OM-3 × 写真家 木村 琢磨 凝縮された表現力を持ち歩く OM-3
掲載日:2025年02月06日
掲載日:2025年02月06日
1.まったく新しいOM
……OM SYSTEMから全く新しいOMシリーズが登場した。
OM-3に初めて会った時に感じた率直な感想だ。
それは単純に見た目から判断して出てきた感想だったが、手に取るとどことなくPENの様な雰囲気があり、ファインダーを覗いてダイヤルを操作しシャッターを切るとOMらしさもしっかりある。

所有感を満たしてくれるデザインは撮影のモチベーションにもつながる大切なスペックのひとつ。
グリップレスデザインがシンプルでカッコ良い。
OM-3は今までのOMシリーズとは全く異なるコンセプトから生まれた一台だ。
私はOMシリーズ全般をメインで使用しているが、しっかり風景を撮影したいときはOM-1 Mark II、気軽に風景をスナップ的に撮影したいときはOM-5、そして街歩きやちょっとしたお出かけの時に持ち出すE-P7と、各シチュエーションに合わせて使い分けている。
OM-3を使い始めて感じたのはやはり、OM-3はPENシリーズとOMシリーズのちょうど中間のポジションの様なカメラだなということ。
気軽さはPENに近く、撮影機能はOM-1 Mark IIと同等なので、どのシリーズよりもオールマイティなカメラだ。

カメラ全面にはカラークリエーター(CRT)、アートフィルター(ART)、カラー(COLOR)&モノクロ(MONO)プロファイルを直感的に切り替えられるクリエイティブダイヤルを搭載

背面レイアウトもいままでのOMとは少し違う。軍幹部デザイン、ダイヤルレイアウトは銀塩MFカメラを彷彿とさせる
PENシリーズでいえば過去に発売されたPEN-Fが最も近く、PENシリーズの特徴的な機能でもあったカラープロファイルコントロールやモノクロプロファイルコントロール機能がOM-3では搭載された。
ボディーはIP53対応の防塵・防滴で、ファインダーも搭載、コンピュテーショナル フォトグラフィ機能もOM-1 Mark IIで新たに搭載されたライブGND機能も搭載されていて中身は完全にOMシリーズだ。
もちろんハイレゾショット機能も搭載されていて、処理速度はOM-1 Mark II譲りなので高精細な撮影も気軽に楽しめる。
ボディーのデザインや操作性はもちろんのこと、クリエイティブな機能とコンピュテーショナル フォトグラフィの機能を組み合わせて使用できるなど、表現の自由度はOMシリーズで最も高いカメラに仕上がっている。
まず初めに悩んだのはレンズの組み合わせであり、私が愛用していて最も出番が多いレンズは「ED 12-100mm F4.0 IS PRO」や「ED 8-25mm F4.0 PRO」だが、OM-3でいろいろ装着してみてたどり着いた答えの一つは単焦点レンズメインの組み合わせだ。
今回II型になった17mm F1.8 IIと25mm F1.8 IIは防塵・防滴化されたことでOM-3との組み合わせもバッチリでデザインもOM-3にピッタリだ。OM-3は見た目から気に入っているのでOM-3がカッコよく見える組み合わせで使いたいという欲が出てくる。
いままでのOMシリーズは利便性優先でレンズを組み合わせていたがOM-3は「OM-3に似合う組み合わせ」を優先してレンズを選ぶことが多い。
撮影シーンによってはズームレンズが必要なこともあるが、ズームレンズの場合はED 12-45mm F4.0 PROが最も組み合わせとしてはベストだ。
OM-3の様なラインナップが新たに加わったことで、もしや小型軽量な単焦点レンズのラインナップが今後展開される可能性が……?と妄想してしまうのは先走り過ぎだろうか。

OM-3にM.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II
私のお気に入りの組み合わせ
2.目の前の景色をアートに昇華させる
私が普段撮影しているフィールドは主に風景で、風景といってもいわゆる「絶景」というよりは身近にある自然であったり、散歩をしていて出会った光などがメインの被写体だ。
写真の楽しいところはそんな身近な景色を「記録」だけでなく、「アート」に昇華してくれるところであり、OM-3の気軽さはいつも以上に気軽にシャッターを切ることができるので、いつも以上に撮影が楽しいと感じている自分がいる。

長野県の諏訪湖を訪れた時に撮影した一枚。訪れたときは豪雨だったが一瞬雨が止み太陽が顔を覗かせてくれた。カラークリエーター機能を使いで夕日を強調し、5000万画素相当の手持ちハイレゾショット機能でディテールと階調を強調した。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
46mm相当*/1/640秒/F8.0/ISO 200/手持ちハイレゾショット
カラークリエーター/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -3, Midtone: +1, Shadow: 0

私は絵画が好きということもあり、「写真」という言葉にあまりとらわれずアート的な目線で作品制作をしている。自分のフィルターを通じて生まれた作品であることが大切であり、それを可能にしてくれるカメラが私には必要不可欠なのだ。
OM SYSTEMのカメラにはさまざまな表現を可能にしてくれる「コンピュテーショナル フォトグラフィ」が搭載されていて、私がメインで使用している機能の一つにカラークリエーター機能がある。
簡単に説明すると色相と彩度をカメラの中で調整する機能であり、被写体を忠実な再現ではなく自分色に表現することができる機能だ。
さらにWB(ホワイトバランス)やハイライト&シャドウコントロール機能を組み合わせると、より表現の幅が広がるので、私の設定の8〜9割はカラークリエーター×WB×ハイライト&シャドウコントロールの組み合わせかもしれない。
OM-3にカラープロファイル機能が搭載されたことで、カラークリエーターとはまた違った色の表現がカメラ内でできる様になったので、また新しい自分の作品と出会えるチャンスが増えたと思うとさらに撮影が楽しくなる。
以前はRAW現像で仕上げることがほとんどだったが、最近はカメラの中で画作りをして、その場で仕上げて撮影することが多い。

地元岡山県の県北にある布滝を撮影。
カラープロファイル機能を使って植物の彩度を引き立て、水流の彩度のブルーを下げることで布滝の名前の如く滝を布の様に白く表現した。
単純に彩度を上げるだけでは水流にも色がついてしまうが、カラープロファイル機能を使えば個別に色味を調整することが可能だ。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/1/3秒/F5.6/ISO 200/三脚ハイレゾショット
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 0, Midtone: -3, Shadow: 0


同じ色を調整する機能でもカラークリエーター機能とカラープロファイル機能とでは全く考え方が違う。被写体の持つ色やトーン、撮影時の色の設定を活かしつつ調整する場合はカラープロファイルで、全体的に大きく色を変化させたい場合はカラークリエーターという風に使い分けをしている。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/1/60秒/F5.6/ISO 200/手持ちハイレゾショット
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -3, Midtone: +2, Shadow: +2

元祖コンピュテーショナル フォトグラフィとも言えるアートフィルター機能も、もちろん健在だ。クリエイティブダイヤルを回すだけで通常撮影からアートフィルター機能に切り替えることができるので、積極的にアートフィルターも使って行きたい。
元々アートフィルターが好きでよく使っているので、クリエイティブダイヤルで簡単に切り替えができる様になったのは嬉しい仕様だ。
普段アートフィルターを使っていないという人はまずは使いやすい「ポップアート」から入って見ると良いだろう。単純に彩度を上げる機能と思われがちだが自分でRAW現像をして再現しようとするとかなり複雑な処理が施されていることがわかる。

明るく爽やかな仕上がりが好みの人は通常の「ポップアートI」がおすすめで、シックなイメージが好みの人は「ポップアートII」がハマるだろう。
「ポップアートII」は全体の質感がグッと引き締まりポジフィルム的な仕上がりになる。普段からよく使うアートフィルターのひとつだ。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
90mm相当*/1/400秒/F4.0/ISO 800
ポップアートII+ピンホール効果/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -2, Midtone: +6, Shadow: -7

「トイフォト」を使うとトイカメラで撮影したときの様なトンネル効果を活かした作品が簡単に撮影できる。周辺が焼き込まれることで写真中央の被写体が引き立つため、日の丸構図との相性が良い。明るい写真で周辺が落ちると、周辺の焼き込みの方が気になる仕上がりとなってしまうため、少しローキーな一枚や、最初から四隅に濃い目のものが配置された状況で使用すると効果的だ。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
32mm相当*/1/100秒/F5.6/ISO 200
トイフォトII/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 0, Midtone: +3, Shadow: -4
3.常に持ち歩ける気軽さ
OM-3はスナップに適したボディーデザインなので、単焦点レンズと組み合わせて街中に持ち出しての撮影も楽しい。ズームレンズは焦点距離の自由度が高い反面、焦点距離で迷ってしまうリスクも併せ持っている。単焦点で撮影することで、焦点距離を考える時間を短縮できるので、シャッターチャンスに強いだけでなく、普段であれば使用しない焦点距離で強制的に撮影をする体験ができるので、いつもと違った一枚とも出会えるきっかけになる。OM-3で、どの単焦点レンズを使うか悩んだときは、II型になった17mm F1.8 IIと25mm F1.8 IIはサイズも焦点距離も日常使いしやすいのでおすすめだ。 出張など撮影目的ではない遠出でも、カメラはやはり持ち歩きたいと思ってしまうわけだが、そういうケースではOM-1などはやはり少し大きく感じてしまう。 OM-3であればグリップレスなボディーデザインに、小さな単焦点レンズとの組み合わせとすれば、カメラバッグはもちろん、ビジネスバッグなどにも収まりが良いのでPENシリーズと同じような感覚で持ち出せる。そうなると、どんどん小型軽量な単焦点レンズも欲しくなってしまうわけだ。便利なズームレンズがあれば、ほかにレンズはあまり必要ないか……と思っていた私だったが、どうもそういうわけにはいかない様だ。
4.より手軽に映像表現を楽しめるOM Cinema
OM-3では誰でも簡単にシネマチックな映像表現を楽しむことができる動画ピクチャーモード「OM-Cinema1/OM-Cinema2」 が搭載された。 軍幹部に写真と動画の切り替えダイヤルが搭載されている様に、OM-3では本格的な映像表現も楽しんでもらいたいというメッセージの様に感じる。

撮影モードダイヤルとは別に、静止画/動画/S&Q(スロー&クイック)の切り替えがダイヤル一つで可能になった。 この2つのダイヤルを併用することで、静止画、動画のそれぞれの設定を素早く切り替えて撮影を楽しむことができる。
また、S&Qモードを使えば目では見えない早い動きをとらえるスローモーション動画や、長時間の撮影時間を短く表現するクイックモーション動画も手軽に撮影することができるようになった。
OM-3には、「OM-Cinema1」と「OM-Cinema2」の新たな動画ピクチャーモードが2つ加わり、それぞれルックが違う仕上がりを楽しめる様になっている。私の中ではOM-Cinema1は景色や自然風景などに、OM-Cinema2は人物を撮影するシーンで使い分けている。特にOM-Cinema2は俗にいう「シネマルック(映画風)」と呼ばれる仕上がりになっているので、日常シーンも映画のワンシーンの様な映像で撮影することができる。

OM-Cinema1で収録した映像からの切り出し

OM-Cinema1で収録した映像からの切り出し

OM-Cinema1で収録した映像からの切り出し

OM-Cinema2で収録した映像からの切り出し

OM-Cinema2で収録した映像からの切り出し

OM-Cinema2で収録した映像からの切り出し
OM-Cinema1/2で撮影するときは、4K 24fpsでの収録がおすすめだ。
映画で採用されているフレームレートは24fps(1秒間に24コマ)が一般的で、映像のルックだけでなくフレームレートも映画に寄せていくことで、より本格的な 「シネマルック(映画風)」の映像表現をすることが可能となる。

ルックの違い
(左:OM-Cinema2 / 右:通常撮影)
OM-Cinema2で撮影すると写真の仕上がりとは随分と違う印象となる。
OM-Cinema1/2は動画用アートフィルター的な存在と言ってもいいかもしれない。
映像はハードルが高くてなかなか手が出ない……という人も多いと思うが、映像を撮るというより「動く写真を撮る」という感覚でまずは初めて見るといいだろう。 静止画を撮る前に、動画でも記録しておくというのもおススメだ。5~6秒程度の動画を撮影しておいてつなぎ合わせるだけでも、その日1日の撮影の様子雰囲気が伝わる動画となる。その日の気分で、同じ動画ピクチャーモードで撮るものでもいいし、複数のアートフィルターで撮影するのも面白い。
OM-3には静止画同様に動画撮影時でも強力な手ぶれ補正を使用できるので、手持ちの撮影でも揺れを最小限に抑えた動画撮影が可能だ。手ぶれ補正が強力なので、手持ちでもカメラを固定した撮影(フィックス)が簡単に撮影できるので、写真を撮る感覚の延長線上と思ってスタートを切ってみよう。 特に風景写真の場合はそのついでで構わないので、まずは「REC」ボタンを押して動画も撮影してみてほしい。
写真と映像の最も大きな違いは「瞬間を写すか、時間の流れを映すか」であり、風景シーンで言えば滝や川、風に揺られる植物や花など、同じシーンでも写真と映像とでは全く違った表現が可能だ。
今回はOM-Cinema1と2の両方を使って2つ映像作品を収録。
特にOM-Cinema2では、自然風景の中の人物をメインに簡単なストーリー仕立てにして収録している。
OM-Cinema1で収録した短編映像
OM-Cinema2で収録した短編映像
<撮影協力>
●ロケーション:みなと珈琲焙煎所
●モデル:中務靖子
映像作品の場合は「Log」と呼ばれるコントラストと彩度が低い映像素材を収録しておき、編集時にカラコレ(カラーコレクション)と呼ばれる色味やトーンの調整を行うことが多いが、今回はOM-Cinemaのルックを活かして映像作品を製作したかったので、撮って出し素材のみで製作した。
どちらも24fpsで収録しているので、よりシネマ感が増していると思う。
映像収録の際に気をつける点がいくつかあり、映像の場合はシャッタースピードを収録フレームレートの2倍に設定することで、より滑らかな仕上がりになる。
シャッタースピードが早すぎると、映像がカクついて見えたりするので、仕上がりにこだわりたい人はシャッタースピードにもこだわると良い。
OM-3ではシャッタースピード1/48秒が選択できる様になっており、つまり「フレームレート24fpsの2倍」になるわけで、OM-Cinemaを使わない手はないのである。
また、映像でシャッタースピードまでこだわりたい人はNDフィルターが必須となるので、可変式かND16~32あたりを1枚持っておくと便利だ。
5.まとめ
OM-3は今までのOMシリーズとは全く別物であり、 「挑戦」という言葉がぴったりな一台となっている。
OM-1 Mark IIやOM-5とはまた違ったフィールドで活躍してくれるカメラであり、私自身、今後OM-3は出番がかなり多くなりそうだと確信している。
なにより撮影していて「楽しい」のだ。
これは撮影機材としては最も重要なスペックであり、いい写真を撮るためのエッセンスだ。

記憶色を意識した画作りを重要視している私にとって、カラークリエーター機能は必要不可欠な機能のひとつ。
OMシリーズは色の自由度が高いので「表現者のためのカメラ」という言葉がぴったりだ。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/1/1600秒/F8.0/ISO 200/手持ちハイレゾショット
カラークリエーター/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -4, Midtone: +4, Shadow: +2

今までの私の撮影スタイルは、ズームレンズでの撮影がほとんどの割合を占めていて、ED 12-100mm F4.0 IS PROやED 8-25mm F4.0 PROを使う場合は OM-1 Mark II、ED 12-45mm F4.0 PROを使う場合はOM-5と、そのレンズに合うボディーを選んでいたのだが、OM-3の登場でもっと単焦点レンズを積極的に使っていこうと思った次第だ。
PROシリーズのレンズにばかり注目されがちだが、スタンダードクラスには単焦点レンズのラインナップも多く、F2.0より明るい大口径単焦点だけでも12mm、17mm、25mm、 45mm、75mmと必要十分な本数が揃っているし、そのほかにもマクロレンズなども含めるとかなりの数だ。

OMシリーズの中でも異端なデザイン
OM SYSTEMブランドのカメラはOM-1やOM-5がすでにラインナップされているが、 私が思うにOM-3こそOM SYSTEMだから開発できた一台なのではないかと思っている。
実際にいつも撮影しているフィールドに、単焦点レンズと組み合わせたOM-3を持っていくと、普段とはまた違った目線で景色を見ている自分がそこにいて、いつもとは違う自分の作品と出会うことができた。
写真家にとってカメラは体の一部、もう一つの眼の様な存在であり、撮りたいと思ったその瞬間にカメラが手元にあることが、とても重要だ。
これからもOM-3と共に色々な景色を切り取っていけたらと思う。
*35mm 判換算値

木村 琢磨
広告写真・動画制作会社 はち株式会社代表。岡山県在住。
地元岡山県の広告写真スタジオに12年勤めたのち2018年にフリーランスフォトグラファーとして独立。
2020年はち株式会社設立。広告写真業の傍ら写真作家としても活動。
「写真」の言葉にとらわれず独自の世界観を追求し続けている。
雑誌への寄稿、イベントやカメラメーカー主催のセミナーで講師としての登壇も多数。
デジタルカメラマガジン2024年11月号まで「図解で分かる名所の撮り方 Season2」執筆。
主な著書に『図解で分かる名所の撮り方』(インプレス)『風景写真の7ピース 撮影イメージがひらめくアイデアノート』(インプレス)など。