掲載日:2023年2月8日
新発売のM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO は待望の望遠マクロだ。90mm という焦点距離は35mm判換算で180mm相当だから、被写体との距離も十分とることができる。ここ数年、蝶の撮影では超望遠レンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROや、M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISを使うことが多かったが、本レンズを持ってからは、このM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO でほとんど撮影した。マクロ撮影においてはさすがに超望遠の単焦点レンズやズームレンズより、格段にシャープな写りで、マクロレンズの魅力を再発見した思いだった。なにより、このマクロレンズの最大撮影倍率は、単体で2倍(35mm判換算で4倍)まで撮影できるので、今までのマクロレンズでは不可能だった撮影領域までカバーするのは極めて便利だ。
解像感は、今まで使ったどのマクロレンズより高く、絞り開放から画面の隅々までシャープな像を結び、色収差をほとんど感じない高性能レンズであることにびっくりした。シャープなマクロレンズにしばしば見られる2線ぼけは少なく、背景のぼけが美しい。今まで世にでているどのマクロレンズより描写が優れているレンズだと思う。一般のマクロ撮影では、かつて使ったどのマクロレンズより色収差の少なさ、解像感共に最も優れていると自信を持って言うことができる。
ピントの合ったところはシャープで、アウトフォーカスのぼけも美しいので、ポートレート用レンズとしても優れている。ポートレートレンズとして使う場合や、花の撮影では絞りF値は開放で使うのが良いだろう。
マクロ撮影では被写界深度が極端に浅くなるが、シャープに写したいときは、至近距離では絞り値をF8.0以上に絞るのが良く、蝶などの撮影では絞り開放のF3.5~F5.6あたりを使うのが良いと思う。
もっと望遠のマクロレンズを期待した方もおられるだろう。ぼくもそうだったが、使ってみて、この焦点距離が最適と感じた。撮影倍率が等倍以上となるマクロ撮影では、望遠域になるほどブレの影響も大きくなる。等倍以下の撮影であれば、単焦点レンズであればM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO、ズームレンズであればM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISやM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROで十分だと思う。本レンズは開放絞り値F3.5で、F2.8のレンズより半絞り暗いが、その分小型化できたと思うので、そのメリットの方が大きい。もう少し離れて撮りたい場合はM.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14を付けると焦点距離252mm相当*となり、常時付けていても解像感はほぼ変わらない。実際、蝶の撮影ではよくテレコンバーターMC-14を併用した。
ハンノキカミキリ
ハンノキカミキリは高原に住む美しいカミキリだ。ススキの葉の上を歩いていたので飛び立つところを撮ろうと速いシャッターで連写した。薄曇りで、ISO感度3200となったが、ノイズは感じられない。
このレンズの最大の特色は最大撮影倍率が2倍(35mm判換算4倍)。これは無限遠から撮影できるマクロレンズとしては、従来ない倍率だ。しかもM.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14/M.ZUIKO DIGITAL 2.0x Teleconverter MC-20という1.4倍/2.0倍のテレコンバーターが装着できる。テレコンバーターMC-20を付けると、なんと35mm判換算で最大撮影倍率が8倍になる。この倍率は今までなら顕微鏡レンズの世界だ。蝶の卵も画面に大きく写すことができるのは驚きだ。深度合成機能やフォーカスブラケット機能も使えるのでMC-20を併用し、絞りをある程度絞ることで、鮮明な蝶の卵の写真撮影が至極簡単に行えるのは驚くべきことだ。しかし倍率4 倍(35mm判換算8倍)という高倍率で深度合成を行うにはできれば小型三脚を使いたい。
野外での最短撮影距離付近での撮影や、テレコンバーター併用で撮影倍率2倍以上の撮影ではマクロフラッシュSTF-8を使うのが鮮明な写真を撮るコツだ。最短撮影距離付近では、速いシャッター速度を切ると、ISO 感度が上がってしまい、低いISO感度で撮ろうとすると、いかに手ぶれ補正が優秀でもぶれてしまう。これをカバーしてくれるのがマクロフラッシュSTF-8だ。この機会に、ぜひマクロフラッシュを試していただきたいと思う。また手ぶれを防ぐためにはM(マニュアル)撮影モードにして絞り込み、自然光の影響を受けないようにするのがコツだ。
オオヨツスジハナカミキリ
エキナセアの花粉を食べるオオヨツスジカミキリを、マクロフラッシュSTF-8を使い撮影。M(マニュアル)撮影モードで、自然光での露出を適正露出から2段以上アンダーにして(シャッター速度を速くすることで)ブレを防ぎフラッシュ光だけで撮影するのがコツだ。
トリバネアゲハの裏面の翅、左側はピントを合わせた1枚目。右は15枚撮影してカメラ内深度合成の結果だ。平面に見えるチョウの翅も普通のマクロ撮影では全面にピントを合わすことは出来ない。
レンズに搭載されているフォーカスリミットスイッチは迅速なピント合わせにとても便利だ。リミットスイッチは「0.224m~0.5m(S-MACRO)」、「0.25m~0.5m」、「0.25m~無限遠」の3つがあり、S-MACROを除けばAF 速度もM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroを遙かに超える。
マクロ撮影の問題は手ぶれしやすいことだが、レンズに搭載した手ぶれ補正機構とボディー内の手ぶれ補正機構が協調して手ぶれを抑える5軸シンクロ手ぶれ補正が使えるのがとても便利だ。とくに、マクロ撮影に有効なシフトぶれを検知する加速度センサーがレンズ内に搭載されており、マクロレンズとは思えないほど手ぶれ補正が良く効く。M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroと比較すればはるかに快適だ。
そうはいってもシャッター速度はなるべく速い方が良い。具体的には1/250秒以上で切れば、手ぶれはほとんど気にする必要がない。しかし被写体ぶれは致し方がなく、被写体ぶれを防ぐには、風による被写体ぶれなら撮影倍率が等倍以上ではシャッター速度1/800秒以上がおすすめだ。飛び立つ蝶などはもっと速いシャッター速度で撮る必要がある。
それでも、マクロ撮影では被写体ぶれが問題となる。M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroや、M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroの最短撮影距離付近の撮影では、花や葉を押さえたりして対応することがある、その場合は焦点距離の短いレンズの方が押さえやすいので、M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroや、M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroの出番がなくなったわけではない。しかし、M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROでも特に被写体ぶれが心配となる至近距離の撮影ではこの手が使える。撮影倍率の低いマクロ撮影では、速いシャッター速度を用いて連写するのがよい。
そして、M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroや、M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroに比べてワーキングディスタンスが長くとれるので、逃げられやすい昆虫の撮影には勿論、花の撮影などでも、カメラの影が被写体にかかるのを防いでくれる。
ネイチャーフォトの撮影は野外で行われるので、突然の雨に見舞われることも少なくない。特に熱帯雨林での撮影では晴れていたのに突然、豪雨が降ることも多い。強い雨に見舞われても安心して撮影できる防塵・防滴性能は必須だ。M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROも他のPROシリーズレンズ同様に優秀で、撮影中の雨にも慌てる必要がないのも、野外で撮影する人には福音だ。また前玉にはフッ素コーティングが施されており、雨滴をはじきやすく、水滴がつきにくいことを熱帯での撮影で実感することができた。素晴らしい進化だと思う。
花から花へと飛び回る美しい蝶の飛翔姿を撮りたいという願いは、プロキャプチャーモードの登場で現実になった。そのプロキャプチャーモードも新しくカメラがでるたびにバージョンアップされ、OM-1 では何と120 コマ/秒(SH1)で連写してくれる。ぼくの設定はプロキャプチャーSH1 で「枚数リミッター80枚」、「プリ連写枚数60枚」に設定している。この設定だと、チョウの飛翔では、思った瞬間を確実に記録できると思う。絞り値はレンズによるが絞り開放F値からF5.6までだ。テレコンを付けた場合はもうすこし絞ることになる。シャッター速度は基本1/3200秒を使う。翅の動きが速いチョウや、小さなチョウではシャッター速度1/4000秒以上を使うこともある。問題は熱帯雨林などでは、光が当たっていてもかなり暗いので、ISO感度があがってしまうことだ。そんな場合はシャッター速度1/1200秒を使うこともある。ISO感度はなるべくISO3200以下に抑えたいが、時にはISO12800に上げることもある。OM-1になって、新たな裏面照射積層型のLiveMOSセンサーと画像処理エンジンTruePic Xによりノイズが格段に減ったのはありがたいことだ。作例のオオルリアゲハはテレコンバーターMC-14 併用なので、開放絞り値はF5.0だ。シャッター速度1/3200秒でシャッターを切ったので、何とISO感度はISO16000にあがってしまったが、それでも綺麗な写真になったと思う。プロキャプチャーモードではOM-1 を使用した場合、シャッター速度重視で、ISO感度が上がっても躊躇せずにシャッターを切りたい。
ヤマキチョウは珍しい蝶で、絶滅が心配されている。かろうじて発生が続いている場所に何回か行って、撮影することが出来た。ぼくのプロキャプチャーSH1の設定では一回のシャッターで80枚撮る設定なので、止まっているところから飛んでいるところまで連続して撮影出来るから、シャッターチャンスの少ない蝶にもおすすめのモードだ。
※下の3枚は前後のカット