OM-3 × 写真家 川野 恭子 ~長年の願いが現実になったOM-3~
掲載日:2025年05月02日
掲載日:2025年05月02日
OM-3との出会い
OM-3との出合いは印象的でした。OM SYSTEMのイベントステージに登壇する機会をいただき、担当の方と打ち合わせをしたときのこと。
「今回、こちらのカメラで撮影して欲しいのです。」
その言葉とともに差し出されたのがOM SYSTEM OM-3でした。OM-5を愛用してきた川野に、担当の方は「ボディーが金属なので、OM-5より少しだけ重くなりますが…」と様子を伺いながらも、自信に満ちた目で語り続けます。「OM-1 Mark II とほぼ同性能なのです」。

目の前に置かれたOM-3を見て、「その形で登場するのか…!」と内心驚きました。往年のフィルム一眼レフカメラ「OLYMPUS OM-1」を思わせるデザインだったからです。もっと直感的に言い換えると、とにかく可愛くて格好良かったから。
興味津々で手に取ると、グリップが無いのに持ちやすく、意外と重さを感じません。これなら山で持ち歩いても気にならないな…と。そして、金属ボディーなのにこの軽さで、フラグシップゆずりの高性能。そしてこの小ささ。ああ、これは欲しくなりそう…。
目の前に担当の方がいることを忘れるくらい、驚きと喜びと物欲を感じた瞬間でした。
OM-3が可能にする「思いどおり」の表現
OM-3を手にして、どんな撮影がしたいかな…とかなり真剣に悩みました。と言いますのも、フラグシップモデル同等というだけあり、機能が豊富だからです。
カラープロファイルコントロール、モノクロプロファイルコントロール、ハイレゾショット、ライブGND、ライブND、ライブコンポジット、深度合成…まだまだありますが、色表現にこだわりを持つ川野としてはやはり、「フィルムライクな仕上がりをたのしむ」ことが出来るカラープロファイルコントロールを使いたいと思いました。
カラープロファイルコントロールに関してはPEN-Fでも使っていましたが、OM-1 Mark IIやOM-5には非搭載でした。なので、「再び色を作り出す喜びを味わえるのだな…」と思うと、懐かしくもあり嬉しくもあり。

OM-3デビューの地として選んだのは伊豆諸島の神津島にある天上山。標高572mという低山ながら、「洋上のアルプス」と称される雄大な景色が魅力の山です。新日本百名山、花の百名山に選ばれています。神津島は海の透明度が高いことでも知られていますが、山の景色も最高なのです。過去登った山のなかで10位に入るかも。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
42mm相当*/Aモード/1/125秒/F10/ISO 200/-0.3EV
WB:曇天(6000K)/+3STEP(R), +4STEP(G)/カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール:Hi+3 Mid+2 Sh±0/コントラスト:-1/三脚ハイレゾショット(約8000万画素相当)


さて、カラープロファイルコントロールについてですが、12色の彩度を個別にコントロールできます。例えば、「緑は薄くしたいけど、花の色は濃くしたい。ついでに空の色も濃くしたい。」など、細かく調整できます。ハイライト&シャドウやコントラストなどを調整すれば、さらに自分好みの仕上がりを追求できます。
川野は好きな銘柄のフィルムの色味に寄せて撮影することにしました。設定としては以下のとおりです。
1)彩度設定は、橙色は少し濃いめ、緑色系は薄め。空の色は適宜濃いめに。
2)ハイライト&シャドウコントロールで、主に中間部を明るめに。明部は抜けを作るため少し明るく、暗部は場合により明るめに。
3)コントラストは、柔らかい印象にしたいので「-2」か「-1」に。
4)ホワイトバランスは、黄色みを加えるため「曇天」に設定し、さらに赤と緑をプラス。
そしてこの色が出たとき、「あぁ、イメージどおりだ」と。
この設定をカスタム登録し、いつでも呼び出せるようにしていました。5つ登録できるので、星撮影の設定も登録をしたり。モードダイヤルから素早く呼び出せるので、とても便利なのです。

こちらは、神津島に伝わる「水配り伝説」の舞台「不入ガ沢」。神聖な場所なので立ち入り禁止になっています。神津島の旅で最もイメージどおりに撮れたのはこの作品でした。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
30mm相当*/Aモード/1/25秒/F10/ISO 200/+0.3EV
WB:曇天(6000K) +2STEP(G)/カラープロファイルコントロール/ライブGND(ND08/Soft)

カラープロファイルコントロールとライブGND機能を併用しています。
ライブGND機能とは、ハーフNDフィルターの効果をデジタルで擬似的に再現できる機能です。画面を2分割したうちの片方にNDフィルター効果を適用できます。GND段数(2, 4, 8)、フィルタータイプ(Soft, Medium, Hard)を選べるので、9枚分のフィルターを持つのに等しい効果をボタン・ダイヤル操作だけで得られます。
ライブGND機能により空の明るさを抑えたことで、ラチチュードの広いネガフィルムのような仕上がりになったと感じています。OM-1 Mark IIが発売された頃からライブGND機能にとても興味があったので、OM-3に搭載されたと聞いたときはどれだけ嬉しかったか。しかも、カラープロファイルコントロールと併用できるなんて…最高です。

神津島は、新海誠監督の映画「天気の子」に登場するのですが、山頂からの景色はまさしく映画のワンシーンのようでした。無数に降りる天使の梯子、輝く海と雲の影。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
30mm相当*/Aモード/1/10秒/F13/ISO 200/+1.0EV
WB:曇天(6000K) +2STEP(R), +1STEP(G)/カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール:Hi+3 Mid+2 Sh-2/コントラスト:-2/ライブGND:(ND04/Soft)

このような明暗差のあるシーンを撮ろうとすると、空が白く飛んだり、山肌が黒く潰れたり、目で見たとおりに撮影できないことがありますが、ライブGND機能のおかげで海面や空の表情を残すことができました。OM-3のハイライト側ダイナミックレンジの広さに助けられた画でもあるな、と感じています。

こちらは裏砂漠という場所です。月に降り立ったかのような不思議な印象を受けたそのとき、「モノクロで撮影したら面白いに違いない」と確信しました。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/Aモード/1/400秒/F8.0/ISO 200/±0.0EV
WB:5800K -1STEP/モノクロプロファイルコントロール:COLOR:赤,Level:+3/ハイライト&シャドウコントロール:Hi±0 Mid-6 Sh+2/粒状フィルム効果:弱

ここで役立ったのが、モノクロプロファイルコントロールのカラーフィルターです。白黒写真用のカラーフィルター機能を実現したもので、8種類のカラーフィルターを3段階の強度で設定できます。選択した色は明るく、その補色は暗く表現されます。
この作品では、空の青を暗く仕上げるために赤色のカラーフィルターを適用しました。さらに粒状感を加え、砂漠のざらりとした質感を強調しています。

OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/Aモード/1/400秒/F10/ISO 200/-1.7EV
WB:蛍光灯(4000K)/モノクロプロファイルコントロール:COLOR:赤,Level:+3/ハイライト&シャドウコントロール:Hi±0 Mid+2 Sh+4/手持ちハイレゾショット(約5,000万画素相当)

OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/Aモード/1/400秒/F10/ISO 200/-1.7EV
WB:蛍光灯(4000K)/モノクロプロファイルコントロール:COLOR:赤,Level:+3/ハイライト&シャドウコントロール:Hi±0 Mid+2 Sh+4/手持ちハイレゾショット(約5,000万画素相当)

OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/Aモード/1/400秒/F10/ISO 200/-1.7EV
WB:蛍光灯(4000K)/モノクロプロファイルコントロール:COLOR:赤,Level:+3/ハイライト&シャドウコントロール:Hi±0 Mid+2 Sh+4/手持ちハイレゾショット(約5,000万画素相当)
こちらの作品はモノクロプロファイルコントロールと手持ちハイレゾショットを併用し、ひとつの景色を三枚に分けて撮影しました。A1サイズでプリントしてみると砂の粒まで精細に写りこんでいて、あの日の足裏の感覚が蘇ってくるよう。
川野はカラー撮影がメインですが、逆光や曇天で景色の色がくすんでしまうときはモノクロでの撮影も楽しみます。なぜなら、色の情報を排除すると山の造形が際立ち、クールな印象に仕上がるからです。
OM-3は、IP53の防塵・防滴性能により天候を気にせず撮影できるのも心強い点です。「曇りだからモノクロで撮ろうかな」とか「雨だから水滴狙いで!」など、天候に合わせて撮影スタイルを変えると楽しくなります。
OM-3がもたらした「レンズ」の変化

OM-3を使い始めて一番驚いたのは、選ぶレンズが変わったことかもしれません。
OM-5ではPROレンズが中心でしたが、OM-3では、12-45mm F4.0 PROのほかに、防塵・防滴になって登場した17mm F1.8 II や、25mm F1.8 II などの小型単焦点レンズの使用頻度が増えました。OM-3のボディーには、どうしたって小さいレンズを付けたくなるのです。

2月下旬の丹沢。山の斜面がロウバイの花で覆い尽くされ、甘い香りに包まれていました。
OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
34mm相当*/Aモード/1/500秒/F8.0/ISO 200/+0.7EV
WB:曇天(6000K) +3STEP(R), +4STEP(G)/カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール:Hi+2 Mid+5 Sh±0/コントラスト:-2/三脚ハイレゾショット(約8,000万画素相当)

こちらは、OM-3のキットレンズでもある12-45mm F4.0 PRO で撮影しています。OM SYSTEM には標準ズームレンズがいくつかありますが、OM-5の頃からこの12-45mmを愛用しています。なぜなら、景色だけでなく、全焦点域でハーフマクロが楽しめるので高山植物の小さな花や水滴も寄って撮影できるから。かつ防塵・防滴なので、山ではマストです。
高画質な点も気に入っていて、通常撮影でも十分綺麗なのですが、だからこそハイレゾショットで撮りたくなります。PROレンズなのに驚くほど小さくて軽いのもお気に入りです。
ハイレゾショットは、高画素で撮影できるだけでなく、約2段分ノイズが軽減されるメリットがあります。また、14bitでの撮影が可能なので、通常撮影より色の深みが増し、より立体感のある仕上がりになるのも気に入っています。ハイレゾショットの処理時間がフラッグシップモデルのOM-1Mark IIと同等なのも嬉しいところ。
本当に不思議なのですが、ここ最近は17mm F1.8 IIばかり使ってしまいます。もともと、I型の17mmF1.8は持っていたのですが、あれ?こんなに良いレンズだったかな…と。絞り開放でも輪郭はシャープですし、ボケも素直で心地良い。この作品のように寄ってボケを楽しんだり…。
引いて景色を写したり…。35mm判換算34mm相当という画角が広すぎず狭すぎず。ちょっと目で見るより広いかな…というくらいなので、景色を撮るにはちょうど良いのです。そして、景色を活かしながらほんのり背景がぼける感じも、空気感を感じられて好きです。
とにかく、OM-3と17mm F1.8 II の組み合わせは最高なのです。コンパクトで肩に下げていても気にならず、山も街も、いつでもどこでも持ち歩きたくなります。
OM-3を使い始めて数ヶ月経ちますが、このカメラがもたらす心境の変化に自分が一番驚いています。
OM-3がもたらした「撮影スタイル」の変化
ここで役に立ったのがライブNDです。OM-3はライブND64 (ND2~ND64 6段階)まで使えるので、明るい場所でもスローシャッター効果を楽しむことができます。この作品ではライブND32でシャッター速度を1/4秒まで落としました。被写体をぶらして撮影すると動きを表現できるだけでなく、プライバシーも保護できます。
通常シャッター速度が1/4秒ですと手ぶれしやすくなりますが、OM SYSTEMは手ぶれ補正が強力なので問題なく撮影できています。この「手ぶれに強い」というのは山ではとても重要で、三脚を持たなくてよいし、三脚をセットする時間が省けるので撮りたい瞬間を逃しません。何より、山歩きのリズムを崩さずにすみます。体力が削がれると写欲も削がれるので、地味に重要視する項目です。

そうそう。OM-3に新しく搭載された「CPボタン」が本当に便利なのです。コンピュテーショナル フォトグラフィ機能を素早く呼び出せるようになり、これまで以上にコンピュテーショナル フォトグラフィを使うようになりました。指が覚えるほどに愛用しています。
また、さらなる変化として、動画撮影を楽しむようになりました。
こちらの動画は、鎌倉祇園山ハイキングコースを歩いたときに撮影した動画をVlogとして編集したものです。OM-3から新たに搭載されたピクチャーモード「OM-Cinema 1」で撮影しています。手軽にシネマティックな雰囲気の映像に仕上がるので楽しいのです。
ちなみに、OM-Cinemaには2種類ありますが、山や森なら陰影のあるOM-Cinema1のほうが好みです。山の厳かな空気を感じられる気がしています。
OM-Cinema1
中間輝度は自然な色合い。ハイライト部はイエロー調、シャドウ部は青調の色味が加わり、暖かみがありつつ落ち着いた印象。陰影のある仕上がりなので山や森の景色におすすめ。
OM-Cinema2
中間輝度は自然な色合い。ハイライト部とシャドウ部にシアン調の色味が加わるのが特徴。コントラスト弱めの柔らかい印象に仕上がるので、海や空、人物などにおすすめ。
動画撮影を楽しむようになったのは、OM-3に新たに搭載された「静止画/動画/S&Qダイヤル」の存在が大きいかな、と。静止画と動画の切り替えを素早く行えるのですが、特にS&Q(スローモーション動画&クイックモーション動画)モードへの切り替えが本当に便利なのです。川野は下記のように設定していました。

静止画モード …写真
動画モード …等倍速の動画(撮影フレームレート:4K24fps)
S&Qモード …0.4倍速の動画(撮影フレームレート:4K60fps、再生フレームレート:4K24fps)
個人的には、S&Qモードではなく、Slowモード、Quickモードの2つに分けても良かったかな…と思うのですが、多くは望みません。
いずれにせよ、素敵な被写体を見つけたら写真の延長として動画も撮影する。そんな気持ちにさせてくれるのもOM-3の操作性の良さからなのだと思います。
基本的に光学フィルターは使用しないのですが、ここ最近は、BLACK MIST No.05 フィルターを装着して撮影を楽しむことが増えました。光の拡散効果により、シネマティックな印象の仕上がりになるのですが、カラープロファイルコントロールで作り出すフィルムライクな色との相性が良いのです。
思いどおりの色づくりが出来るから、あらゆるものにレンズを向けてしまうし、撮影スタイルさえも変えてしまう。OM-3にはそんな力があります。

クリエイティブダイヤルの存在も大きいのです。見た目の良さはもちろんですが、ダイヤルを回す身体的感覚からくる高揚感というか。
それより何より、カラー/モノクロプロファイルコントロール、カラークリエーター、アートフィルターなど、すべての色表現がこのダイヤルから生まれると思うとわくわくするのです。自分の知らなかった色の世界が、ダイヤルを回すたびに広がるのですから。
この色良いな。あ、この色も面白いかも。
新しいカメラやレンズを迎えるとフレッシュな気持ちになりますが、OM-3は表現までも切り拓く力を秘めていると感じています。
おわりに
OM-3を使い始めて数ヶ月。今では素直に楽しいカメラだな…と感じています。そして、「楽しい」という感情が与える撮影スタイルの変化に、自分自身驚いています。
この「楽しい」と思う気持ちはどこから湧いてくるのだろう…?あらためて考えると、撮影者の気持ちに寄り添い、応えてくれる機能がある、ということだと思うのです。撮りたい画が撮れなければ楽しくない。
そういう意味ではフラグシップ機のOM-1 Mark II も選択肢に入りますが、OM-5から乗り換えようとは思いませんでした。山では小さくて軽いことを最優先したかったからです。
OM-3はカメラ本体が約496g。OM-5の約414gと比べて82gの差がありますが、少しでも荷物を軽くしたい私にとっては、今後どちらを連れていくのか贅沢な悩みになりそうです。

OM-3 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
24mm相当*/Aモード/1/40秒/F10/ISO 200/±0.0EV
WB:曇天(6000K) +6STEP(R), +2STEP(G) /カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール:Hi±0,Mid+1 Sh±0/コントラスト:-2/ライブGND:(ND08/Soft)

OM-3は、撮影者の気持ちに応えてくれる機能、そして、小型軽量の両方を満たし、さらに眺めているだけで嬉しくなるデザインで登場しました。
長いこと「小型軽量でPENのようにスタイリッシュでだけど防塵・防滴で、フラグシップ並の高機能がぎゅっと詰まった魔法の小箱のようなカメラが欲しい…!」と願ってきたので、大変満足しています。このOM-3も今夏の山旅を彩り豊かに残すことが出来そうです。
最後に、カメラ初心者の方も、カメラを何台も持たれている方も、少しでもOM-3が気になったのなら迷わず使って欲しいな…と思います。
OM-3なら、みなさんの思いに応えてくれるはずですから。
*35mm 判換算値

川野 恭子
「日常と山」を並行して捉え、自身に潜む遺伝的記憶の可視化を試みた作品制作を行う。ここ数年は山小屋勤務を経験しながら、山の歴史・文化に造詣を深めることに努めている。メディアへの写真提供、撮影、執筆、講師、テレビ出演(NHKにっぽん百名山ほか)など、多岐に渡り活動。京都芸術大学通信教育部美術科写真コース非常勤講師。著書に、写真集『山を探す』(リブロアルテ)、織田紗織氏との共著『山の辞典』(雷鳥社)ほか多数。