写真家 山下 大祐 × M.ZUIKO DIGITAL
ED 50-200mm F2.8 IS PRO
~鉄道写真にもっとも欲しいレンズの登場!さっそくOM-1 Mark IIで撮ってみた~

掲載日:2025年09月17日

掲載日:2025年09月17日

はじめに

鉄道撮影の、とりわけ走っている車両を大きめに撮る際には、50-200mm F2.8 IS PROの画角は非常に使用頻度が高いレンズとなる。なぜ車両撮影に望遠ズームレンズが適しているのか。鉄道車両は一般に前端から後端までが離れていて、一枚の写真で全体を見せるためには遠近感をなくした(圧縮した)イメージにしていく必要があるためだ。おまけに線路周辺は自由に被写体に寄ることができない場合が多く、そのためにも望遠で、かつズームレンズが大変重宝するのである。「望遠は鉄道撮影の標準レンズ」といわれる理由はここにある。

列車後方まで撮影倍率を高めることができる望遠画角は鉄道撮影の標準的画角。TRAIN SUITE 四季島が北海道に渡る週一回のチャンスを鮮明に記録することができた

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

300mm相当* Mモード 1/640秒 F8.0 ISO 400

鉄道写真とレンズ選び

ワイドから超望遠までさまざまな鉄道写真を撮る私も、車両の撮影にはこれまで40-150mm F2.8 PROを多用してきた。今回のレンズは、その焦点域を望遠側に広げつつ開放値F2.8を実現しているため、より圧縮して、あらゆる角度から鉄道車両の魅力を描くことができると期待している。そのようなことはレンズの仕様だけみれば、ある程度想像することができるが、問題はカメラの瞬発力や高速性能にどれだけレンズが追従して駆動するかである。はたまた解像力や描写性能はどうか、開放値でのボケ表現がどれほど可能なものなのか、実際に使ってみて判断したいのはそのような点である。

ズーム機構はインナー方式のため、ズーム・ピント送りともにレンズ全長は変わらない。ズームリングの回転距離も短めで、露光間ズームをする時は助かる

デザインの方向性は先行の150-400mm F4.5 TC1.25× IS PROのものを踏襲し、OM SYSTEMの白レンズ第二弾ということになる。同システムのレンズ群のなかでは300mm F4.0 IS PROと同程度のサイズ感で、40-150mm F2.8 PROと比較すると一見して全く別モノの雰囲気だ。しかしこれはあくまで同システムのなかでの話で、35mm判換算で100-400mm相当のF2.8レンズというプロフィールから考えれば、信じられないくらいコンパクトで、そして軽い。

当然手持ち撮影を意識した操作系で、ズームリングの位置や前後幅も直感的操作がしやすい。繰り出しのないインナーズーム、インナーフォーカスであることも手持ち撮影にとっては大きなメリットだ。各リングの操作感は40-150mm F2.8 PROよりも150-400mm F4.5 TC1.25× IS PROに近く、ヌッタリというよりシャコシャコ動く軽快な操作感である。そのほかフォーカスリミット、AF/MF、IS ON/OFF、L-Fnボタン切り換えの各種スイッチとプリセットフォーカスボタンは、レンズ左側に縦一列に配置されている。付属の三脚座はアルカスイス規格の雲台に直接載せることが可能。縦横の切り換え時に90度のクリック感は設けられていないが、換算100mmの中望遠域もある当レンズにとっては、微調整がしやすいクリックレスのほうが好都合だろう。もっぱら、手持ち撮影メインなら取り外して携行性を高めるのも現実的で、取り外しはツマミを緩めていき、三脚座リング自体を開いて外す仕組みである。

レンズ左サイドに各種スイッチがまとまる。AF/MFスイッチもここに備わり、MFクラッチ機構ではない

使ってみた率直なところ、やはり使う機会が多いレンズであることを体感した。編成写真は先述の通り標準レンズと呼べる活躍ぶり。LED表示器を欠けなく写すための「ズーム流し」撮影も、この焦点域だとズーム中央付近を使うことになるため、撮影成功率も高くなるように感じた。最大7.0段相当[1]、ボディーとの5軸シンクロ手ぶれ補正に対応した当レンズは、超望遠画角の流し撮りのようなフレーミングが難しいシーンでも、ファインダーをカチッと安定させて待つことができ撮影までの負荷が少ない。その上、手ぶれ補正設定を適切に変えることで流し撮りの振り動作時にも撮影意図に近い制御を行ってくれる。

S字を描いて真っ赤な電気機関車EH800が貨物列車を牽く。カメラ位置が制限される中、画角を微調整して目一杯に車両を大きく描写した。AI被写体認識(鉄道)とAF追従連写でピントはカメラまかせでも全コマにくる。合焦している機関車の前面は、拡大しても目が覚めるようなシャープな描写で、解像感は抜群だ。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

342mm相当* Mモード 1/1600秒 F4.0 ISO 200

鉄道風景撮影としての描写力

鉄道風景撮影についても撮影距離が長めの風景の場合、おもに50mm側付近は非常によく使う焦点域のため、このレンズの登場機会は少なくない。風景を大きく取り入れるため列車は小さめの扱いになるのだが、鑑賞者の視線を列車に集めるように撮るため、レンズの解像力は写真の見栄えを直接左右すると言ってもよい。その上で周辺と中央部の格差がないこと、さまざまな光線状況への対応力があればなおよい。

ズーム全域でF2.8の大口径は、表現の幅も広がる。足下のなんてことのない草で緑色のベールをつくり、ただの風景に爽やかさを入れた。画面構成で一つ物足りない時にこのような表現ができるのはありがたい

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

188mm相当* Mモード 1/2000秒 F2.8 ISO 200

画面の多くをシャドーに入れ、列車と線路はハイライトのみで見せた。絞り込んでもシャープさはほとんど損なわれないように感じられ、ヘッドライトから伸びる光条も美しく表現できた。それにしても線路というモチーフは、鉄道らしさをよく伝えてくれる名脇役だ

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

100mm相当* Mモード 1/50秒 F11 ISO 1600

OM-1 Mark IIとの高速連写性能

トンネルから飛び出す瞬間の新幹線は、私が好んでよく撮るシーンだ。この撮影で使う、OM-1 Mark IIのドライブモードは高速連写SH1(AF/AE固定で最高120コマ/秒)。しかし北海道新幹線の撮影場所では、綺麗な緑を前ボケに入れたかった。そのため置きピンが難しくSH2(AF/AE追従で最高50コマ/秒)にしてAF追従で撮ることにした。列車が外の光を受けた瞬間に運転席窓をAFで掴ませてすぐにレリーズするのだが、これがまた一瞬の操作で最初の1枚目をできる限り早く撮影せねばならない。しかし北海道新幹線では列車の本数は限られており、少ないチャンスに挑戦することに大きな迷いがあったが、いざトライしてみるとあっさりと1本目で狙い通りのカットが撮れた。正直言うと失敗もやむなしと思っていただけに、50-200mm F2.8 IS PROの光学系駆動の正確さや早さは想像のはるか上だった。

AI被写体認識(鉄道)も機能して前面窓を認識してのAF追従撮影。SH2で連写し、合焦してから10コマ目である。開放F値が明るいことはAF性能にも寄与するところだ

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-14

560mm相当* Mモード 1/4000秒 F4.0 ISO 400

こちらは線路を目安に置きピンしておいて、高速連写SH1で撮影した。曇天の薄暗い条件で最大限の高速シャッターのため、大口径が生きてくるシーンだ

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

314mm相当* Mモード 1/8000秒 F3.2 ISO 1600

2倍テレコンバーター対応で、楽しさも2倍

50-200mm F2.8 IS PROの大きな魅力ともいうべき、テレコンで画角をコントロールした作例もご紹介しておきたい。主な撮影地は九州の特急列車たち。前面デザインを大きく見せるには正面がちに狙いたいところ。そういう時はより長い焦点距離が必要になってくる。1.4倍や2.0倍のテレコンをもちいれば、35mm判換算で、最大800mmF5.6のズームレンズとしても使うことができる。2倍テレコンバーター(MC-20)と本レンズ、そしてOM-1 Mark IIとの組み合わせでも、総重量が2kg弱という点も驚きだ。

どれだけ望遠になっても開放F5.6なので、日中であれば露出不足で苦労することはそれほどない。いつも通りAI被写体認識(鉄道)や高速連写SH2の秒間50コマ撮影も使うことができる。コンピュテーショナルフォトグラフィーの深度合成などにも対応していて、使い勝手はレンズ単体と変わらない。また5軸シンクロ手ぶれ補正も変わりなく動作する。

1.4倍のテレコンバーター(MC-14)を使った作例。
OM-1 Mark IIの高速連写SH2も、AF追従かつ秒間50コマの最速で撮影が可能である。最後部の車両まで大きく見えるのが超望遠画角の圧縮効果である

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-14

440mm相当* Mモード 1/1000秒 F5.6 ISO 1000

2.0倍のテレコンバーター(MC-20)を使った作例。
テレコン使用時もAI被写体認識を生かしてのAF撮影、5軸シンクロ手ぶれ補正の効果がある

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

800mm相当* Mモード 1/640秒 F5.6 ISO 800

883系ソニックの昆虫ともロボットともとれる独特な前面デザインをクローズアップで撮影。AFピント位置が急速に変位するこのような正面アップカットも、連写した各コマで合焦できている

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

800mm相当* Mモード 1/640秒 F8.0 ISO 1600

駅を出発していく西九州新幹線かもめの後ろ姿。自分はというと、この列車から降り立った直後で、とっさにひらめきカメラを取り出した。5軸シンクロ手ぶれ補正は35mm判換算800mmでも安定した手持ち撮影ができて、とっさの時にも良作が生まれやすい

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

800mm相当* Mモード 1/1000秒 F5.6 ISO 800

OM SYSTEMの防塵・防滴性能

OM SYSTEMに求められる重要な性能が防塵・防滴性能である。50-200mm F2.8 IS PROにおいてもOM-1 Mark IIと同等のIP53相当の防塵・防滴性能を持つ。これは天候によって撮影活動がほぼ制限されることのない強靭なもの。この作例の撮影中にも強い降雨にさらされたが、撮影を諦めるどころかそれを作品のアクセントにできるような体験があった。それが下の作例。車両基地で新幹線が並んでいる様子を撮っているときに、一時雨粒が写るほどの大雨になった。こういう時はむしろギアを上げて止まないうちに思いつく限りシャッターを切りたい。そんな時に安心して撮影を継続できるのは、50-200mm F2.8 IS PROひいてはOM SYSTEMの大きな強みである。

雨粒が写るということはそれなりに強い雨である。ここでは手持ち撮影であったが、深度合成機能を使って、超望遠でもピント深度の深い絵を作っている

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

657mm相当* Mモード 1/2500秒 F5.6 ISO 1000

雨というファクターから“傘”という要素が重なった。新幹線のノーズ先端に開いた“目”がその大きさ・強さを物語る

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-20

484mm相当* Mモード 1/1250秒 F8.0 ISO 1600

終わりに

50-200mm F2.8 IS PROは、OM SYSTEMでの鉄道撮影に確実に欲しいレンズとなるだろう。それだけに画質面のみならず耐候性や各操作部のハンドリングに至るまで、機材選定時の付加価値となるかはとても重要なところだと思う。撮ってみた感触では、その真価、付加価値ともに非常に高いレンズであると感じた。またカメラ機能に制限をしないことやシンクロISに対応するなども評価したいポイントである。このレンズとともに様々な鉄道シーンを描いていけることが、今から楽しみで仕方ない。

*35mm判換算値

[1]CIPA規格準拠。2軸加振時(Yaw/ Pitch) 半押し中手ぶれ補正:OFF、使用ボディー:OM-1 Mark II、焦点距離:200mm
5軸シンクロ手ぶれ補正対応ボディー: OM-1 Mark II、OM-1、OM-3、OM-5 Mark II、OM-5、OM-D E-M1X Firmware ver.2.0、OM-D E-M1 Mark III Firmware ver.1.2、OM-D E-M1 Mark II Firmware ver.3.4、OM-D E-M5 Mark III Firmware ver.1.3以降(2025年9月現在)

記事内で使用した機材

山下 大祐 プロフィール画像

山下 大祐

1987年兵庫県出身 日本大学芸術学部写真学科卒業
幼い頃からの鉄道好きがきっかけで写真と出会い、今度は写真作品制作の舞台として鉄道と関わるようになる。幾何学的な工業製品あるいは交通秩序としての鉄道を通して、人や自然の存在を表現しようと制作活動を行なっている。 カレンダー、CM撮影などに携わるほか、鉄道誌、カメラ誌等で撮影・執筆・講談を行う。

2018年 個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座
2021年 個展「描く鉄道。」オリンパスギャラリー東京・南森町アートギャラリー
株式会社OfficeYAMASHITA代表
日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員