写真家 中村 利和 × OM SYSTEM OM-1 Mark II & M.ZUIKO DIGITAL レンズ ~野鳥撮影に最適なカメラと望遠レンズシステム~
掲載日:2024年01月30日
掲載日:2024年01月30日
2022年3月登場以来、様々なシーンで私の野鳥撮影を助けてくれたOM SYSTEM OM-1がさらに進化、OM SYSTEM OM-1 Mark IIとなって登場した。
OM-1 Mark IIと同時に発表された超望遠ズームM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISと、愛用しているM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROと共に、様々な鳥たちに会いに出かけたのでその実力をレポートする。
小型軽量のシステムと強力な手ぶれ補正、防塵・防滴・耐低温(-10℃)性能
ボディーは小型軽量の前機種OM-1とほとんど変わらず、ボタンなどもほぼ同じなので移行はとてもスムーズで何の違和感もなく扱える。
マイクロフォーサーズの本機センサーは野鳥撮影で必要な焦点距離600~800mm相当*の超望遠レンズを装着してもとても小型で長距離の移動も苦にならず、高い機動力が得られる。そして機動力の面でとても助かるのが5軸手ぶれ補正である。手ぶれ補正は以前の機種でもかなり強力で、三脚を必要としないシーンが多かったがOM-1 Mark IIではさらに強力になった。ボディー単体で最大8.5段(OM-1は7.0段)、シンクロ手ぶれ補正も最大8.5段(OM-1は8.0段)とさらに強力になっている。実際使用してみると、ED 150-600mm F5.0-6.3 ISとの相性がとても良く、シャッターボタンを半押し中はファインダーを覗くときっちりと像が止まって見え、手ぶれ補正が強力に機能しているのが実感できた。1200mm相当*での超望遠手持ち撮影では、シャッター速度が1/15~1/30秒でも使えるカットが撮影できるのは驚きだ。
さらに、以前から定評のあるIP53の防塵・防滴と、耐低温性能がOM-1 Mark IIにも変わらず備わっている。普段から過酷なフィールドに出て撮影するネイチャー系のフォトグラファーにとって、雨や雪、埃に強いカメラというのは本当に心強い相棒だ。雨や雪の中でもレンズ表面につく水滴にだけ気をつけていれば、何の心配もなく撮影を続けられる安心感は何物にも代え難い。
小型軽量、強力な5軸手ぶれ補正、そしてIP53の防塵・防滴性能。この三つの特徴により、機動力や撮影の幅が格段に上がる。筆者がOM SYSTEMのシステムを使用する最大のメリットはここにあると言っていいだろう。
※弊社の防滴レンズと組み合わせたときに性能を発揮します。IP53レンズとの組み合わせでIP53、IPX1のレンズとの組み合わせでは、IPX1となります。M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISはIPX1、M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROはIP53
AF(オートフォーカス)性能
AI被写体認識AFでは鳥の姿全体や顔、さらには鳥の瞳を検出してフォーカスを合わせることが出来る。鳥を認識するAFは以前からあったが、アルゴリズムが見直されたようで、よりブラッシュ アップされた印象だ。鳥を認識して瞳にフォーカスを合わせる精度と追従性がより上がったように思える。ファインダーに鳥を捉えると一瞬でAI被写体認識が鳥を検出し、四角い枠で知らせてくれる。鳥がある程度近く、瞳を確認できる場面ではしっかりと瞳にフォーカスを合わせるので、撮影者はフレーミング等に、より集中できるだろう。ブッシュの中の鳥など手前に枝などが込み入ったシーンでも鳥にしっかり合焦する確率がかなり良くなった。筆者はフォーカス設定についてはほとんどカメラのAF任せなのでこのAI被写体認識AFを使うと、フォーカスポイントを鳥の瞳に毎回移動させる動作がなくなり、より素早くシャッ ターを押すことが出来るのでチャンスにはとても強くなった。じっくり鳥の群れを狙うときなど画面内に複数の鳥を検出した場合、その中のどの鳥にフォーカスを合わせるかを選択(8体まで)できるようにもなった。カスタムターゲットでフォーカスポイントを自分好みにカスタマイズできるのも便利だ。
高画質と連写性能、ブラックアウトフリー表示対応の静音連写SH2
前機種と同様、有効画素数2037万画素の裏面照射積層型Live MOSセンサーと画像処理エンジンTruePic Xを搭載しているOM-1 Mark IIは M.ZUIKO DIGITALのレンズ性能と相まって、マイクロフォーサーズのセンサーとは思えないほどの解像感があり、非常に高画質だ。ダイナミ クレンジも広くシャドウからハイライトまで階調豊かに記録される。低感度の撮影はもちろん、高感度性能も良好で、躊躇なく感度を上げる撮影も増えている。
画質面だけでなくLive MOSセンサーと画像処理エンジンTruePic Xは高速連写性能も高めている。AF/AE固定ながら秒間120コマという圧倒的な高速撮影(静音連写SH1)も画質を落とすことなくRAWデータとして記録できるほか、秒間50コマでAF/AE追従で撮影できる静音連写SH2は動きの速い野鳥の撮影には欠かせない。SH1、SH2連写ではファインダー像が消失しないブラックアウトフリー表示に対応しているので、動く被写体により対応しやすくなっている。ファインダーは前機種譲りの576万ドット有機ELファインダーでフレームレートも速くタイムラグも少ないので動体の撮影は快適。SH2連写では連写中にファインダーの像がブラックアウトすることなく表示され続けるので飛んでいる鳥の撮影は追い続けるのが非常に楽だが、シャッター速度を1/320秒以上にする必要があった。これがOM-1 Mark IIではSH2でのブラックアウトフリー撮影時、最低シャッター速度が1/320秒から1/160秒になった。これは地味な変更だが、早朝など、光の条件が厳しく、低速シャッターになりがちな時間帯に 撮影することが多い筆者にはとてもありがたい変更で、今まで朝夕の撮影などでブラックアウトフリーのSH2連写を使用しなかった条件でも使うことができるようになった。連写速度の設定も、今までの50fps、25fpsに加え、16.7fps、12.5fpsも選べるようになったので、普段は秒間25コマも必要としない筆者にはこちらもありがたい変更だ。連続撮影枚数もOM-1の約2倍※となったので、バッファ詰まりを気にすることなく、撮影に集中できるだろう。
※連続撮影可能枚数:SH1・120fps時〔JPEG LF〕約219枚/〔RAW〕約213枚
プロキャプチャーモード
シャッターボタン半押しで記録を開始し、全押しの瞬間からさかのぼって記録することが出来るこの機能は鳥の飛び立つ瞬間などの撮影に絶大な威力を発揮する。人の反応速度では捉えるのが難しい一瞬の動きを、弄せず撮影できるのは非常にありがたい。OM-1 Mark IIのプロキャプチャーモードはさかのぼって撮影できるコマ数が70コマから99コマに増え、より確実に狙い通りの瞬間が撮影できるようになった。鳥の飛び立つ瞬間などの撮影には、今やなくてはならない機能と言ってもいいだろう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
焦点距離300-1200mm相当*、野鳥撮影において必要なレンズの焦点距離のほとんどをカバーするこのレンズは、1200mm*という超望遠撮影を手持ちで気軽に楽しめるレンズだ。さらにテレコンバーターも装着可能なので1.4倍のM.ZUIKO DIGITAL Teleconverter MC-14使用で1680mm相当*、M.ZUIKO DIGITAL Teleconverter MC-20を使用するとなんと2400mm相当*という超超望遠撮影が可能だ。焦点距離2400mmという、ミラーレス一眼では今までほとんどなかった未知の世界を手軽に手にすることができるレンズだ。野鳥の撮影は 焦点距離600mm以上の焦点距離のレンズが理想だが、レンズ単体で300-1200mm相当*をカバーするので、でほとんどの撮影がこのレンズが1本でこなせるだろう。長い焦点距離のレンズは鳥にさほど近づかなくてもよく、 離れた距離で撮影することにより鳥に対するプレッシャーを軽減でき、こちらを警戒しない、より自然な表情を狙えるメリットがある。レンズ本体は1200mm相当*の超望遠でありながら2,065g(レンズキャップ、レンズリアキャップ、レンズフードを除く)と軽量で十分手持ち撮影ができる重さで、OM-1 Mark IIとのシンクロ手ぶれ補正も相性が良いのかとても良好だ。ズームリングは回転の重さを2段階に調整できるほか、レンズの先端部分を前後させることにより直進ズームとしても使えるユニークな仕様になっている。三脚座がアルカスイス互換のプレートなのもうれしい。PROレンズではないが、写りはシャープで望遠端でも絞り開放から充分な画質が得られるこのレンズは野鳥撮影においてオールマイティに使えるスタンダードになりえるレンズだと思う。
浜辺で鳥を探しているとウミネコが次々と飛んできた。波を背景に飛ぶウミネコの姿を正面から狙う。どんどん近づいてくるウミネコをAI被写体認識AFは背景の波にフォーカスを 取られることなく捉え続けてくれた。
OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
1200mm相当*/1/1250秒/F6.3/ISO 800
浜辺で休むミユビシギを正面から狙った。OM-1 Mark IIではAI被写体認識AFで複数の鳥を検出した場合、どちらの鳥にフォーカスを合わせるかを瞬時に選択することが可能になった。
OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
1200mm相当*/1/640秒/F6.3/ISO 400
残暑厳しい9月の浜辺、照りつける太陽のもと、佇むコオバシギの姿があった。かなりギラギラした逆光の厳しい光線だが、新しいレンズED 150-600mm F5.0-6.3 ISの描写は滲みもなくとてもシャープだ。
OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
900mm相当*/1/640秒/F6.3/ISO 400
忙しく波打ち際で食物を探していたミユビシギが浜に上がって腰を下ろして休み始めたので、2倍のテレコンバーターMC-20を使用、焦点距離2400mm相当*で上半身アップを狙った。2400mm での撮影はほとんど体験したことのない焦点距離なのでこれからも今までにない画が撮れそうだ。
OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS + MC-20
2400mm相当*/1/160秒/F13/ISO 400
主に高山で暮らすホシガラスをED 150-600mm F5.0-6.3 IS、焦点距離1200mm相当*で撮影。長い焦点距離での撮影は鳥との距離をとることができ、鳥に過度なプレッシャーを与えないで済むメリットがある。
OM-1 Mark II + ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
1200mm相当*/1/200秒/F6.3/ISO 400
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
PROレンズの名に恥じない最高の描写力と焦点距離1000mm相当*の超望遠レンズでありながら1,875g(レンズキャップ、レンズリアキャップ、レンズフードを除く)と軽量なこのレンズ。手にして以来、ほとんどの野鳥撮影をこのレンズ1本でこなしてきた。1.25倍の内蔵テレコンバーターが非常に便利で、あと一歩寄りたい時、瞬時に切り替えができるのが助かっている。手ぶれ補正もとても優秀で、ボディーとレンズのバランスもとても良く、実際の重さ以上に軽く感じ、焦点距離1000mm相当*での手持ち撮影も躊躇なくできる。最短撮影距離が1.3mと短いのもとっさに近くにとまった鳥にも慌てることなく対応可能なので便利だ。
天候の悪い条件でも安心して使えるIP53の防塵、防滴性能も備えるこのレンズは筆者の撮影には外すことのできない、唯一無二のレンズと言っていいだろう。
波を背景に食物を探して歩くコサギを逆光で撮影した。背景に奥行きのある波を入れたかったので、カメラはほぼ砂の上に置くくらいの位置で撮影したが、防塵・防滴性能に優れるOM-1 Mark IIと本レンズの組み合わせは砂を気にすることなく撮影を続けられた。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
947mm相当*/1/800秒/F5.6/ISO 200
羽繕いのあと、羽毛をフワッと膨らませたトウネン。カメラを水面ギリギリのローポジションに下げ、背面モニターを見ながら撮影した。手ぶれ補正が強力なのでギリギリの構図も安定してフレーミングできる。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
801mm相当*/1/1600秒/F5.6/ISO 400
木の葉の間から顔をだすメボソムシクイ。この写真のように鳥の手前に葉や枝がある状況でもAI被写体認識AFがしっかりと鳥の瞳を検出したのでフォーカスを合わせる確率が上がり、さらに信頼できるようになった。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*/1/320秒/F5.6/ISO 800
うっすらと朝焼けに染まる波を背景に佇むダイゼンの姿を捉えた。鳥の体のシャドウ部から光る波のハイライトまで階調豊かに表現され、OM-1 Mark IIと本レンズの高画質な性能がよく出た1枚。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*/1/400秒/F5.6/ISO 400
こちらに向かって飛ぶダイサギの飛行を追い、着地するまでをシャッター速度1/4000秒の高速シャッターで連写した。その中から着地寸前のカットをセレクト。ダイサギほどの大きな鳥の飛翔はAI 被写体認識AFで最後まで鳥を検出し続け、難なくフォーカスを合わせ続けてくれるので、連写した中から翼の形の良いカットを選ぶことができる。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*/1/4000秒/F5.6/ISO 800
羽繕いをしているオバシギがいたので、その後羽ばたきをするだろうと予測し、その動きをSH1の静音高速連写で狙った。秒間120コマの高速連写はオバシギの様々な翼の形を記録することができた。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO + MC-14
1400mm相当*/1/1000秒/F8.0/ISO 800
ミズキの実を食べにくるエゾビタキの飛びたちを静音連写SH2のプロキャプチャーモードで狙った。こういった写真を撮影するのにプロキャプチャーモードは最適。鳥の動きの速さを見て適切なシャッター速度に設定すればさほど苦労することもなく撮影できてしまう便利な機能だ。
OM-1 Mark II + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*/1/4000秒/F5.6/ISO 5000
最後に
前機種のOM SYSTEM OM-1が発売されてから2年弱、今回登場したOM SYDTEM OM-1 Mark IIは前機種譲りの高画質に加え、AI被写体検出AFや連続撮影枚数、5軸手ぶれ補正など、全てにおいて正常進化し、よりフィールドでの過酷な撮影にも安心して使用できる頼もしい相棒となった。これからも様々なフィールドで、たくさんの出会いを記録し続けてくれるだろう。
*35mm 判換算値
中村 利和
神奈川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、アシスタントを経てフリーランスのフォトグラファーとして活動。
高校生の頃、野鳥の観察、撮影を始めて以来、身近な野鳥を中心にその自然な表情、仕草を記録。「光」にこだわり、鳥たちの暮らす環境、その空気感を大切に撮影を続けている。
著書に写真集「BIRD CALL」青菁社 「鳥の骨格標本図鑑」文一総合出版(共著) 写真集「鳥の肖像」がある。
日本野鳥の会 日本自然科学写真協会(SSP)会員