身近な野鳥から旅先まで!進化した万能超望遠ズームレンズをレビュー ~写真家 菅原 貴徳~ OM-1 Mark II × M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

掲載日:2025年02月06日

掲載日:2025年02月06日

はじめに

 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS IIが発表された。4年前に登場し、OM SYSTEMにおける「野鳥撮影入門レンズ」として位置していた先代のM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISは、小型軽量を謳うマイクロフォーサーズらしさの詰まった超望遠ズームレンズとして人気を得た。その後に発売されたOM-1(2022年)、OM-1 Mark II(2024年)には、実用的な「AI被写体認識AF(鳥)」が搭載されたこともあって、野鳥撮影の現場でOM SYSTEMユーザーを見かける機会が増えたことを実感している。
 今回はOM-1 Mark IIとの組み合わせで撮影した作品を通して、リニューアル版となる本レンズの性能を紹介したい。

1本で幅広い焦点距離域をカバー

 本レンズは約1.3kg(三脚座込)、約1.1kg(三脚座なし)と軽量ながら、単体で200-800mm相当*という広い焦点距離域をカバーしている。全21枚の光学レンズのうち、EDレンズ4枚、スーパーHRレンズ2枚、HRレンズ2枚を使用することで高画質を実現している。
 800mmといえば一般的には超望遠域だが、野鳥撮影においては最低限必要な焦点距離と言える。必然的に望遠端で撮影することが多くなると思うが、その上で、周囲の環境を入れたい時や、群れ全体を写し込むなど、引きたい時には引ける、というイメージで使うとズームの利点を活かせる。
 逆に、警戒心の強い鳥や、近づけない場所でもう少し欲しい、というシーンもある。そのような時には、1.4倍および2倍のテレコンバーター(別売)にも対応しているため、使用時にはそれぞれの焦点距離が280-1120mm相当*、400-1600mm相当*のズームレンズとしても使用できる。基本的に、鳥たちとの距離が近くなるほど、鳥にプレッシャーを与えてしまいやすくなるので、焦点距離の長いレンズを使用することは鳥たちの自然な姿を観察する上でも重要と言えるので、併せて入手しておくとよい。

人気の高いカワセミ。筆者のフィールドでは、比較的近づかせてくれる個体でも、自然な姿を観察しようとすると、800mm相当*でこれくらいの大きさに写る距離が限度なので、800mm相当*のレンズは小鳥の撮影では最低限必要な焦点距離と言える。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/100秒/F6.3/ISO 800/-1.7EV

 先代のレンズを発売時にレビューしたときはOM-D E-M1 Mark Ⅲとの組み合わせだったが、その後に登場したOM-1およびOM-1 Mark IIの描写は従来機に比べ繊細感が高めになっていることもあって、より本レンズの性能を実感しやすくなった印象を受けた。それには、正確なAI被写体認識AFや、後述する5軸シンクロ手ぶれ補正の効果もあるはずだ。

 また、筆者はOM SYSTEMの機材を持ち出すとき、「撮影に行く」というよりも「野鳥観察にカメラも持っていく」というようなイメージでいることが多い。その中でも本レンズに関してはその印象が強く、三脚座を外してカバンにスポッと納め、とても気楽に、負担にならない範囲で連れ出している。
 なお、先代のレンズでは三脚座の着脱の際には、レンズからカメラ本体を取り外す必要があったが、本機種では新設計の三脚座となっており三脚座の回転部分がパカっと大きく開くようになり、着脱が簡単になった。頻繁に三脚座の脱着を行うユーザーには、地味なようで重要な仕様変更だろう。

秋の森を散策中、エゴノキの実を食べにヤマガラが集まっているのを見つけた。AI被写体認識AF(鳥)を使うことで正確に目に合焦してくれるようになり、先代レンズのレビュー時よりも撮影が大幅に軽快になったのを感じた。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/200秒/F6.3/ISO 1600/+0.7EV

ズームレンズ1本で撮影するオーストラリアの鳥たち

 ここから先に登場する鳥たちは、M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS IIとOM-1 Mark IIとの組み合わせでオーストラリアでの取材中に撮影したもの。航空機を使用しての旅に向けての機材選びでは、機材重量も重要なポイントになるが、1本で広いレンジをカバーでき、かつ軽量なレンズはよい選択肢になる。
 また、初めて出会う鳥たちの姿をなるべく多く記録することも重要。そういう意味でも、いつでも連れ出せる小型軽量性能は欠かせない。写っている鳥たちのバリエーションから、様々な場面で活躍するレンズである点を感じていただけると嬉しく思う。

オーストラリアゴシキセイガイインコ。最初の出会いは街中の公園だった。短期間に一期一会の出会いが続く旅先では、いつでもどこでも連れ出せることの意義を感じやすい。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/125秒/F6.3/ISO 400

800mm相当*で撮影したズグロトサカゲリ。極力、レンズの位置を下げ、バリアングル液晶を上から覗き込んでの撮影。このように不安定な姿勢で撮影する時、手ぶれ補正と、レンズの軽量性の恩恵を強く感じる。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/4000秒/F6.3/ISO 400

1枚前を撮影したまま干潟で静止していると、鳥たちに囲まれたので、ズームを引き、200mm相当*で撮影したもの。周囲の風景や別個体の様子を写し込むことができた。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

200mm相当*/1/4000秒/F5.0/ISO 400

羽繕いの後、コミカルな動きを見せたコシグロペリカン。全身が写る構図で撮影していたところから咄嗟にズームを最大にし、印象的な部分をアップで切り出してみた。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/2500秒/F6.3/ISO 200

マングローブの縁に佇むオーストラリアセイタカシギ。光に包まれる雰囲気を表現しようと逆光側から撮影した。細い嘴の縁や、ボケの縁に色の滲みが出現していないことにも注目してもらいたい。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/800秒/F6.3/ISO 400

2倍テレコンバーター MC-20を使い撮影したシマコキン。1600mm相当*での撮影でよりシビアになるピント合わせは、AI被写体認識AF(鳥)に任せた。(三脚使用)

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II + MC-20

1600mm相当*/1/400秒/F13/ISO 800

強化された手ぶれ補正

 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS IIにおける最大の進化ポイントは、最大で7.0段の「5軸シンクロ手ぶれ補正」に対応したことだ。前機種にも手ぶれ補正は搭載されていたが、ボディー本体とシンクロしなかったため、M.ZUIKO DIGITAL PROシリーズのレンズに慣れた目で比較すると、ファインダー像が不安定に見えることがあった。
 5軸シンクロ手ぶれ補正に対応したことにより、林内での撮影や、薄暮の時間帯など、光が限られシャッター速度が上がりにくい状況でもより安定した撮影が可能になった。実際、撮影した写真を見て、キレが良くなったように感じる機会も多々あったが、細かな手ぶれが取り除かれたことも影響しているように感じた。手ぶれ補正が効くことは、構図を調整しやすくなる上、フォーカスの確認もしやすくなるのでメリットが大きい。
 また、テレコンバーター使用時には手ぶれの影響も大きくなるが、その分手ぶれ補正の効果もより強く実感できる。ただし絞りF値が低下してシャッター速度は下がりがちなので、適宜ISO感度を上げるなどして被写体ぶれに気をつけながら撮影しよう。

5軸シンクロ手ぶれ補正時 7.0段補正 (100mm時) / 5.5段補正 (400mm時)/*CIPA規格準拠 2軸加振時 (Yaw / Pitch)/半押し中手ぶれ補正:OFF/使用ボディー:OM-1 Mark II
 5軸シンクロ手ぶれ補正対応カメラとの組み合わせが必要です。

森で見つけたキアシビタキ。光源が限られる中、1/100秒というシャッター速度でも問題なく手持ち撮影できた。身軽に散策できるほか、茂った木々によって鳥が見える角度も限られることが多いので、三脚なしで探索できるメリットは大きい。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/100秒/F6.3/ISO 1600/-1.3EV

日没後の砂浜で撮影したズグロトサカゲリ。ISO感度6400の高感度を使用しても1/40秒という低速シャッターになったが、強力な5軸シンクロ手ぶれ補正のおかげもあって手ぶれのない撮影を行うことができた。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

538mm相当*/1/40秒/F6.2/ISO 6400

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/400秒/F6.3/ISO 400

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II + MC-14

1120mm相当*/1/640秒/F9.0/ISO 800

朝日を浴びるヒジリショウビン。安心して長く静止していたので、1.4倍テレコンバーター MC-14を装着して1120mm相当で撮影したのが2枚目。手ぶれ補正の恩恵は望遠であるほど感じやすい。

連写を活用した飛翔撮影

 細身で軽量、取り回しの良い本レンズは、飛翔撮影も快適に行うことができる。OM-1 Mark IIとの組み合わせでは、AI被写体認識AF(鳥)によって飛翔中であっても鳥の「目」または「顔」にフォーカスのポイントを合わせてくれるので、画面の中の鳥の位置、大きさが変化しても、ファインダーに捉え続けることだけを意識して撮影すればよい。基本的には、連写中もピント、露出が追従し、最大20コマ/秒で連写可能な「静音連写」、または最大25コマ/秒でブラックアウトフリーの連写が可能な「静音連写SH2」を使用するとよいだろう。

木陰で休息していると、ワライカワセミがこちらへ飛んでくるのが目に入った。なるべく小さな動きでカメラを構え、近くを通過するタイミングで撮影した。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/500秒/F6.3/ISO 400

 もちろんプロキャプチャーモードにも対応している。鳥が飛び立つ瞬間のように、動きに反応してシャッターを押す通常の連写では捉えることの難しい瞬間を、時間を遡ることで撮影できる機能だ。
 OM-1 Mark IIと本レンズとの組み合わせの場合、ピント、露出が1コマ目に固定される「プロキャプチャー連写SH1」では最大120コマ/秒、ピント、露出が連写中も追従する「プロキャプチャー連写SH2」では最大25コマ/秒の速度で、いずれも99コマ分を遡ることが可能だ。コツは鳥の目線方向を開けて待つことと、1/2500秒以上の高速シャッターを使用することで、鳥のサイズや距離によっては更に上げる必要がある。飛び立ちの一連の高速連写をRAWで記録できるのもOM SYSTEMのメリットの一つなので、ぜひ活用してほしい機能だ。
 プロキャプチャーモード使用時には飛び立つまで機材をホールドしたまま待つことになるが、時に長時間になることもあるので、カメラもレンズも少しでも小型で軽いシステムの方がありがたいのは言うまでもない

メガネコウライウグイスが飛び立つ瞬間を、プロキャプチャー連写SH1を使用して撮影した。120コマ/秒という高速連写で撮影した一連のうち、翼が伸びきった1枚を選んだ。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/6400秒/F6.3/ISO 2000/プロキャプチャー

先代譲りの便利機能

 先代のレンズと同様、最短撮影距離はズーム全域で1.3mを実現している。これにより、焦点距離が200mm、800mm相当*時にそれぞれ0.17倍、0.57倍相当*の拡大撮影が可能だ。フィールドでは色々なものが目に入るが、不意に見つけたトンボや蝶などを記録するのにも便利だった。
 野鳥撮影においては、最短撮影距離付近が必要になるシーンは多くないが、鳥が近づいてくることもあるので、短いに越したことはない。特に、今回旅したオーストラリアでは鳥との距離が日本よりも近めだったので、その恩恵を感じるシーンも多かった。

オーストラリアヤブツカクツリが約3mの距離まで近づいてきた。頭部の色彩が印象的だったので、望遠端で大きく切り取った。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/1600秒/F6.3/ISO 800/-1.0EV

採餌中、足元にやってきたヨコフリオウギビタキ。ズームを広角側に引いて、最短撮影距離付近で撮影した。日本ではこの距離で小鳥を撮影できることは多くないが、海外ではこんなこともある。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

200mm相当*/1/800秒/F5.0/ISO 400

 OM SYSTEMの代名詞でもある「耐天候性能」も搭載している。伸縮式のズームレンズということで、雨天時の撮影を心配するユーザーもいるかもしれないが、しっかりと防滴性能 (IPX1)と、防塵に配慮した設計を備えており、突然の雨も心配不要だ。レンズ前面にも新たにフッ素コーティングが施されたので、前玉に雨粒が吹き込んでしまった場合でもブロワーで簡単に吹き飛ばすことができる。フィールドで使う道具としてありがたい進化だ。

牧草地で探鳥中、急な雨が降ってきた。周囲に雨宿りできる場所はなかったが、機材が防塵・防滴設計なのでそのまま撮影できた。

OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II

800mm相当*/1/500秒/F6.3/ISO 6400

最後に

 いかがだっただろうか。取り回しの良さ、手ぶれ補正性能の向上など、マイクロフォーサーズの強みを活かせるレンズとして、普段、M.ZUIKO DIGITAL PROシリーズのレンズを使用している筆者から見ても魅力的な1本に仕上がっている。入門機としての位置付けにとどまらず、次代の野鳥撮影レンズとして活躍していくことだろう。

*35mm 判換算値

記事内で使用した機材

菅原 貴徳

1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持ち、11歳で野鳥観察をはじめる。東京海洋大学、ノルウェー留学で海洋学を、名古屋大学大学院で海鳥の生態を学んだ後、写真家に。著書に写真集『木々と見る夢』 (青菁社)、『図解 でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)などがある。