田中:たしかに開発のスタートとしては、望遠レンズを扱いやすいようにということでした。実際に、ED 300mm F4.0 IS PROなどの望遠レンズを付けたときのバランスは素晴らしいです。望遠レンズ以外でも、長時間使われる方にはメリットが大きいと思います。例えば、舞台を撮影される方だと、2時間以上ファインダーを覗きっぱなしになることもあります。最近はOM-DやPENに搭載された静音モードの認知が進み、劇場内での撮影を許可されることが多いと聞いています。そうなると、舞台袖から手持ちでずっと覗きっぱなしで撮ることもあるそうです。そういう使い方をされるときは、指の疲労が全然違うことを実感されると思います。
田中:普通、新製品が出たときは、その製品をいかにたくさんの方にご購入いただくかという話になります。しかし、何が何でも新製品をというスタンスではなく、今回はE-M1Xを選択肢の1つに加えてもらうことを考えています。つまり、E-M1XとE-M1 Mark IIのうちお客様に最適なボディーを選んでいただきたいという気持ちです。マイクロフォーサーズの圧倒的な強みは、レンズが小型軽量であることです。まずはそれを理解していただき、そのうえでご自身の使い方に合ったボディーを選んでいただければと思います。
大切なのはプロの信頼を得ること
プロの写真家の方々と接するプロサポート部門の業務、並びにE-M1Xのプロモーションについてお聞きします。まずはプロサポートについてですが、これはいつ頃どのように始まったのですか。
田中:2003年、当社ではフォーサーズシステムの登場に合わせて、オリンパスグローバルプロサービス(OGPS)を発足させ、プロサポートを開始しました。フォーサーズシステムは防塵・防滴設計で、プロ分野への参入を意識して作った製品でした。
オリンパスグローバルプロサービス(OGPS)
なぜサポート体制の整備が必要だったのですか。
田中:プロの分野は、製品の良さだけでは売れません。大切なのは、プロ写真家の方々に信頼していただくことです。そのために、まずサポートを充実させようと考えたわけです。同じ部署でギャラリーも運営していますが、写真展を開催することでプロ写真家の方とアマチュアの方をつなぎ、写真文化の向上に努めています。
プロ写真家の方々に使っていただくことにはどのような利点がありますか。
田中:プロ写真家の方々にとって、機材は撮影現場で確実に動くものでなければならないですし、想像を絶する厳しい環境で撮影されている方がおられます。そのようなプロ写真家の方々に信頼していただけることで、アマチュアの方々にも信頼していただけると考えています。また、これはサポートと直接関係があるわけではないのですが、プロの方々に製品についてのフィードバックをいただくことで、製品のレベルアップを図ることもできると考えています。
撮影ジャンルごとに最適な使い方がある
具体的なサポート業務を教えてください。
田中:それぞれの方の撮影ジャンルに応じて、当社の機材による最適な撮影方法をお伝えしています。それは単にカメラの機能を覚えておけばできることではなく、ジャンルごとの撮影の特徴と、それに合った機能や設定を深く理解しておく必要があります。また、当社特有の機能もありますが、それを的確に伝えられるコミュニケーション能力も必要になります。取扱説明書には書ききれないような裏ワザもあるので、特別なマニュアルを作ってそれをお渡ししていた時期もありました。
会員の方には、直接お会いしてお話をするのですか。
田中:基本的には「オリンパスプロサロン」に来ていただいてお話しします。1人1時間くらいですが、それでは済まない方もいらっしゃるので、1日にお会いできるのは5、6人が限度です。
かなり密度の濃い会話になりますね。
田中:せっかくいろいろなお話をさせていただくのですから、どなたに何を聞いたかをレポートにまとめて製品開発に生かすようにしています。そのとき、単にこの機能が使いにくい、というだけだと、次の開発には生かせません。どんなジャンルのプロがどういうシーンを撮影していて、どの機能を使おうとしたときに、どういうところが使いにくかったのか、というところまで落とし込むことで、初めて使えるデータになります。数年前からは「ボイス・オブ・プロ(VOP)活動」という名前を付けて、いただいたフィードバックに見落としがないように優先順位を付けて、ファームアップや次の製品開発に生かしています。
プロ写真家が本気で使うカメラになり、
要求レベルが上がった
プロ会員の方は順調に増えてきたのですか。
田中:2013年のE-M1で少し増えたのですが、ED 40-150mm F2.8 PROが出て大きく変わりました。35mm判換算で300mmまでに対応し、しかも70cmの近接撮影ができることを認めていただきました。そして、2016年にE-M1 Mark IIが出ると、皆さんに仕事の機材として本気で使っていただくようになり、要望レベルがワンランク上がりました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
E-M1Xがもたらす新しい価値
E-M1Xは縦位置グリップ一体型ですが、これについてもプロの写真家の方から要望が出ていたのですか。
田中:スポーツ、舞台、動物、野鳥などを撮る方からはご要望をいただいていました。皆さん、パワーバッテリーホルダーをお持ちなのですが、ベストな形状のグリップがほしいということでした。これまでのパワーバッテリーホルダーも非常に握りやすいのですが、後から付けるものなのでどうしても限界はあります。ぜひベストを極めてほしいという期待ですね。
望遠レンズを使われる方に特に適していると考えていいですか。
田中:たしかに開発のスタートとしては、望遠レンズを扱いやすいようにということでした。実際に、ED 300mm F4.0 IS PROなどの望遠レンズを付けたときのバランスは素晴らしいです。望遠レンズ以外でも、長時間使われる方にはメリットが大きいと思います。例えば、舞台を撮影される方だと、2時間以上ファインダーを覗きっぱなしになることもあります。最近はOM-DやPENに搭載された静音モードの認知が進み、劇場内での撮影を許可されることが多いと聞いています。そうなると、舞台袖から手持ちでずっと覗きっぱなしで撮ることもあるそうです。そういう使い方をされるときは、指の疲労が全然違うことを実感されると思います。
本当の良さを、それにふさわしいお客様に伝えたい
プロサポートの仕事と併行して、映像営業統括部でE-M1Xのプロモーションを担当されていますが、お客様にはどのように訴求することを考えていますか。
田中:普通、新製品が出たときは、その製品をいかにたくさんの方にご購入いただくかという話になります。しかし、何が何でも新製品をというスタンスではなく、今回はE-M1Xを選択肢の1つに加えてもらうことを考えています。つまり、E-M1XとE-M1 Mark IIのうちお客様に最適なボディーを選んでいただきたいという気持ちです。マイクロフォーサーズの圧倒的な強みは、レンズが小型軽量であることです。まずはそれを理解していただき、そのうえでご自身の使い方に合ったボディーを選んでいただければと思います。
「機動力 撮影領域を広げるミラーレスシステム」というコピーはどのような想いで作られたのですか。
田中:OM-Dシステムは「シャッターチャンスを逃さないシステム」だと思っています。シャッターチャンスといってもその瞬間のことだけでなく、小型軽量システムによって体力を温存できて、一日中集中力が持続することで決定的瞬間が撮れることもあります。また、突然目の前で起こる出来事、岩場や船の上など不安定な場所での撮影、手を伸ばして背面モニターを見ながら撮らなければならないシーンなど、三脚をセットしていては撮れないシーンがたくさんあります。システム全体が小型軽量、強力な手ぶれ補正機構、防塵・防滴構造の「機動力」に優れたOM-Dだからこそ撮れる領域があると思っています。自分で使っていても、こんなに楽なシステムはありません。機材は小型で軽く、三脚を使う頻度が極端に減りました。その想いを「機動力 撮影領域を広げるミラーレスシステム」というメッセージに集約しました。鉄道、野鳥、自然風景、昆虫、人物等々、マイクロフォーサーズが適しているジャンルはたくさんあります。広く浅くではなく、OM-Dがお役に立てそうな撮影ジャンルにより深くアプローチすることで、その魅力をお伝えしながら、皆様と一緒に写真を楽しんでいきたいと思います。
※所属、役職は2019年3月現在