写真家 佐藤 圭 × M.ZUIKO DIGITAL
ED 50-200mm F2.8 IS PRO
~自然風景から野生動物まで、美しいボケ表現を携えた望遠ズームレンズ~

掲載日:2025年12月5日

掲載日:2025年12月5日

はじめに

OM SYSTEMから、待望の望遠PROズームレンズが登場した。

【M.ZUIKO DIGITAL ED50-200mm F2.8 IS PRO】

35mm換算値100-400mmのズーム域でF2.8通しという唯一無二のレンズだ。
まず、驚かされたのは大口径望遠ズームレンズでありながら超小型軽量なところだ。レンズの重さは、なんと約1075g(三脚座なし)、長さは、22.5cm片手で軽々と持つことが出来るので、素早く動きまわる野生動物や野鳥の撮影においてアドバンテージになる。まさに「手持ちヨンニッパ」だ。300mm F2.8(サンニッパ)、400mm F2.8(ヨンニッパ)をカバーするズームレンズにして、この小型軽量化は革命だ!!
カラーはフラッグシップレンズM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROと同じ白となった。白の利点は、黒と比較して直射日光を浴びた時に熱をもちにくいのは、もちろんだが、遮熱塗装の中に赤外線を反射する層があるという。確かに炎天下で使用していてもレンズの熱を感じなかった。ブルーの帯もアクセントとなり、とてもクールだ。

第一章 春の息吹~エゾシカ~

このレンズを手にして、まず撮影に向かったのはエゾシカ撮影だ。
彼らは、基本的に夜行性で、早朝と夕暮れに活動する。なので、出会えるのは暗いシーンが多く、明るいレンズの出番なのだ。

夕暮れが迫るころ、雪解けが進む海岸線に出て来たエゾシカの群れ。
真ん中の大きな角を持った雄が群れの長で、彼を刺激しないように撮影するのが重要だ。彼が警戒音を出した途端に一斉に逃げてしまう。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/200秒 F2.8 ISO2000

月光とエゾシカ。
闇の中のエゾシカを月と一緒に捉えた。このようなシチュエーションは一瞬の勝負なので三脚を立てている暇はなく、手持ちでの撮影が多い。5軸シンクロ手ぶれ補正の本領発揮だ。F2.8とF値が明るいためISO感度を過度に上げることなくノイズを抑え、シャッター速度を稼ぐことが出来る。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/200秒 F2.8 ISO3200

夜明けのマジックアワーとエゾシカの群れ。空を広くあけ夜明けのグラデーションを表現し、エゾシカの群れを入れるため、広角側の50mmで撮影した。とっさに画角が変えられるズームレンズは撮影に幅を広げてくれる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/160秒 F2.8 ISO3200

こちらは、夕暮れのマジックアワー。
望遠側の200mmで撮影し、夕焼けに浮かびあがるエゾシカの立派なトロフィーを強調した。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/2500秒 F2.8 ISO400

似たようなエゾシカと利尻富士のシーンだが、焦点距離(画角)により印象が異なる。
自然風景から野生動物まで、一本のレンズでこれだけの表現が可能だ。

90mm相当

186mm相当

800mm相当(MC-20使用)

夜が明けると鹿たちは山奥へ帰っていく。朝陽を浴び鹿たちが浮かびあがる。
凍えた体に朝の光の暖かさは至福だろう。
このレンズは非常に高い逆光耐性を有しており、太陽を画面内に入れてもゴースト、フレアが発生しにくくクリアに描写できる。積極的に逆光も狙ってみてほしい。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/1600秒 F7.1 ISO800

暖気が続きエゾシカが自由に行き来していた大河の氷が溶け始めた。
陸は分断され雪解け水は海に流れる。
毎年、この情景を見ると春の訪れを感じる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/1000秒 F8.0 ISO200

第二章 山岳に生きる~エゾナキウサギ、エゾシマリス~

このレンズの最大の強みは、35mm換算値で400mm相当で、明るさがF2.8という所謂ヨンニッパでありながら、驚くほど小型で軽量なところだろう。
サンニッパ、ヨンニッパのF2.8大口径レンズといえば、岩のように重たく大きいのが当たり前で、登山に持っていくのは不向きと諦めていた。だが、このレンズなら、ザックの隙間に収納し軽々と山に持ち出せる。
野生動物の撮影に最適な焦点距離のこのズームレンズを持って、私の大好きなエゾナキウサギとエゾシマリスに会いに北海道の大雪山へ行ってきた。

コケモモの葉を咥えワイルドなエゾナキウサギ。木々に囲まれて難しい条件であったが、つぶらな瞳のナキウサギの目にAI被写体認識AF(動物:犬・猫)でバッチリとピントが合う。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

373mm相当* Aモード 1/200秒 F6.3 ISO1600

お気に入りの岩の上で瞑想をするエゾナキウサギ。
絞り値F2.8の開放で撮影することにより、背景の大きな美しい玉ボケの表現も可能だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

359mm相当* Aモード 1/800秒 F2.8 ISO800

目の前に現れたエゾナキウサギ。撮影最短距離が短いおかげで至近距離に現れても、その場を動くことなく撮影できた。ものすごい解像感で目の中に風景も映り込んだ。
警戒心の強いエゾナキウサギは、人間が出す微かな物音で逃げてしまうのだ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/1250秒 F2.8 ISO800

こちらも目の前に現れたエゾナキウサギ。
毛の一本一本まで見事に解像する。ヒゲの枝毛まで写っていたことに驚いた。枝毛になる理由は、髭は触覚の役目をしており、暗い岩の中を走る時に擦れているのだろう。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/640秒 F2.8 ISO400

エゾナキウサギは名前の通り鳴くウサギだ。「ピチュッ、ピチュッ」と遠くまで響き渡る声で鳴く。背景に山々の風景を入れて開放で撮影し、主役を浮かびあがらせ、なおかつ生活している雰囲気まで伝わる写真に仕上げた。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/1250秒 F2.8 ISO100

逆光で光が強く難しい状況だが、フレア、ゴーストが出ず、ガンコウランの葉っぱを自慢げに掲げるエゾナキウサギをクリアに写し止めた。
朝露に濡れた高山植物の玉ボケも美しい。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/640秒 F2.8 ISO200

風景すべてをぼかしエゾナキウサギの肖像を表現した。
このレンズだからこそ撮れる一枚だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/1250秒 F2.8 ISO100

錦繍のエゾナキウサギ。
すっかり冬毛になり、まん丸の姿に。
まもなく、山には初雪が降り、長い冬を迎える。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/800秒 F2.8 ISO800

高山植物の女王コマクサ。霧の中、水滴がつき美しかった。
400mmで寄れると言うことはマクロレンズとしても使用できる。OMSYSTEMはマクロレンズの種類も豊富だが、登山時の荷物を極力減らしたいときには、このレンズ一本で代用可能だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/800秒 F2.8 ISO100

みんな大好きチングルマ。この花は真上から見下ろし撮影するのが好きだ。最短撮影距離がズーム全域で0.78mなので、立った状態の体勢で気軽に撮影できるのも嬉しい。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

166mm相当* Aモード 1/1250秒 F2.8 ISO200

花びらの大きさは数ミリの小さな線香花火のようなチシマツガザクラ。地面に顔を付けながら撮影した。
エゾナキウサギやエゾシマリスなどの小動物は、高山植物の葉や実を食べて暮らしている。彼らの生活を記録するために、高山植物も美しく撮影しておくように心がけている。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

343mm相当* Aモード 1/1250秒 F4.0 ISO200

広角側の50mmでの撮影。
山々を見渡すエゾシマリス。天敵がいないか警戒中だ。
せっかく広大な山にいるので、山岳風景と動物を表現したい。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/1250秒 F2.8 ISO200

ハイマツの実をほっぺにパンパンに詰め込んだエゾシマリス。
背景のキバナシャクナゲの葉の間から光が射しこんでいたので玉ボケで表現した。
目の中に山岳風景が広がっている。素晴らしい解像感だ。
こちらは望遠側の200mmでの撮影だが、先ほどの山岳風景とエゾシマリスのような風景写真を含めて、レンズ1本で表現できる領域がとても広い。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/500秒 F2.8 ISO400

ウコンウツギの種子を巣穴に持ち帰るエゾシマリス。
その殻は枕にするのかな?周りに立つ枝はチングルマの枯草だ。私はチングルマタワーと呼んでいてシマリスなどの被写体に被るので少し邪魔になりがちだが、絞りを開放で撮影しボカすことにより雰囲気作りに役立つ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

359mm相当* Aモード 1/1000秒 F2.8 ISO800

第三章 山岳風景を切り抜いてみよう

私が山岳地帯で野生動物を撮影する際には、野生動物たちが暮らす環境の撮影もするように心がけている。野生動物の物語を伝える上で必ず必要になるからだ。

山岳風景を撮影する場合、雄大な風景を広角レンズで撮影するのもいいが、50-200mmの望遠レンズを用いて、遠くに見える景色を引き寄せて切り抜いて撮影してみるのもよいだろう。広角レンズで撮影するのとは、また別の世界を表現できるはずだ。
OM SYSTEMのカメラには、一度の撮影で複数枚連続撮影を行いカメラ内合成にて約5,000万画素相当の画像を生成できる、手持ちハイレゾショットという機能が搭載されている機種がある。風景撮影では、この手持ちハイレゾショット機能を利用し高画素で撮影するように心がけている。

高山帯に多いダケカンバの黄葉。白い幹がアクセントとなる。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

118mm相当* Aモード 1/160秒 F4.0 ISO800

形が良く黄葉がピークとなる木を選んで切り取った。望遠で撮影すると情報量を減らし、主役をより強調できる。最大7.0段相当[1]、ボディーとの5軸シンクロ手ぶれ補正に対応した当レンズだからこそ、広角側や望遠側でも気軽に手持ちハイレゾショットが撮影できる。足場の不自由な場所が多い山岳地帯では、とてもありがたい機能だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/250秒 F4.0 ISO800
手持ちハイレゾショット

遥か遠くの山の斜面に差し込む朝日に照らされた紅葉。望遠側で光の線を美しく表現した。ハイレゾショットは、複数枚の画像を合成することにより、ノイズを約2段分改善し、低ノイズを実現できる点も嬉しいポイントだ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

373mm相当* Aモード 1/640秒 F2.8 ISO200
手持ちハイレゾショット

紅葉のピークに初雪となった。山の上から冬が迫る季節の巡りを表現した。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

108mm相当* Aモード 1/50秒 F4.5 ISO200
手持ちハイレゾショット

絞り値F2.8のボケを生かし異なる木の幹の模様と、奥に鮮やかな雪紅葉を配置し絵画のように仕上げた。大口径レンズだからこそ表現できる世界だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

214mm相当* Aモード 1/40秒 F2.8 ISO200

北海道最高峰・大雪山旭岳の冠雪した姿を、広角側の50mmと望遠側の200mmでそれぞれ撮影した。同じ山だが、印象が全く異なる表現が出来る。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Aモード 1/1000秒 F4.0 ISO100
手持ちハイレゾショット

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当* Aモード 1/800秒 F4.0 ISO100
手持ちハイレゾショット

まとめ

35mm換算値100-400mm相当で F2.8という大口径でありながら、驚くほどの小型軽量化を可能にしたのは、マイクロフォーサーズセンサーのカメラと、そのカメラに最適なバランスで作りこんだ開発者の努力の賜物だろう。小型軽量を生かし、登山や野生動物撮影、野鳥撮影で動き回り撮影するためのカメラ、レンズに特化させるという本気度を感じる。
エゾナキウサギやエゾシマリスなどを撮影するために半年ほど、このレンズとカメラを持って大雪山に通ったが、機材の軽量化は行動範囲の拡大、体への負担の軽減に繋がり、撮影の効率も上がった。それにより、傑作写真が生まれる確率も上がるのだ。
小型の機材により、動き回る小動物をファインダーの中に入れ続けることも容易になった。
ただ、軽いだけではなく、インナーズームによる重心移動の少なさにより、バランスが良く、持ち手に負担がかからない。一日中、カメラを持ち続ける山岳撮影においてバランスも重要だ。
北海道の美しい風景の中に生きる野生動物をテーマに撮影している私にとって、35mm換算値の100-400mmの4倍のズーム比もありがたい。大きな風景を生かしたい時には広角で、少し被写体が遠い時や、瞳の輝きや、毛の美しさなどを高解像に表現したい時にはズームでアップに撮影できる。

驚いたのは、テレコンバーター(MC-14、MC-20等)を装着しても画質が荒れることが無く、オートフォーカスも速かったことだ。2倍テレコンを装着すると、35mm換算値で800mm F5.6の小型の超望遠レンズとしても使用可能で、遠くの被写体や小型の小鳥なども狙うことが出来る。
野生動物や野鳥は、夜行性のものや、日陰などの暗い場所を好むものが多いが、このレンズの明るさと五軸シンクロ手ぶれ補正により、闇をも恐れない撮影が可能になった。

この高性能のレンズを持って、どんどんフィールドに出かけたくなる。
OM SYSTEMの技術力が結集されたPROレンズ。ぜひ、皆さんにも体感してほしい。

*35mm判換算値

[1]CIPA規格準拠。2軸加振時(Yaw/ Pitch) 半押し中手ぶれ補正:OFF、使用ボディー:OM-1 Mark II、焦点距離:200mm
5軸シンクロ手ぶれ補正対応ボディー: OM-1 Mark II、OM-1、OM-3、OM-5 Mark II、OM-5、OM-D E-M1X Firmware ver.2.0、OM-D E-M1 Mark III Firmware ver.1.2、OM-D E-M1 Mark II Firmware ver.3.4、OM-D E-M5 Mark III Firmware ver.1.3以降(2025年9月現在)

記事内で使用した機材

佐藤 圭 プロフィール画像

佐藤 圭

1979年、北海道留萌市生まれ
動物写真家/SLASH写真事務所代表
北海道の自然風景と、野生動物や野鳥を中心に撮影を続け、企業、自然雑誌、ウェブマガジンなどへ写真を提供、執筆活動も行っている。
特にエゾシマリス、エゾナキウサギの撮影に力を入れ、15年以上、北海道の大雪山に登り生態を記録している。
アルパインブランドMILLET Ambassador、
OMPS(オーエムシステムプロサービス)会員
おもな著書に
『山の園芸屋さん エゾシマリス』(文一総合出版)
『佐藤圭写真集 秘密の絶景in北海道』(講談社)
『鳴き声できずなを結ぶ エゾナキウサギ』(文一総合出版)がある。