ替えながら撮影した。近距離を飛ぶシーンについては、後者の方が動きを追いやすかった。レンズ自体が軽量であることはもちろん、鏡筒が細身なので、両眼視しながらの被写体追従が容易だったことも要因だろう。また、F2.8の開放F値の恩恵で、シャッタースピードをグングン上げられるのは思った以上に気持ちが良く、レンズの解像度を活かす上でも大きなメリットだった。

ただし、焦点距離400mm相当*で画面いっぱいにハト大〜カラス大の鳥を捉えようとすると、撮影距離が短くなるため、かなり高速でレンズを振る必要が出てくる。そのため、鳥の飛び方や速度によってはED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの方が追いやすい場合もあるだろう。この辺りは鳥の特性やサイズ、風など諸々の条件にもよるので、どちらのレンズが良いということではなく、よく見極めて使い分けたいところだ。

AFの挙動は高速で、飛翔も安定して追従する。特に、奥から手前方向に飛んでくるシーンでは高速なAFが求められるが、前後の連写シーンも含めてよく追従してくれた。絞りF2.8の明るさもあって高速シャッターも確保しやすいことも、描写のシャープさを際立たせる一因になる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/6400秒 F2.8 ISO 800

島での撮影状況。
ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、ED 50-200mm F2.8 IS PROを装着したOM-1 Mark IIを2台用意し、シーンに応じて使い分けた。

湖面に浮かぶ虫を見つけ、飛びかかるアカエリヒレアシシギ。
絶えず水面をくるくると泳ぎ回り、羽を開くタイミングも読めないので、ドライブ設定はAF追従が可能な「ProCapSH2」を使用して撮影した。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/4000秒 F2.8 ISO 200

120コマ/秒での撮影が可能な「ProCapSH1」を使い撮影したニシクロウタドリの飛び立ち。
テレコンバーターを使用せず、焦点距離400mm相当* 、絞り値をF2.8で撮影したことで、羽ばたきを写し止めるのに必須の1/5000秒もの高速なシャッタースピードを得るのも容易だった。このようなシーンでは、連写速度の速い「ProCapSH1」設定が最適だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/5000秒 F2.8 ISO 400

明るい望遠ズームが可能にすること

単体で100-400mm相当*という焦点距離は、やや広角気味で周囲の風景や生息環境を取り入れた撮影に最適。これまではED 40-150mm F2.8 PROに、適宜テレコンバーターMC-14を着けて対応してきた。また、望遠側の300-400mm相当*は、広角端が300mm相当のED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROと重複する。

これらのレンズとの比較で言えば、撮影者が光量をコントロールできない自然下での撮影では、レンズが1段以上明るいということだけでも大きなメリットになる。絞り値F2.8とF4.0では、同じシャッタースピードを得るのに必要なISO感度が一段分異なり、高速シャッターが必要な飛び立ちの撮影や、薄暮の時間帯にその恩恵を感じる。被写界深度も浅いため、主被写体以外をボカすといった表現上のコントロールも可能だ。

ISO200 ISO400 ISO800 ISO1600
絞りF2.8 1/1600秒 1/3200秒 1/6400秒 1/12800秒
絞りF4.0 1/800秒 1/1600秒 1/3200秒 1/6400秒
絞りF5.6 1/400秒 1/800秒 1/1600秒 1/3200秒

同じ露出を得るのに必要な絞りF値、ISO感度、シャッタースピードの組み合わせの例

なお、本稿の作品は全て、OM-1 Mark IIの「AI被写体認識AF(鳥)」「C-AF」の設定で行っている。風景を取り込み、鳥を小さめに撮影する場合のAFの使いこなしのコツは、AFターゲットの枠をLargeなどのやや小さめの設定にすること。また、Fnレバーを活用しAFターゲット枠の大小を瞬時に切り替えられるようにしておくと良い。さらに、街や光源などで背景が複雑になるときは、オートフォーカス時のレンズの動作範囲を設定できる「AFリミッター」も併用するとより効率よく撮影できるので、機能をよく理解して臨機応変に対応したい。

海を見下ろす崖に集うニシツノメドリの群れ。
「いっぱいいる」感を出すために、ズームを引いて撮影した。それでも1羽が浮き出て見えるのは、大口径レンズのF2.8のメリットだと言える。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

242mm相当* Mモード 1/1600秒 F2.8 ISO 200

この大きさでウミガラスの飛翔を確実に写し止めるには、最低でも1/4000秒以上のシャッタースピードが欲しい。絞りF2.8の明るさがあれば、曇り空でも無闇にISO感度を上げることなく、高速シャッターを確保できる。50コマ/秒の高速連写SH2を使うことで少ないチャンスをモノにできた。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/5000秒 F2.8 ISO 800

日没後の街を背景にアジサシが飛び回っていた。
絞りF2.8という明るさの恩恵でシャッタースピードを上げられたことで、飛翔もブレずに撮影できた。AFが背景の街灯に引っ張られないよう、AFリミッターを20~100mに設定して撮影した。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Mモード 1/800秒 F2.8 ISO 6400

おわりに

これまでの取材を通して、M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROには期待通りの好印象を持っている。現在、次の写真展の準備を進めているが、このレンズで撮影した作品を、大きなプリントでみなさんに見ていただける機会がいまから楽しみだ。

*35mm判換算値

[1]CIPA規格準拠。2軸加振時(Yaw/ Pitch) 半押し中手ぶれ補正:OFF、使用ボディー:OM-1 Mark II、焦点距離:200mm
5軸シンクロ手ぶれ補正対応ボディー: OM-1 Mark II、OM-1、OM-3、OM-5 Mark II、OM-5、OM-D E-M1X Firmware ver.2.0、OM-D E-M1 Mark III Firmware ver.1.2、OM-D E-M1 Mark II Firmware ver.3.4、OM-D E-M5 Mark III Firmware ver.1.3以降(2025年9月現在)

記事内で使用した機材

菅原 貴徳 プロフィール画像

菅原 貴徳

1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持ち、11歳で野鳥観察をはじめる。東京海洋大学、ノルウェー留学で海洋学を、名古屋大学大学院で海鳥の生態を学んだ後、写真家に。鳥たちの暮らしを追って、旅することをライフワークとする。野鳥観察・撮影に関するセミナーも多数開催。著書に写真集『木々と見る夢』 (青菁社)、『図解でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)などがある。2025年秋にOM SYSTEM GALLERYにて写真展を開催予定。