写真家 海野 和男 × OM SYSTEM OM-1 Mark II ~ネイチャーマクロ撮影に最適なカメラ~
掲載日:2024年01月30日
掲載日:2024年01月30日
OM-1の後継機、OM-1 Mark IIが2024年2月に発売。
IP53の防塵・防滴性能、小型軽量のシステム、先進のデジタル表現を実現したコンピュテーショナル フォトグラフィ機能など、野外でのネイチャーマクロ撮影にこれほど向いたカメラはないと言ってよいだろう。
外観については、大きさはOM-1そのままで、ペンタ部に「OM SYSTEM」、マウント脇に「II」があることがOM-1 との違いだ。OM-1の機能をすべて受け継いでいて、高感度特性、コンピュテーショナル フォトグラフィ機能(深度合成など)の迅速化など、目立たない部分で大幅な改良が加えられていると実感した。
ヒャクニチソウにキアゲハ
蝶の撮影ではテレコンバーターの「M.ZUIKO DIGITAL 1.4 x Teleconverter MC-14」や「M.ZUIKO DIGITAL 2 x Teleconverter MC-20」を組み合わせて使うことが多い。
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO + MC-20
360mm 相当*/1/250 秒/F7.1/ISO 800
カクトラノオの花にきたコシブトハナバチ
コシブトハナバチは⾧いくちばしのような口を持つかわいいハナバチだ。瞬間をとらえるためプロキャプチャーモード機能を使って撮影。
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO + MC-14
252mm 相当*/1/3200 秒/F6.3/ISO 1250
超望遠レンズを使えば、遠くからまるでマクロレンズで撮ったような鮮明な写真が撮れる。ネイチャーマクロは、マクロレンズと超望遠レンズにお任せだ。
コンピュテーショナル フォトグラフィ 「深度合成」機能
マクロ撮影では極めて被写界深度が浅い。深度合成機能はカメラがフォーカス位置を自動的に変え、複数枚撮影し、ピントの合った部分を合成してくれる機能だ。
この機能は最近の他社カメラでも搭載されているが、簡単かつ瞬時にカメラ内で合成してくれるカメラはOM SYSTEM が最も優れていると思う。特にOM-1やOM-1 Mark IIは優れていて、合成時間も数秒と極めて短い。この機能があるからOM SYSTEMを使うというプロカメラマンも多い。
OM-1 Mark IIの深度合成機能はデフォルトで8枚、フォーカスステップ5になっているが、ぼくの撮影ではおおよそこの設定でうまくいく。大きな昆虫を撮影する場合は絞り(F値)開放でも良いが、2~3cm程度の昆虫を撮影する場合、絞り(F値)を1~2段絞る。1cmくらいの昆虫の場合は2段以上絞りたい。撮影枚数を増やす(15枚まで撮影して合成)ことも可能だが、ぼくはよほど小さな昆虫以外は、撮影中に虫が動けば被写体ぶれとなり深度合成は失敗するので、絞り(F値)を絞ることによって調整している。今や、昆虫撮影に深度合成機能は必須である。またマクロ撮影では特に手ぶれも恐いので、シャッター速度が1/125秒以上になるようにISO感度を設定したい。また、超望遠で深度合成機能を行うには必須ではないが三脚の使用が望ましい。
シオカラトンボの顔をM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROレンズで深度合成機能を使って撮影
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO + MC-14
252mm 相当*/1/400 秒/F5.6/ISO 200/深度合成
飼っているグランディスオオクワガタをM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROレンズで深度合成機能を使って撮影。
クワガタは触角がいつも動いているので深度合成しにくい被写体だ。
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm 相当*/1/50 秒/F8.0/ISO 400/深度合成
花の上で蝶を食べた直後のカマキリの顔を、深度合成機能を使い撮影。 顔に蝶の鱗粉が付いているのがはっきりとわかる
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm 相当*/1/250 秒/F5.6/ISO 200/深度合成
最短撮影距離が19cm と短いM.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroレンズを使用し、カマキリに近づいて撮影。近づくことでカマキリの警戒する姿を撮影することができた。
OM-1 Mark II + ED 30mm F3.5 Macro
60mm 相当*/1/60 秒/F5.6/ISO 400/深度合成
OM-1 Mark IIの操作性は、基本OM-1と変わらないが、OM-1で少し使いにくかったダイアル操作が快適になった点は良い。高感度特性もさらに良くなったように感じる。プロキャプチャーモードなどで、飛翔する蝶を撮る時に、朝や日影などの高感度撮影時でも安心して撮影が出来るようになったのは嬉しい。今まで通常はISO 3200を上限と考えていたが、ISO 6400でも十分使えるので、ISOオートの上限をISO 12800に設定して使った。
深度合成機能などのコンピュテーショナル フォトグラフィは今までより進化し、体感では撮影時間が半減したように思う。だから手持ちで深度合成機能を使った撮影時間が瞬時と言ってもよく、普通にシャッターを押している感覚で撮影できる。
ニシキツバメガの翅を、深度合成機能を使って撮影。M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROは、最大撮影倍率が4 倍*と高いので15 枚に設定して深度合成撮影を行った。室内での撮影で、光源はマクロフラッシュ「STF-8」を使用
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm 相当*/1/60 秒/F18/ISO 800/深度合成
ベランダにアマガエル(左)とシュレーゲルアオガエル(右)がいた。2匹にピントを合わせるため深度合成機能(8枚設定)を使用。
OM-1 Mark II + ED 30mm F3.5 Macro
60mm 相当*/1/60 秒/F4.0/ISO 1000/深度合成
羽化直後のキチョウの翅を、M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROとM.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20の組み合わせで、ほぼ最短距離で撮影してみた。最大撮影倍率約8 倍*で深度合成撮影(12枚設定)。室内での撮影でLEDライトを使用
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO + MC-20
360mm 相当*/1/40 秒/F10/ISO 200/深度合成
テレコンバーターを使ってマクロレンズ並の高倍率撮影
ネイチャーマクロ撮影に最適なレンズはマクロレンズだけではない。マクロレンズ以外のレンズでも撮影倍率が高いレンズがたくさんある。マクロレンズ以外のレンズを選ぶ場合、テレコンバーター「M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14」や「M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20」に対応していること、深度合成機能に対応したレンズであることが条件になる。テレコンバーターを装着することで撮影倍率を1.4 倍か2 倍にすることができるからだ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 Rなどのレンズをお使いの方は、ぜひこの機会にテレコンバーター対応レンズの購入を検討いただきたい。ネイチャーマクロ撮影ではテレコンバーターは焦点距離を伸ばす目的ではなく、最大撮影倍率を高めるのが目的だ。M.ZUIKO DIGITAL PROシリーズレンズでは「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」レンズがテレコンバーター使用可能で、深度合成機能にも対応したレンズだ。PROシリーズレンズ以外では、「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」がテレコンバーターと深度合成機能に対応したレンズとなる。
キアゲハがヒャクニチソウで蜜を吸うところを撮影。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO とM.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20 の組み合わせで、最大撮影倍率0.84 倍*とマクロレンズ並の拡大率となる
OM-1 Mark II + ED 40-150mm F2.8 PRO + MC-20
600mm 相当*/1/1250 秒/F5.6/ISO 400
ミドリヒョウモン
超望遠ズームレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISはテレコンバーター対応だ。離れた位置からでもマクロレンズで撮影したような写真が撮れることが特⾧の一つだ。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS + MC-20
1498mm相当*/1/320 秒/F13/ISO 400
ツバメシジミ
地面にいる蝶はカメラを地面に置いて撮影する。カメラもレンズも防塵・防滴対応なので安心して撮影に集中できる。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS + MC-14
1120mm 相当*/1/200 秒/F9.0/ISO 320
マクロ(Macro)レンズを使いこなす
OM SYSTEM のマクロレンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」の3種類ある。いずれも優秀なマクロレンズだが、テレコンバーターに対応したレンズはED 90mm F3.5 Macro IS PRO レンズのみだ。ED 30mm F3.5 Macro とED 60mm F2.8 Macro レンズは最大撮影倍率がそれぞれ2.5 倍*、2.0 倍*の撮影ができるレンズだ。他社のフルサイズカメラで最大撮影倍率2 倍の撮影ができる純正レンズは現在存在しない。(2024 年1 月現在)
一方、ED 90mm F3.5 Macro IS PRO レンズは、最大撮影倍率4倍*の撮影が可能なレンズだ。テレコンバーターが使用可能なので、M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20との組み合わせでは、なんと最大撮影倍率8倍*の撮影が可能で、およそ⾧辺4mmのものを画面いっぱいに写し撮る事ができる。さらに、この組み合わせで深度合成機能も使えるので、蝶の翅を写せば鱗粉までくっきり写すことができ、蝶の卵も大写しできてしまう。マクロレンズはED 90mm F3.5 Macro IS PROが万能だが、小型のレンズが良いと言う方には小型軽量で扱いやすいED 30mm F3.5 Macro やED 60mm F2.8 Macro レンズがおすすめだ。どのレンズも深度合成機能に対応しているので色々なマクロ撮影を楽しむことができる。また、最短撮影距離も短いので、至近距離の撮影で、ぶれないように虫がいる葉を片手で押さえたりする場合もマクロレンズは使いやすい。
キチョウの卵
深度合成機能(15枚設定)を使い撮影倍率8倍*で撮影。
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO + MC-20
360mm 相当*/1/50 秒/F16/ISO 400/深度合成
ツユクサ
深度合成機能を使い撮影。花粉まではっきり写っているのがわかる
OM-1 Mark II + ED 60mm F2.8 Macro
120mm 相当*/1/125 秒/F5.6/ISO 2000/深度合成
朝露に濡れたチョウセンシオン
深度合成機能(15枚設定)を使い撮影。三脚使用
OM-1 Mark II + ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm 相当*/1/160 秒/F11/ISO 1250/深度合成
マクロフラッシュ「STF-8」を使う
野外でED 90mm F3.5 Macro IS PROレンズを使い、動いている虫を撮影倍率2倍以上で撮影する場合は、マクロフラッシュ「STF-8」を使うことが必須だ。設定は、マニュアル露出モードでシャッター速度1/250秒、絞り値はF11~F16の設定が基本だ。
マクロフラッシュ「STF-8」を使用し最短撮影距離で小さな虫を拡大撮影
プロキャプチャーモード
プロキャプチャーモードはシャッターを半押ししている間から撮影を開始し、シャッター全押しの瞬間からさかのぼって画像を記録してくれる便利な機能だ。虫などの飛翔の瞬間を撮る時には必須の機能だ。プロキャプチャー機能があって、初めて蝶の飛翔が撮れたという人も多い。
プロキャプチャー連写SH1設定はフォーカス固定で60コマ/秒、100コマ/秒、120コマ/秒から選べる。SH2はAF追従で、12.5コマ/秒、16.7コマ/秒、25コマ/秒、50コマ/秒から選べる(50コマ/秒は使用レンズが限定。)。ぼくの設定はSH1、120コマ/秒で半押ししている間の画像を50コマ保存する設定にしている。0.4秒前までが撮れるのだが、それで思った画像が撮れない人やたくさん撮れすぎて困る人の場合は60コマ/秒に設定するのが良いと思う。この場合シャッター速度が重要で蝶の飛翔の場合、シャッター速度はおおよそ1/3200秒が必要だ。マニュアル露出モードもしくはシャッター速度優先モードで、シャッター速度を1/3200秒にするのが良い。それでも素早い小型の蝶でぶれることもある。その場合はシャッター速度を1/4000秒とか1/5000秒にする。シャッター速度が速いのでISO感度はオートの場合かなり上がることがあるが、OM-1 Mark IIでは高感度特性が良くなったと感じているので、ISOオートの上限設定をISO12800 に設定すると、よほど暗くない限りは撮影出来る。絞り(F値)は1段絞るか開放を用いる。
カラスアゲハ
プロキャプチャーモードSH2設定で撮影。シャッター半押し間の50枚の中、前半5枚目の写真。プロキャプチャーモードでなければ撮れなかった1枚だ。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
338mm 相当*/1/3200 秒/F5.8/ISO 5000
オオカマキリがコアオハナムグリを捕らえる瞬間をプロキャプチャーモード、SH2設定で撮影。あまり迫力のある写真ではないが、鎌で捕らえる直前の画像。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
436mm 相当*/1/4000 秒/F6.0/ISO 4000
ナミアゲハ
プロキャプチャーモードSH2は、このようなシーンでも使える。なかなか2匹をうまく入れることは出来ないが、たまたま2匹が蜜を飲んでいるところを撮ろうとした時に撮れた。肝心の飛んでいるところはアップにしすぎてフレームアウトしてしまった。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
506mm 相当*/1/3200 秒/F6.0/ISO 6400
プロキャプチャーモードでジガバチの飛翔を狙う。電子シャッターでのローリングシャッターゆがみは、さらに少なくなったように思う。ハチなど翅のゆがみが目立つ被写体にも使えるようになった。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS + MC-14
586mm 相当*/1/3200 秒/F8.5/ISO 1600
トンボの場合は、シャッター速度は1/1000秒~1/2000秒で良いと思う。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
800mm 相当*/1/1600 秒/F6.3/ISO 1600
プロキャプチャーモードを高感度で使う
プロキャプチャーモードで昆虫の飛翔を撮ると、晴れていれば良いが、曇りだとかなりISO感度が上がってしまい、あきらめることが多かったが、OM-1 Mark IIではかなり高感度でも使える。
プロキャプチャーモードSH2でナミアゲハの飛翔を撮る。曇っていてISO感度は10000になってしまったが、ノイズは少ない。OM-1 Mark IIはノイズに関する限り前機種より1段以上優れているように感じた。
OM-1 Mark II + ED 100-400mm F5.0-6.3 IS + MC-14
420mm 相当*/1/3200 秒/F8.1/ISO 10000
庭のアサギマダラは日影にいるので、ISO感度が上がってしまう。
この時はISO12800で撮影。
OM-1 Mark II + ED 30mm F3.5 Macro
60mm 相当*/1/3200 秒/F5.6/ISO 12800
*35mm 判換算値
記事内で使用した機材
海野 和男
1947 年東京生まれ。1971 年からフリーの写真家。昆虫と自然を撮り続けて50年。1999 年からWEB 上で、「小諸日記」を23 年間毎日更新し続けている。フイールドは熱帯雨林と⾧野県小諸周辺。
「ワイルドライフ」「ダーウィンが来た!」などテレビの自然番組にも出演。著書は200 冊近くになる。この2 年間の著作は「蝶の来る庭」、「ダマして生きのびる虫の擬態」(草思社)「世界で一番美しい蝶図鑑」(誠文堂新光社)、「虫は人の鏡 擬態の解剖学」(共著)などがある。