写真家 菅原 貴徳 × OM SYSTEM OM-1 Mark II ~進化したフラッグシップカメラとの野鳥撮影旅~

掲載日:2024年01月30日

掲載日:2024年01月30日

OM-1の登場以降、野鳥撮影におけるOM SYSTEMの存在感が格段に増したのを実感している。

フィールドを歩いていても、OM SYSTEMを見かける機会が増えた。実際、OM-1は非常に良くできたカメラで、野鳥撮影に必要な機能を備えたカメラだと感じている。

このたび登場したOM-1 Mark IIは、OM-1の各性能をブラッシュアップしたカメラだ。軍艦部のロゴを除けば、外観に一見大きな変化は見られないものの、フロントダイヤル、リアダイヤルがより指にかかりやすく、滑りにくくなっているなど、細かな改良を感じる。一方、内面の各性能を見ると、主に風景撮影で活躍しそうなライブGND(グラデーションND)機能に加えて、野鳥撮影においてはAI被写体認識AFでのAFロック機能の追加、高速連写機能の静音連写SH2連写の低速限界拡張、連写枚数の増加、それに伴うプロキャプチャーモードのプリ連写枚数の増加など、撮影に活用できる機能が拡充されている。国内外で撮影してきた作品をご覧いただきながら、順を追って説明していこう。

写真家 菅原 貴徳

今回の菅原 貴徳さんのメイン機材

デジタル一眼カメラ OM-1 Mark II
デジタル一眼カメラ OM-1 Mark II 詳しくはこちら

OM-1から引き継がれた高画質

OM-1 Mark IIはOM-1で定評のあった「裏面照射積層型 Live MOSセンサー」と画像処理エンジン「True Pic X」を採用しており、常用感度ISO25600の超高感度域、および低感度域の高画質を実現している。高い解像度が特徴のM.ZUIKO DIGITALレンズと組み合わせることで、その真価を実感できる。
高感度域の画質が優れていることは、林内にように光量が限られる環境のほか、薄暮の時間に活発になる鳥たちの撮影にも有利だ。被写体ぶれが大敵の野鳥撮影では、一般的な撮影よりも数段高くISO感度を設定するシーンも多いが、安心して感度を上げることができることで、手ぶれや被写体ぶれの心配をせずに撮影できるのは心強い。

海を渡るヒヨドリの群れ。動きを止めた作品にするためには、ISO感度を適切に設定して、高速シャッターが切れるように調整する必要がある。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

800mm相当*/1/3200秒/F4.5/ISO 640/静音連写SH2

夕暮れの港に佇むアオサギ。背景のグラデーションを見ると階調の豊かさがみて取れる。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

250mm相当*/1/4秒/F2.8/ISO 500/露出補正 +0.3EV

AI被写体認識AF(鳥)と新機能「被写体選択」設定

野鳥撮影の現場において、OM-1を見かけるシーンが増えたことの最大の要因はAI被写体認識AF(鳥)、いわゆる「鳥認識AF」の性能の高さだろう。画面の中から鳥を抽出し、AFの対象をカメラが判断してくれる機能だ。画面内における鳥のサイズが大きければ、自動で目にフォーカスしてくれるのだが、その性能はもちろんOM-1 Mark IIにも引き継がれている。本稿中のすべての写真はこの機能を使用して撮影しているのだが、様々な鳥の、飛翔を含む実に様々なシーンに対応していることがお分かりいただけると思う。
AFまわりにおいてOM-1から変化した主なポイントは、「被写体選択」機能の追加である。あらかじめ任意のボタンに割り当てておき、機能をONにすると、任意の鳥あるいは個体に狙いをロックする機能で、画面の中に複数の鳥がいる場合に有効だ。フォーカスする個体については、ダイヤルとの併用で変更することもできる。

撮影距離が近いと、鳥の「目」を認識して正確にフォーカスする。使用したM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROはM.ZUIKO DIGITALレンズの中でもずば抜けた解像度を誇るが、その画質も正確なAFがあってこそ生きる。

OM-1 Mark II + ED 300mm F4.0 IS PRO

600mm相当*/1/3200秒/F4.5/ISO 200/静音連写

群れが休む岩に降り立つアメリカオオアジサシ。新たに「被写体選択」機能が搭載されたことで、画面内に複数の鳥がいても、最初に狙った鳥を安定して追い続けるようになった。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

800mm相当*/1/2500秒/F4.5/ISO 250/連写

バッファメモリー増設による連続撮影枚数の増加と連写機能の拡充

SH連写は、OM-1で初搭載となったいわゆる「ブラックアウトフリー表示対応」連写のことで、連写中もファインダーで途切れず視認できる機能だ。静音連写SH1ではピントと露出が1コマ目に固定されるものの最大120コマ/秒の高速連写が可能。対する静音連写SH2は、最大50コマ/秒で連写中もAF/AEが追従するという特徴がある。
野鳥撮影では、主に静音連写SH2を使うことになるだろう。その静音連写SH2だが、OM-1では50コマ/秒または25コマ/秒から選択が可能だったのに対し、OM-1 MarkIIでは、16.7コマ/秒、12.5コマ/秒からも選択できるようになった。また、機能の性質上、シャッター速度の下限が決められているが、25コマ/秒以下の連写速度時、OM-1では1/320秒だったのに対し、OM-1 Mark IIでは1/160秒までシャッター速度を下げられるようになった。シャッター速度1段分の差だが、あえてシャッター速度を落とし、羽先をぶらすような表現への活用が期待できる。ユーザー自身が求める連写速度や、バッファとの兼ね合いを見て最適な速度を選択できる。

※高速連写 SH2 50コマ/秒設定時の使用可能なレンズは限定されます。詳細は製品ページでご確認ください。

高速連写時に有用な機能としては、バッファ容量の拡充も見逃せない。プロキャプチャーモード使用時に遡って撮影できるコマ数がOM-1では最大70コマだったのに対し、OM-1 Mark IIでは99コマに増加。これにより、躊躇なく連写をし続けられるシーンも増え、OM-1 Mark IIの連写機能をさらに活かせる。

静音連写SH2(25fpsで設定)で撮影したアオバトの飛翔。距離も近く、高速で飛翔する姿を追うので精一杯だったが、高速AFと高速連写の合わせ技で写し止めることができた。次から次へと群れが飛んでくる状況だったが、バッファ切れの心配なく、連写を続けることができた。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

800mm相当*/1/4000秒/F4.5/ISO 800/静音連写SH2

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

1000mm相当*/1/5000秒/F5.6/ISO 800/静音連写SH2

バッファ拡充の恩恵はプロキャプチャーモード使用時にも実感できる。例えば、ProCap SH1を使用し、120コマ/秒の速度で撮影した場合、OM-1では最大でシャッターボタン全押から約0.58秒遡れたのに対し、OM-1 Mark IIではより長く、約0.83秒遡れる。60コマ/秒の速度であれば、約1.7秒だ。これにより、小鳥の飛び立ちなど、プロキャプチャーモードを持ってしても高い集中力が要求されたシーンでも、連写速度を落とさないまま、より確実に写し取れるようになった。

虫を見つけ飛び立つエゾビタキをProCap SH1(120コマ/秒)で撮影した。遡れる時間が伸びたことで、従来よりも気持ちに余裕を持って撮影できるのを実感した。撮影した一連の写真を見ると、わずかな時間にも翼の形が大きく変化していることがわかる。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

1000mm相当*/1/5000秒/F5.6/ISO 800/プロキャプチャーSH1

新登場「M.ZUIKO DIGITAL​ ED 150-600mm F5.0-6.3 IS」​との相性

一般に、鳥たちは近づくことが難しいので、鳥の生活を妨げないためにも、超望遠レンズが必要となるシーンは多い。超望遠のM.ZUIKOレンズには、「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」のほか、「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」、「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」があるが、そこに新たに「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS」 が加わった。
M.ZUIKOシリーズ中、最長の焦点距離を持つことになる本レンズは、野鳥撮影においてよい選択肢になるだろう。撮影した作品からは、解像度の高さと、やわらかさが両立されている印象を受ける。色にじみも良好に補正されており、画面周辺の光量については、ズーム全域においてM.ZUIKO DIGITALレンズの中でも優れていると思う。
シンクロ手ぶれ補正にも対応し、焦点距離1200mm相当*の狭い画角でも、安定感のある手持ち撮影が可能。どの程度の低速シャッターが切れるか試してみたところ、なんと1/25秒での撮影も可能だった。光量が限られるシーンでの撮影に効果的なだけでなく、スローシャッターを活用した表現への活用が想定される。

夕方に撮影したイソヒヨドリ。特徴的な細かい模様までつぶさに観察できることからも、解像度の高さが見て取れるだろう。高倍率のズームレンズながら、画面周辺まで光量が保たれていることも好印象だ。

OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS

1200mm相当*/1/500秒/F6.3/ISO 400/静音連写SH2

テトラポッドに佇むクロサギを見つけ、波をブラしての表現を試みた。焦点距離1200mm相当*ながら、シャッター速度1/25秒での手持ち撮影に成功した。表現の幅が広がるのを実感した。

OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS

1200mm相当*/1/25秒/F10/ISO 200/静音連写

OM SYSTEM × 旅

OM SYSTEMは旅と相性の良いシステムだ。小型軽量でまとめやすいことで、移動の負担も軽減できる。飛行機で移動する際に機材も機内持ち込みできれば安心だ。筆者も、ここ2年のうちに6ヶ国で海外取材を行ったが、その移動のたびに、OM SYSTEMの利点を感じている。

取材旅では、メインレンズの「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」を中心に、中望遠レンズとして「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」、上記2本に付随して「M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14」および「M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20」、広角レンズとして「M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO」を中心としたシステムを組んでいる。そこに野鳥撮影に必須の双眼鏡を加え、取材内容や荷物の空き具合を見て、「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」や「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」などの特徴のある単焦点レンズを足す、というような感じ。レンズの一つ一つがコンパクトなので、あと1本多くレンズを持っていく、ということも容易なのだ。海外では日本よりも鳥が近いことも多く、実際この秋の取材では、「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」も多用した。

なお、屋外のレンズ交換時は、カメラ内に砂塵が入り込み、センサーに付着する恐れがあるが、ダストリダクションシステムに定評のあるOM SYSTEMなので、その心配は不要。電源をONするたびにゴミを落としてくれるので、撮影した画像にゴミが映ることはなかった。

湖の中程で休むアメリカシロペリカンは、テレコンバーターを使用して距離を縮めた。シンクロ手ぶれ補正のおかげで焦点距離1400mm相当*の手持ち撮影も安心だ。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO + MC-14

1400mm相当*/1/2500秒/F8.0/ISO 400/静音連写

夕方の波打ち際でたたずむアメリカオオアジサシの群れにそっと近づき、レンズがほぼ地面に接する高さから撮影した。中望遠域のレンズを使用することで、打ち寄せる波の曲線と、ほのかに染まった空を背景に入れて撮影することができた。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

220mm相当*/1/1000秒/F3.2/ISO 200/連写

海外で出会う鳥たちは、ハチドリやペリカンのように、日本のそれとは違う見た目や行動パターンを持つものも少なくない。事前のテストや練習ができない鳥たちでやや不安もあったが、AI被写体認識AF(鳥)はしっかりと認識して、いつもと変わらずフォーカスをしてくれた。
時間も限られ、再訪の機会もそうない海外取材では、ここまで述べてきたような作品作りに必要な能力はもとより、一期一会の鳥たちを確実に写せるという能力が強く求められる。常に持ち歩けて、雨雪にも負けず、慣れない土地での探鳥を邪魔しないコンパクトなOM SYSTEMだから出会え“写せた”と思える鳥たちがたくさんいる。どんなに優れた機材も、その真価を発揮するのは鳥に出会えてから。そのことこそが、筆者がOM SYSTEMを使う一番の理由だったりする。今後の旅も楽しみだ。

トリニダード・トバゴで出会ったチャゴシエメラルドハチドリ。花の蜜を求めて素早く飛び回り、一瞬ホバリングした時が撮影のチャンスになるが、その時間は1秒にも満たない。ファインダーに入れるのに精一杯であとはカメラ任せだが、正確に「鳥の目」に合焦していた。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

800mm相当*/1/2000秒/F4.5/ISO 400/静音連写

海面から飛び立つカッショクペリカン。大きな翼をダイナミックに動かすので、ズームを引いて画角を調整しつつ、静音連写SH2を活用して画面に収めた。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

560mm相当*/1/3200秒/F5.0/ISO 320/静音連写SH2

トリニダード・トバゴにて、木の隙間から覗き込んで撮影したエボシアリモズ。旅先での一期一会の出会いを確実に写しとれた。雨が降っても防塵・防滴性能(IP53対応)があるので機材を気にせずに撮影を続けられる。限られた時間を無駄にせずに済むのがありがたい。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

800mm相当*/1/125秒/F4.5/ISO 1600/-0.3 EV/静音連写

夜明け前の薄暗いフィールドで出会ったアナホリフクロウ。ISO感度6400で撮影したことで、夜行性の鳥らしく目が爛々と輝いている様子を明るく写すことができた。羽毛や足の質感もよく再現されていると思う。

OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

800mm相当*/1/320秒/F4.5/ISO 6400/-1.0 EV/静音連写

*35mm 判換算値

記事内で使用した機材

菅原 貴徳

菅原 貴徳

1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持ち、11歳で野鳥観察をはじめる。東京海洋大学、ノルウェー留学で海洋学を、名古屋大学大学院で海鳥の生態を学んだ後、写真家に。著書に写真集『木々と見る夢』 (青菁社)、『図解 でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)などがある。