掲載日:2020年6月26日
日々を写真で紡ぐならお気に入りのカメラで撮影したい。年の始まりに選ぶ日記帳や手帳のように。
私が日々を紡ぐカメラは、OM-D E-M5 Mark III。小さな私の手に収まるほど小型なボディー。なのに、あって欲しい機能がぎゅっと詰まっているのがお気に入り。子どものころ、小さな箱に大切なものを詰め込んだ、宝箱のようなカメラだなと、愛おしくなります。
そんな私の紡ぐ日々は、多くの時間を過ごす家のなかであったり、ふとした拍子に呼ばれる山のなかであったり、とても幅広いです。だからこそ、部屋の片隅に置きたくなるデザインも大事だし、山で快適に過ごすための軽さと堅牢さも大事。このカメラはそのどちらも満たしてくれます。
さて、E-M5 Mark IIIと12-45mm F4.0 PROで、どのような日々を紡いでいきましょうか。
家での何気ない日々。
その日々のなかにも「あ……素敵だな。」と思うことはありませんか?
活けられた季節の花。
いつも使うお気に入りの道具。
みずみずしい野菜。
など。
いつもは見ているモノやコトも、カメラが傍にいると素敵に思えるから不思議です。
今回は、2020年3月に発売された、12-45mm F4.0 PROを選んでみました。これまで愛用してきた12-40mm F2.8 PROと何が違うのかな。そんな好奇心がありました。
まず最初に、このレンズを装着したとき感じたのは、とにかく軽い。12-40mm F2.8 PROと比べて128gも軽い。つい、「山に卵2つ持っていける…」と思ってしまうのは、山好きならでは。
ただ、気になったのは「ボケ具合はどうなのだろう」ということです。基本的に、F値は数字が小さいほうがボケやすいのですが、12-45mm F4.0 PROはズーム全域でF4.0。一方の12-40mm F2.8 PROはズーム全域でF2.8。だけど、そんな心配は無用でした。
寝ぼけ眼。
朝ごはんはシンプルに。グラノーラにヨーグルト、赤い苺ジャムを添えて。
起きたばかりでまだ眠い…そんな寝ぼけた視点をボケで表現したいと思い、F4.0の開放に。さらにボケを強く出すため、被写体に思い切り寄り、望遠側にズーム(焦点距離を大きくする)しました。すると…
「あ、きれい…。」
背景から浮き上がるデザートカップの透明感。レンズを通して見た目の前の光景が美しくて、眠気が吹き飛んでしまいました。PROレンズらしい美しいボケに嬉しくなった一枚です。
E-M5 Mark IIIは軽くて小さいので、こんな撮り方も出来ます。これは、食べているときの気持ちや動きも残したくて、左手でグリップを握って撮影したもの。握りやすいグリップのおかげでもあります。
生命力。
野花の命を少しだけ頂き、部屋に飾る。小さな花から、元気を頂く。
12-45mm F4.0 PROは、望遠端で被写体に23cmまで寄れるので、花のしべに寄り、頂点にピントを合わせ、ふわりと浮き上がらせることでしっとりとした存在感を出しました。小さな花だけど、マクロ性能のおかげで大きく撮影でき、生命力も伝えられたのではないかと思います。
思いをのせて写真を撮ることが好き。日記に出来事だけを綴るのではなく、その出来事が楽しかったとか、嬉しかったとか、悲しかったとか、思いをのせて綴るように。
その思いを写真で表現したいとき、表現手段のひとつとしてアートフィルターを使うことがあります。フィルターの色が思いを増幅してくれる気がして。
E-M5 Mark IIIは、16種30タイプのアートフィルターが搭載されているので、手軽に思いをのせた写真を撮ることができます。アートフィルターを通して見ると、何てことのない光景もドラマチックに見えるから不思議です。
記憶の記録。
誰もいない静かな部屋で一人、ロウソクを灯して本を読む。肌寒さが残る空気。暖かく沁みる光。
ブリーチバイパスは、フィルム現像時に使われる手法「銀残し(ブリーチバイパス)」の効果を再現するアートフィルター。ブリーチバイパス IIは、しっとりと落ち着いた仕上がりが、遠い過去の記憶のように残してくれるのでお気に入りです。少し寒色の色味が加わるので、あの日の肌寒さをも思い出させてくれます。
子どもの頃のように。
散歩の途中で拾った桜。烏が啄んだ拍子に落ちたもの。赤い実が可愛くて、つぶれないよう、落ちないよう、大事に持ち帰る。子どもの頃に感じた懐かしく暖かい感情。
ヴィンテージは、どのタイプも色褪せた色に仕上がるので、懐かしい感情を引き出す効果があります。特に、ヴィンテージ IIの暖かく色褪せた仕上がりは、この写真の感情にぴったりリンクしてくれました。
アザミの存在感。
花の色は時にハッとさせられる。アザミに思わず見とれた瞬間。それはまさしく、パートカラーの世界。
パートカラーは特定の色だけを抽出し、他の色はモノトーンにしてくれるフィルターなので、見せたい色だけを印象的に見せることが出来ます。特に、部屋の中に多数の色がある場合、すっきり見せてくれるので助かります。
さらに、ピンホール効果やフレーム効果、スターライト効果などをアートフィルターに付加することが出来るアートエフェクト機能が9種類搭載されているのですが、この作品もピンホール効果を追加し、四隅を暗くしました。花に目線が集中するような気がしませんか?
先ほど、アートフィルターは16種30タイプと言いましたが、効果の追加を含めると、様々な表現を楽しめることになります。ただ、選択肢が多いと、どのシーンにどのアートフィルターが合うのか迷うもの。そんなときは、ブラケット撮影を使うのがおすすめです。1回の撮影で複数種のアートフィルター写真を生成してくれるので、思いがけず素敵な写真に仕上がることも。
アートフィルター以外にも、こんなふうに見せられたらいいな…と思った時に使う機能が、ハイライト&シャドウコントロールです。
お気に入りを伝える。
安曇野に、北アルプスに行くと立ち寄るお気に入りのカフェ。山に行けない日が続くとき、オーナーさんが焙煎したコーヒーを取り寄せ、お気に入りのマグカップに淹れる。山に思いを馳せるひととき。
逆光によりカップの手前が影になってしまったので、模様部分が明るくなるよう、ハイライト&シャドウコントロールで調整しました。この機能は、明るさを3つの領域…明るい、中間、暗い…に分け、それぞれの領域の明るさを変えることができます。
基本的に、明るさを変えるなら露出補正を使いますが、すべての領域の明るさを同時に変えるので、中間の明るさだけ変えたい…ということは出来ませんから、ハイライト&シャドウコントロールを使いました。
カップを明るくするために、中間の明るさの領域を明るく。カーテンの柄を出すために、明るい領域を暗く。この部分はしっかり見せたいな…という思いが伝わるので、ハイライト&シャドウコントロール機能はお気に入りです。
12-45mm F4.0 PROの最大の魅力はマクロ性能。標準ズームレンズとは思えないほど被写体に寄れるのです。最大撮影倍率にして0.5倍(35mm判換算)。しかも、広角から望遠すべての焦点域で。防塵防滴だから、雨の日の水滴撮影もレンズ交換しなくてすむな、とか、山に連れて行ったらどんなに楽だろう、なんて、すぐに山で使うことを考えてしまう私。ですが、見慣れている家の中だからこそ、感動を与えてくれるのがマクロの魅力であることに気付きます。
新鮮な感動。
収穫されたばかりの二十日大根。包丁を入れる。思わず手を止め、観察する。この角度から見ると瑞々しいな…とか、断面はでこぼこしているな…とか。マクロで見る小さな世界は新鮮だった。
このレンズの最短撮影距離は、広角端では12cm、望遠端では23cm。レンズ先端からの距離(ワーキングディスタンス)で言い換えると、広角端なら約3cm、望遠端なら約14cmまで被写体に寄れます。広角端では、食材にレンズが付いてしまいそうなほど寄れてしまいます。なので、少しだけズームして撮影しています。
脳内イメージ。
洗いたての食器に付いた水滴に目が留まった。どのくらいの大きさで撮れるかな…。最大撮影倍率0.5倍(35mm判換算)で撮影したそれはまさしく、目が留まった瞬間の脳内イメージ。
最大撮影倍率は0.5倍(35mm判換算)と言われてもピンと来ないと思いますが、身近なものですと紅茶などのティーバッグが入る紙袋が画面にちょうど収まるくらいの大きさで撮影出来ます。標準ズームレンズなのにこんなに大きく撮れるなんて。
水滴の向こう。
水滴の中を覗きたくてもう少しだけ近づく。見えた景色は、どこかの山の稜線のよう。
デジタルテレコン機能を使い、約2倍の大きさで撮影してみました。もう少し大きく撮影したい、そんなときに使うことが多い機能です。
マクロで撮影するときは小さな動きでもピントがずれやすくなります。なので、可能な限り三脚を使います。AFでのピント合わせはとてもスムーズですが、水滴の輪郭や水滴の中に映る景色など、思い通りの場所にピントを合わせるならMFを使います。ピントリングを回して最短撮影距離に設定する、液晶やファインダーを見ながら近づき、輪郭がきりっとするところでシャッターを切る。E-M5 Mark IIIには、MFアシストという便利な機能があります。ピントが合っている部分は輪郭を強調して表示してくれるので、MFでもピント合わせが楽なので助かります。
日常の中の宇宙。
無数に付いた水滴にハッとした。手前の水滴にピントを合わせた瞬間、奥の水滴は星になった。小さな皿に広がる宇宙。
この写真では、アートフィルターのポップアート IIを使い、暖色と寒色のコントラストを印象的に見せつつ、アートエフェクトのスターライト効果を追加してさりげなくクロスの輝きを添えました。E-M5 Mark IIIの表現力に、毎日カメラを手にしていても驚かされます。
好きを伝える距離。
自分で作った胡桃の殻のピンクッション。小さな物だけど、大好きなもの。大好きなものほど近寄ってしまう。
12-45mm F4.0 PROは、広角端から望遠端のすべての領域でハーフマクロを楽しめます。広角側なら遠近感を利用し、背景をいれての撮影を。望遠側なら圧縮効果を利用して密集感を出したり、背景として写る範囲を狭くしたり、物の形を正確に伝えたりする撮影に向いています。この写真は針に最短撮影距離まで近づき、針にピントを合わせて撮影しています。待ち針の頭の大きさは変わらないのに、針の放射角や背景の範囲、ピンクッションの形が違うことに気が付きましたか?
私の場合、家の中では部屋の様子を見せたくないので、望遠側で撮影することが多くなります。ですが、山では高山植物と美しい山並みを入れて撮影したいので広角側で撮影したいな…って思います。
12-45mm F4.0 PROを使うと、レンズを通して見る世界がとてもクリアなことに驚かされます。思わず手を触れたくなるようなリアルな質感が、レンズの向こうに確かに存在するのです。
感触の記憶。
摘み取ったときの感触。活けたときの感触。私の手に残る感触を記憶したい。そう思った。
12-40mm F2.8 PROを初めて手にしたときもクリアで立体的な画質に驚きましたが、12-45mm F4.0 PROにもその解像力がしっかり受け継がれていて嬉しくなりました。この写真を見ていると、手に触れた感触が蘇るようです。
俯瞰による平面的な撮影では、ピント位置と背景の距離が近いのでボケが少なくなり、物の質感が伝わりやすくなります。可動式液晶だと高い位置や低い位置からの撮影でも液晶が見やすいので助かります。
時を残す。
揺れる光に浮き上がる紙のシワ、繊維の流れ、インクの滲み、飛ばない綿毛。時の経過を感じた。
質感を見せたいので、この画面にある被写体すべてにピントを合わせたい。そう思いました。通常、手前から奥までピントを合わせる場合、F値の数字を大きくし、絞りを小さくして撮影します。ですが、被写体とカメラの距離が近い、かつ、被写体同士に高低差がある場合、僅かにボケが出てしまうのです。12-45mm F4.0 PROは深度合成モードに対応しているので、深度合成することにしました。
深度合成モードとは、ピント位置をずらしながら8枚の写真を撮影し、自動的に合成してくれるので、ピントを合わせたい範囲はくっきり、合わせたくない範囲はボケのある写真に仕上げることが出来ます。
深度合成で撮影した写真を拡大再生して驚きました。綿毛や紙の質感、テーブルに刻まれた凹みまでリアル。目の前にそれらが存在するかのよう。
深度合成モードは三脚が必要です。でも、良くこんな失敗ありませんか?背景はぼかしたいけど、F値の数字を小さくするとボケすぎて、花のしべしかピントが合わない…とか、ショートケーキの苺しかピントが合わない…とか。主役の全容は見せたいけど、背景はしっかりぼかしたいときに使ってみて下さいね。
今では当たり前となったことだけど、いざ無くなると困るもの。
小さくて軽い。それは、どこへでも連れて行きたくなるということ。
防塵防滴。それは、雨の日も晴れの日も撮影できるということ。
強力な手ぶれ補正。それは、手軽に気軽に日々を残せるということ。
いつでもどこでも。家でも山でも。愛おしい日々を残したい。その気持ちに応えてくれるのが、E-M5 Mark IIIだって、撮影するたびに気付くのです。
心が動く瞬間を。
何気なく置いた物の佇まいに、ハッとする瞬間がある。この物の組み合わせ素敵だな…とか、光が美しいな…とか。その感覚に忠実になったとき、やっぱりこの写真好きだな…って思う。
こちらはF4の絞り開放で、三脚を使わず撮影しました。手持ち撮影でもピントを合わせた「1」の数字付近は木の質感がしっかり伝わってきます。これは、レンズが高解像というだけでなく、強力な手ぶれ補正のおかげでもあります。1/30秒でも手ぶれしないので、家のなかでも手持ちで気軽に撮影出来る。だから、心が動く瞬間を捉えたいと思えるのです。
自由な表現力。
いつからか、自分の手を入れて撮影することが多くなった。そんなときはだいたい片手で撮る。三脚を使えば手ぶれしないけど、心の動きまで止めてしまう気がして。
自由に撮影出来ることはとても大事なことだと思っています。三脚を使わず撮影出来ることもそうですが、レンズを選ばず撮影出来ることも。E-M5 Mark IIIはボディー内手ぶれ補正なので、どのレンズでも手ぶれを補正してくれます。レンズの選択肢が増えると表現力が増す。自由って本当に素晴らしいなと思います。
どんなときも。
雨の日の楽しみ。それは、薄暗い部屋にキャンドルを灯し、雨の音を聞いて過ごすこと。家にいながら、山小屋で過ごす時間を思い出す。
僅かな光なのでシャッター速度が遅くなり、手ぶれが非常に心配な状況です。しかも、12-45mm F4.0 PROは、開放でF4なので手ぶれするかもしれない…。F値の数字が大きく絞りが小さくなるほど、光の入る量は少なくなりますが、このような暗い状況こそE-M5 Mark IIIとの組み合わせで撮影することの有り難みを感じます。1/25秒というシャッター速度でしたがまったく手ぶれせず、高精度なAFのおかげで暗い場所でのピント合わせも迷うこと無くスムーズ。
最大約5.5段[※]の手ぶれ補正、それは、撮影時のシャッター速度が1/25秒なら、1/1200秒相当のシャッター速度で撮影するのと同程度の手ぶれ補正効果があるということ。手ぶれの心配が無いだけでなく、ISO感度も上げ過ぎずにすむので、高画質で日々のあらゆるシーンを残せるのが嬉しい。E-M5 Mark IIIはどんなときも寄り添ってくれるカメラだな、って思うのです。
※ 使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO、焦点距離:f=40mm(35mm 判換算 f=80mm)、CIPA 規格準拠
OM-D E-M5 Mark IIIは、小型軽量と高性能を両立できるマイクロフォーサーズシステムの魅力を最大限に引き出したミラーレス一眼カメラです。圧倒的な小型軽量ボディーにハイエンドモデルに匹敵する画質性能とAF性能を搭載するほか、新開発の強力なボディー内5軸手ぶれ補正機構や、多彩な撮影機能も搭載。
傑出した光学性能と防塵・防滴性を持つオリンパスの最高峰レンズM.ZUIKO PROシリーズに、小型軽量化を徹底追求した新しい標準ズームレンズM.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROが誕生しました。どこにでも持ち運べて高画質に撮影できるマイクロフォーサーズシステムの魅力を存分に味わえる“究極の”小型軽量高性能レンズです。
写真家・川野恭子がOM-D E-M5 Mark IIIとM.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROで紡ぐ日々