OM-1 Mark II × 写真家 福田 健太郎 ~望遠レンズで切り取る自然風景~

掲載日:2026年2月10日

掲載日:2026年2月10日

はじめに|なぜ風景を望遠レンズで撮るのか

風景写真といえば、広角レンズで雄大な景色を写すイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、実は風景撮影において望遠レンズの活用シーンは非常に多いものです。「美しいと感じた部分を切り取りたい」、「風景に漂う空気感を凝縮したい」など、視点を絞ることで写真の印象は劇的に変わります。本記事では、望遠レンズの基本特性や撮影時に気をつけたいポイント、さらにはOM SYSTEM OM-1 Mark IIのコンピュテーショナル フォトグラフィを活用した作例を交えながら、その魅力について解説していきます。

望遠レンズの特性|その1「引き寄せ効果」

望遠レンズで狙う風景は、必ずしも有名な山岳や壮大な大自然である必要はありません。 満開の桜、霧に包まれた森、海面に反射する光の帯など、自分の心が動いた光景であれば、それが立派な被写体になります。大切なのは、主役を明確に伝えるための「引き算」 の意識です。風景のすべてを説明しようとすると情報量が多くなり、主題が曖昧な写真になりがちです。望遠レンズ特有の「引き寄せ効果」で主役を大きく写し出せば、余計な要素を省き、画面をすっきりと整理することが容易になります。

標準域のレンズでは、夕日は決して大きくは写りません。しかし、広い海や空といった周囲の環境をあわせて捉えることで、一日の終わりに漂う穏やかな空気感や、空間の奥行きを表現することができます。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

48mm相当*, Mモード, 1/320秒, F8.0, ISO 200

一方、同じ場所から望遠域で撮影すると、画角が狭まることで夕日を大胆に引き寄せることができます。画面の中で大きく写し出された夕日は、その輝きを増し、主役としての存在感がより一層際立ちます。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

160mm相当*, Mモード, 1/2000秒, F7.1, ISO 200

OM-1 Mark IIのファインダー越しに広がる風景です。自分の心が動いた「象徴的な部分」はどこにあるのか。風景をじっくりと観察し、ファインダーを覗きながら切り取る範囲やフレーミングを丁寧に探っていきます。足場が限られ、ポジション移動が難しい風景撮影の現場では、ミリ単位で画角を微調整できるズームレンズが非常に心強い味方になります。

扇状に広がるピンクの桜を主役に、手前の桜と黄色いスイセンを組み合わせ、春の華やかな空気感を表現しました。望遠レンズの「引き寄せ効果」を活用して、主役と前景を画面いっぱいに大きく捉えることで、視覚的なインパクトを強めています。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

122mm相当*, Mモード, 1/125秒, F8.0, ISO 200

望遠レンズの特性|その2「ボケ効果」

背景を大きくぼかした写真を見て、「こんな風に撮ってみたい」と憧れたことのある方はきっと多いはず。このボケ描写にはいくつかの条件が関わりますが、レンズの「焦点距離」はその筆頭です。50mm、100mm、200mm……と焦点距離が長くなるほど、ピントの合う範囲は浅くなる性質があります。そのため、望遠レンズは前後の像をぼかしやすく、主役を浮き立たせる表現に長けているのです。実際の撮影では、主役の被写体を選ぶだけでなく、前後に何を配置するかが大切。ポジションやアングルを調整しながら、理想のボケを探ってみましょう。

大口径F2.8の超望遠ズームレンズを使用。絞りを開放のF2.8に設定して撮影したことで、背景のハス畑はとろけるように滑らかにぼけ、ピントを合わせた大輪の花が見事に浮かび上がりました。超望遠ならではの浅い被写界深度が、主役の美しさを一層引き立てています。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

342mm相当*, Mモード, 1/320秒, F2.8, ISO 200

シダレザクラの持つ優美さを象徴的に捉えるため、背景の構成にこだわりました。垂れ下がる花びらをボケとして活用し、太陽の光をバックライトに配置。ボケの重なりが生む立体感と、画面全体に広がる透明感は、まさに望遠レンズならではの醍醐味です。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当*, Mモード, 1/320秒, F2.8, ISO 200

望遠レンズの特性|その3「圧縮効果」

望遠レンズのもう一つの大きな魅力が「圧縮効果」です。これは遠近感が弱まり、手前と奥の距離がグッと縮まって写る特性のこと。幾重にも重なる山並みや、密集した建物、立ち並ぶ樹木など、肉眼で見るよりも密度の高い表現が可能になります。この効果を活かせば、風景の中にグラフィカルな構成やリズムを生み出すことができます。撮影のポイントは、被写体からあえて物理的な距離を置くこと。遠く離れた場所から望遠レンズで狙うことで、距離の異なる複数の要素を一つの平面に凝縮し、ダイナミックな作画を楽しむことができます。

被写体から少し距離を置き、望遠レンズの「引き寄せ」と「圧縮効果」を掛け合わせました。そうすることで、林立するシラカバの縦のラインが整然と並び、初夏の爽やかさに満ちた美しい森の表情を捉えることができました。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

150mm相当*, Mモード, 1/30秒, F8.0, ISO 200

狙ったのは、光のシャワーが降り注ぐ山の稜線です。実際には手前と奥で大きな隔たりがある風景ですが、望遠レンズの圧縮効果を利用して平面的に構成しました。奥行きを排除し、光とラインの重なりを強調することで、よりグラフィカルで印象的な一枚に仕上げています。

OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO

80mm相当*, Mモード, 1/200秒, F11, ISO 200

望遠レンズの撮影で気をつけたいところ|ピント合わせ

風景の繊細なディテールや質感を余すところなく伝えるには、狙った場所にしっかりとピントを合わせることが基本です。先述した通り、望遠レンズには「ピントの合う範囲が浅い」という性質があります。そのため、わずかなピントのズレが写真全体の「甘さ」として目立ってしまいがちです。撮影現場では「なんとなく」で済ませず、状況に応じて確実にピントを追い込むことも大切なテクニックの一つだと意識しましょう。

風景撮影では、画面内の非常に小さな部分にピントを合わせたい場面が多々あります。私の場合、そのようなシーンではAFターゲットのモードを「Singleターゲット(1点)」に設定します。測距点を最小単位に絞り込むことで、意図しない場所へのピント抜けを防ぎ、より確実にフォーカスを合わせやすい印象です。この「確実性」こそが、望遠撮影での失敗を減らす鍵となります。

この撮影では、桜の花のシベにシビアにピントを合わせることで、その可憐な表情を繊細に捉えることができました。構図の中のどこを主役にし、どこにピントを置くのか。その最終的な決断は、撮影者自身が行うべきものです。一枚一枚、被写体と対話するように丁寧な撮影を心がけましょう。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

172mm相当*, Mモード, 1/500秒, F4.0, ISO 200

望遠レンズの撮影で気をつけたいところ|ブレ

強力な手ぶれ補正機能を備えたOM SYSTEMのカメラは、望遠撮影でも圧倒的な安心感があります。しかし、一般的に望遠レンズは、焦点距離が長くなるほどわずかな手ぶれや被写体ブレが顕著に現れるものです。風景撮影では三脚を使用する場面も多いですが、それでも油断は禁物です。風による草木の揺れや、動く被写体を捉える際は、その場の状況に合わせた適切なシャッター速度を選択し、被写体ブレを確実に防ぐ意識が欠かせません。

離れた位置から超望遠ズームレンズで引き寄せ、飛び回るハチにピントを合わせました。 予測不能で素早いハチの動きをシャープに捉えるため、ISO感度と絞り値を調整し、1/8000秒という高速シャッターを選択。一瞬の動きを完璧に止め、鮮明に写し出すことができました。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当*, Mモード, 1/8000秒, F2.8, ISO 400

撮影した写真を拡大してみました。大口径F2.8の超望遠ズームレンズを使い、絞り開放で撮影したカットですが、気持ちよいほどシャープに描き出されているのが分かります。どれだけ解像力が高くても、被写体ブレが発生すれば写真の印象は弱まってしまいます。まずは「ブレさせないこと」を徹底し、レンズのポテンシャルを最大限に引き出しましょう。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

400mm相当*, Mモード, 1/8000秒, F2.8, ISO 400
部分拡大

コンピュテーショナル フォトグラフィ|ライブGND(グラデーションND)機能

ライブGNDは、風景撮影で直面しがちな「明暗差」をカメラ内で解消し、白トビや黒ツブレを抑えた美しい階調を再現できる画期的な機能です。GNDの段数(GND2、4、8)やフィルタータイプ(Soft、Medium、Hard)の選択はもちろん、効果がかかる境界ラインの位置や角度を、ファインダーを覗きながら自在に調整できます。

通常撮影

朝の光を浴びて輝くシダレザクラを望遠レンズで引き寄せ、遠くに霞む山並みとともに「山里の春」を表現しようと試みました。しかし、いざ撮影してみると、空と地上風景の明暗差があまりに激しく、空が真っ白に白トビしてしまいました。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

114mm相当*, Mモード, 1/125秒, F2.8, ISO 200
通常撮影

ライブGND撮影

このようなシーンこそ、ライブGNDの出番です。空と山の境界にラインを合わせ、自然な仕上がりを目指しました。今回は「ND8・Soft」を選択。露出のバランスを緻密に整えたことで、白トビすることなく、朝焼けに染まる空の色を見事に再現することができました。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

114mm相当*, Mモード, 1/125秒, F2.8, ISO 200
ライブGND(ND08/Soft)

コンピュテーショナル フォトグラフィ|ライブND機能

OM-1 Mark IIでは、新たに「ND128」が追加され、ND2から128まで合計7段階の選択が可能になりました。 これにより、従来は白トビしやすかった晴天昼光の明るいシーンでも、容易にスローシャッター効果を得ることができます。肉眼では捉えきれない、水の流れなどが描き出す幻想的な世界。ライブNDは、表現の可能性をどこまでも広げてくれます。

シャッター速度1/13秒で捉えると、適度なまとまりのあるブレ描写になり、水の流れに瑞々しい躍動感が生まれます。 完全に流れを消し去るのではなく、あえて動きを残す。撮影意図によっては、このような「動」を感じさせる描写こそが、その場の空気感を伝えるのに最適な選択となることもあります。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

180mm相当*, Mモード, 1/13秒, F5.0, ISO 200
通常撮影

ND128を選択すると、水の流れは肉眼の印象を遥かに超えた、シルクのように滑らかな描写へと変貌しました。余計な情報の削ぎ落とされた水面が、岩の存在感と苔の緑の繊細さを一層際立たせています。私がイメージした清涼感に溢れる世界が、そこに広がっていました。

OM-1 Mark II + ED 50-200mm F2.8 IS PRO

196mm相当*, Mモード, 13秒, F5.6, ISO 200
ライブND(ND128)

コンピュテーショナル フォトグラフィ|深度合成機能

ピント位置をわずかにずらしながら複数枚を連続撮影・合成することで、ピントの合う範囲を劇的に広げる機能です。 もともとピントの合う範囲が浅い望遠レンズでは、極限まで絞り込んでも画面全体にピントを合わせるのが難しい場面があります。深度合成機能は、そうした望遠特有の制約を補い、手前から奥までシャープに描き出す風景撮影において有効なツールとなります。

望遠レンズで奥行きのある被写体を狙う際、必ず直面するのがピントの合う範囲の問題です。 このヒマワリ畑のカットでは、手前の花にピントを合わせたことで、奥の風景は大きくボケて再現されました。F5.6という絞り値では、画面全体をシャープに再現することは困難です。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

150mm相当*, Mモード, 1/320秒, F5.6, ISO 200
通常撮影

絞り値はF5.6のまま、深度合成機能をONにして撮影しました。カメラ内で瞬時に複数枚が合成され、手前の花から遥か奥のヒマワリまで、画面全域にピントが完璧に合った一枚が完成しました。隅々まで解像したその姿は、肉眼で見た光景を超越するほどに精緻。その圧倒的な描写力には、ただ驚かされるばかりです。

OM-1 Mark II + ED 12-100mm F4.0 IS PRO

150mm相当*, Mモード, 1/320秒, F5.6, ISO 200
深度合成

終わりに

望遠レンズを使った風景撮影。それは、目の前の広大な世界をじっくりと観察し、心に響いた瞬間を丁寧に切り取るプロセスです。そうして写し出す範囲を絞り込むことで、より深い表現へと辿り着くことができます。風景の中に隠れた美しさを、自分の目と心で見つけ出す行為は、写真を撮る喜びそのものです。次にフィールドへ出かけた際は、ぜひ望遠レンズを手に取り、風景の細部に目を向けてみてください。そこにはきっと、これまで気づかなかった新しい世界が広がっているはずです。

*35mm判換算値

記事内で使用した機材

福田 健太郎 プロフィール画像

福田 健太郎

1973年、埼玉県川口市生まれ。
幼少期から自然に惹かれ、18歳で写真家の道を志す。写真家・竹内敏信氏のアシスタントを経て、フリーランスとして独立。以来、日本各地を主なフィールドに、生命力に満ちた自然の営みや風景の真髄を追い続けている。主な写真集に『泉の森』、『春恋し-桜巡る旅-』などがあり、著書も多数。
公益社団法人 日本写真家協会会員(JPS)
公益社団法人 日本写真協会会員(PSJ)