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OM-D E-M1X 開発者が語る、誕生のストーリー
02
加藤 茂
光学システム開発3部 部長
まずはレンズ設計で重要なことを教えてください。
加藤:光学はなかなか理解してもらいにくいところがあるので、1つ例を挙げてお話しします。理科の実験でプリズムに光を当てると、虹が広がったのを覚えている方も多いと思います。それはガラスを通すと光が屈折するためで、色によって広がり具合が異なります。光をレンズに照射すると同じことが起こります。解像度の高い画像を得るため、レンズを通した光は1点に集めることが必要ですが、実際には光の屈折の性質上どうしてもいろいろな種類のズレが生じます。それを収差と言います。レンズ設計ではこの収差をなくすことが重要で、そのために特性の異なる凸レンズや凹レンズを組み合わせています。
オリンパスではフォーサーズ時代からデジタル専用設計をうたっていますが、フィルム時代とデジタル時代のレンズでは求められるものが違うのですか。
加藤:デジタル時代になり、イメージセンサー以降の画作りプロセスもカメラメーカーがコントロールできるようになりました。フィルム時代はフィルムの種類や現像プロセスによって仕上がる画は変わってくるため、レンズ設計としては収差を少なくすることが高画質の指標でした。しかしデジタルカメラでは、イメージセンサーへの光の入射角度による特性変化や色ごとの受光感度の違いといったフィルムとは異なる特性も踏まえ、収差以外の光学特性も設計段階からマッチングさせることが重要となります。レンズとイメージセンサー、そして画像処理の開発を設計思想から合わせることにより、当社が目指す最高画質を提供しています。
レンズ設計の難しさはどういうところにありますか。
加藤:現在はコンピューターが進化したので、昔はとても時間がかかった計算も瞬時にできます。ですから、いろいろなレンズ構成を試行錯誤して、いいものに絞り込んでいくという流れになっています。そんな中でポイントになっているのは、生産現場との緊密な連携です。生産技術がない中で設計してしまうと実際のモノ作りはできませんが、だからと言って既存の生産技術だけを使って設計したのでは新しいスペックのレンズは出せません。そのために、数年後に必要になる加工技術の開発を、生産技術の方に先行してお願いするような取り組みもしています。
目の前の仕事がある中で、数年先のことに取り組むのは難しくありませんか。
加藤:具体的な商品の価値を示すのが、一番説得力があります。デザインモックを見せて「こんな小さいレンズができたらすごいよね」といった同じ目標に向かって話が進むと、現場の皆さんの気持ちが高揚してくるのがわかります。それが技術開発の原動力になります。例えば、ED 12-100mm F4.0 IS PROは、生産技術の方々にこのレンズの価値をお話しして、早くから非球面レンズの難しい加工技術開発にトライしてもらったことで、高性能レンズの小型化が実現しました。
新しい素材の活用も進んでいるそうですね。
加藤:非球面レンズ加工では、ガラス素材を熱で柔らかくして成形し、ゆっくり冷やし固めます。薄いところが先に固まり、厚いところがゆっくり固まるため、その過程で歪みができて割れやすくなります。特に、凹レンズの加工は難しく、形状や材料に制限がありました。しかし、ED 17mm F1.2 PROでは、他社に先駆けてED-DSA(高い色収差の補正能力を発揮するEDレンズ、球面収差/コマ収差/5倍の内蔵テレコンを入れると、換非点収差の補正能力にすぐれるDSAレンズの両方の特長を持つレンズ)という非球面レンズを実用化しました。EDレンズは色収差を少なくできる材料ですが、熱によって膨張しやすく、なかなか使えなかった材料です。しかも、ED-DSAレンズは比較的熱をコントロールしやすい凸レンズではなく、凹レンズに使用しています。これも高い生産技術が可能にしたものです。
PROレンズ
レンズ加工には研磨という工程がありますが、具体的にはどのような方法ですか。
加藤:研磨はとてもアナログな作業になります。ある程度の曲率(丸み)を付けたガラスに、理想的な曲率を持つ治具を当てて丁寧に磨きます。サンドペーパーでは粗すぎるので微細な粒子が混ざった液体状の研磨剤を使うのです。人の手でやると時間がかかりすぎてしまうので機械で荷重をかけて研磨します。荷重やスピードの加減で仕上がりが変わってくるため、その条件を決めるには職人のような経験が問われます。
絶対的に正しい条件設定があるわけではないのですね。
加藤:研磨の途中で、干渉計という測定器を使って正しい曲率になっているかを測ります。測定してみて、基準に満たなかったら、もう少し磨く。その繰り返しです。当社では、この測定器も独自に作っています。我々設計者はよく「良いレンズができるのは、良い部品が作れるから」という言い方をしますが、その部品を作っている方は「良い部品ができるのは、良い測定ができるから」と言います。レンズの精度はナノオーダー(10億分の1)、例えるならレンズの直径を3kmと仮定して、その上に髪の毛1本分の凹凸もなくなるまで磨き上げるレベルです。
ED 17mm F1.2 PROでは、完成品の測定に初めて超精密収差測定器というものを使っているそうですね。
加藤:MTFという性能も測定していますが、それでは単純な良し悪しの判定しかできません。しかし、収差測定器を使うと、対称性が良くないとか、色収差が出て赤と青が少し滲んでいるといった内訳がわかります。この収差測定器の利用が始まったのは、顕微鏡の分野です。顕微鏡では理想の限界まで解像するレンズを作っていますので、組み立てのレベルも厳密に問われます。カメラのレンズもだんだんと顕微鏡のレベルに近づいてきたので、顕微鏡分野の測定器が効果を発揮するようになってきたということです。こうした発想が生まれたのは、当社が顕微鏡を事業分野に持っていて、開発者同士の情報交換が盛んに行われているからです。
超精密収差測定器
このたび、ED 150-400mm F4.5 TC 1.25x IS PROという新しい望遠ズームの開発が発表されました。開発の背景を教えてください。
開発発表:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC 1.25x IS PRO
加藤:E-M1Xでは、圧倒的に動体追従性能が上がっています。そうなると、野鳥を撮りたい、モータースポーツを撮りたいというお客様にもっと当社のシステムの価値を提供できます。そのときにより求められるレンズは何かと考えて、超望遠ズームに行き着いたということです。F値はズーム全域4.5です。F値一定は高画質の証というところもありますし、動画を撮影したりマニュアルで露出設定したりするときに、F値が一定でないとズーム操作によってシャッタースピードや露出が変わって扱いにくいということもあります。
150-400mmということは、35mm判換算では300-800mmということですね。
加藤:1.25倍の内蔵テレコンを入れると、換算1,000mm F5.6レンズとなります。このレンズとは別に、2倍のテレコンバーターも開発しています。それを併用すると、35mm判換算2,000mmを手持ちで撮れるようになります。
これまではPROシリーズの300mmと1.4倍のテレコンバーターを使って、35mm判換算840mmで撮影できましたが、2,000mmとなると格段の違いですね。
加藤:2,000mmを手持ちで撮れるとなると、世界が変わると思います。例えば、野鳥を撮影しているプロ写真家の方にお聞きすると、人の気配があると鳥の表情に緊張が感じられて自然な様子を撮れないそうです。プロの現場はそういう世界なのかと驚嘆したのですが、2,000mmでもっと遠くから狙うことができれば大きく違うかもしれません。2,000mmの手持ち撮影はこれまでにない世界ですから、さまざまな撮影ジャンルで新しい表現が生まれてくるのではないかと楽しみにしています。
※所属、役職は2019年3月現在
製品開発と生産技術開発の二人三脚で過去にないスペックのレンズを実現
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デジタル時代に求められるレンズ性能
まずはレンズ設計で重要なことを教えてください。
加藤:光学はなかなか理解してもらいにくいところがあるので、1つ例を挙げてお話しします。理科の実験でプリズムに光を当てると、虹が広がったのを覚えている方も多いと思います。それはガラスを通すと光が屈折するためで、色によって広がり具合が異なります。光をレンズに照射すると同じことが起こります。解像度の高い画像を得るため、レンズを通した光は1点に集めることが必要ですが、実際には光の屈折の性質上どうしてもいろいろな種類のズレが生じます。それを収差と言います。レンズ設計ではこの収差をなくすことが重要で、そのために特性の異なる凸レンズや凹レンズを組み合わせています。
オリンパスではフォーサーズ時代からデジタル専用設計をうたっていますが、フィルム時代とデジタル時代のレンズでは求められるものが違うのですか。
加藤:デジタル時代になり、イメージセンサー以降の画作りプロセスもカメラメーカーがコントロールできるようになりました。フィルム時代はフィルムの種類や現像プロセスによって仕上がる画は変わってくるため、レンズ設計としては収差を少なくすることが高画質の指標でした。しかしデジタルカメラでは、イメージセンサーへの光の入射角度による特性変化や色ごとの受光感度の違いといったフィルムとは異なる特性も踏まえ、収差以外の光学特性も設計段階からマッチングさせることが重要となります。レンズとイメージセンサー、そして画像処理の開発を設計思想から合わせることにより、当社が目指す最高画質を提供しています。
生産技術の進歩が新しいスペックのレンズを生む
レンズ設計の難しさはどういうところにありますか。
加藤:現在はコンピューターが進化したので、昔はとても時間がかかった計算も瞬時にできます。ですから、いろいろなレンズ構成を試行錯誤して、いいものに絞り込んでいくという流れになっています。そんな中でポイントになっているのは、生産現場との緊密な連携です。生産技術がない中で設計してしまうと実際のモノ作りはできませんが、だからと言って既存の生産技術だけを使って設計したのでは新しいスペックのレンズは出せません。そのために、数年後に必要になる加工技術の開発を、生産技術の方に先行してお願いするような取り組みもしています。
目の前の仕事がある中で、数年先のことに取り組むのは難しくありませんか。
加藤:具体的な商品の価値を示すのが、一番説得力があります。デザインモックを見せて「こんな小さいレンズができたらすごいよね」といった同じ目標に向かって話が進むと、現場の皆さんの気持ちが高揚してくるのがわかります。それが技術開発の原動力になります。例えば、ED 12-100mm F4.0 IS PROは、生産技術の方々にこのレンズの価値をお話しして、早くから非球面レンズの難しい加工技術開発にトライしてもらったことで、高性能レンズの小型化が実現しました。
新しい素材の活用も進んでいるそうですね。
加藤:非球面レンズ加工では、ガラス素材を熱で柔らかくして成形し、ゆっくり冷やし固めます。薄いところが先に固まり、厚いところがゆっくり固まるため、その過程で歪みができて割れやすくなります。特に、凹レンズの加工は難しく、形状や材料に制限がありました。しかし、ED 17mm F1.2 PROでは、他社に先駆けてED-DSA(高い色収差の補正能力を発揮するEDレンズ、球面収差/コマ収差/5倍の内蔵テレコンを入れると、換非点収差の補正能力にすぐれるDSAレンズの両方の特長を持つレンズ)という非球面レンズを実用化しました。EDレンズは色収差を少なくできる材料ですが、熱によって膨張しやすく、なかなか使えなかった材料です。しかも、ED-DSAレンズは比較的熱をコントロールしやすい凸レンズではなく、凹レンズに使用しています。これも高い生産技術が可能にしたものです。
PROレンズ
良いレンズは良い部品から、良い部品は良い測定から
レンズ加工には研磨という工程がありますが、具体的にはどのような方法ですか。
加藤:研磨はとてもアナログな作業になります。ある程度の曲率(丸み)を付けたガラスに、理想的な曲率を持つ治具を当てて丁寧に磨きます。サンドペーパーでは粗すぎるので微細な粒子が混ざった液体状の研磨剤を使うのです。人の手でやると時間がかかりすぎてしまうので機械で荷重をかけて研磨します。荷重やスピードの加減で仕上がりが変わってくるため、その条件を決めるには職人のような経験が問われます。
絶対的に正しい条件設定があるわけではないのですね。
加藤:研磨の途中で、干渉計という測定器を使って正しい曲率になっているかを測ります。測定してみて、基準に満たなかったら、もう少し磨く。その繰り返しです。当社では、この測定器も独自に作っています。我々設計者はよく「良いレンズができるのは、良い部品が作れるから」という言い方をしますが、その部品を作っている方は「良い部品ができるのは、良い測定ができるから」と言います。レンズの精度はナノオーダー(10億分の1)、例えるならレンズの直径を3kmと仮定して、その上に髪の毛1本分の凹凸もなくなるまで磨き上げるレベルです。
ED 17mm F1.2 PROでは、完成品の測定に初めて超精密収差測定器というものを使っているそうですね。
加藤:MTFという性能も測定していますが、それでは単純な良し悪しの判定しかできません。しかし、収差測定器を使うと、対称性が良くないとか、色収差が出て赤と青が少し滲んでいるといった内訳がわかります。この収差測定器の利用が始まったのは、顕微鏡の分野です。顕微鏡では理想の限界まで解像するレンズを作っていますので、組み立てのレベルも厳密に問われます。カメラのレンズもだんだんと顕微鏡のレベルに近づいてきたので、顕微鏡分野の測定器が効果を発揮するようになってきたということです。こうした発想が生まれたのは、当社が顕微鏡を事業分野に持っていて、開発者同士の情報交換が盛んに行われているからです。
超精密収差測定器
手持ち2,000mmでこれまでにない表現が可能に
このたび、ED 150-400mm F4.5 TC 1.25x IS PROという新しい望遠ズームの開発が発表されました。開発の背景を教えてください。
開発発表:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC 1.25x IS PRO
加藤:E-M1Xでは、圧倒的に動体追従性能が上がっています。そうなると、野鳥を撮りたい、モータースポーツを撮りたいというお客様にもっと当社のシステムの価値を提供できます。そのときにより求められるレンズは何かと考えて、超望遠ズームに行き着いたということです。F値はズーム全域4.5です。F値一定は高画質の証というところもありますし、動画を撮影したりマニュアルで露出設定したりするときに、F値が一定でないとズーム操作によってシャッタースピードや露出が変わって扱いにくいということもあります。
150-400mmということは、35mm判換算では300-800mmということですね。
加藤:1.25倍の内蔵テレコンを入れると、換算1,000mm F5.6レンズとなります。このレンズとは別に、2倍のテレコンバーターも開発しています。それを併用すると、35mm判換算2,000mmを手持ちで撮れるようになります。
これまではPROシリーズの300mmと1.4倍のテレコンバーターを使って、35mm判換算840mmで撮影できましたが、2,000mmとなると格段の違いですね。
加藤:2,000mmを手持ちで撮れるとなると、世界が変わると思います。例えば、野鳥を撮影しているプロ写真家の方にお聞きすると、人の気配があると鳥の表情に緊張が感じられて自然な様子を撮れないそうです。プロの現場はそういう世界なのかと驚嘆したのですが、2,000mmでもっと遠くから狙うことができれば大きく違うかもしれません。2,000mmの手持ち撮影はこれまでにない世界ですから、さまざまな撮影ジャンルで新しい表現が生まれてくるのではないかと楽しみにしています。
※所属、役職は2019年3月現在