掲載日:2023年9月27日
今回、アラスカに初めてコンパクトデジタルカメラを連れて行った。TGシリーズは防水性や防塵性が非常に高く、加えて-10℃の耐低温や耐衝撃の性能も高い。アラスカでザックを担ぎフィールドを歩く中で、多少ラフに扱っても壊れずメンテナンスフリーなら、遠征の良きパートナーになってくれるはずだ。“一眼カメラのOM-1がメイン機で、Tough TG-7はサブとして使ってみよう”という思いでTG-7をパッキングした。
雲の微妙なコントラストと、空の薄い青色も映すことができた。なんだか嬉しくなって、飛行機の機体が起こす「ブロッケン現象」も撮った。
日本を出て12時間以上が経ち、アラスカの大地はすぐそこに迫っていた。まだアラスカの池や湖には氷が張っているはずだ。“氷の下までカメラを潜らせて撮影すれば、氷の繊細な造形を水中から撮れるかな”と期待が膨らんでいた。
アラスカに着いてから、まずは置いてある車をあちこち修理をしてから東へと向かった。フロントガラスとサイドミラーに写る氷河を見ながら車を走らせ、アラスカ山脈に到着したのは夜24時頃だった。24時とは言ってもこの季節(5月頃)のアラスカは明るい。ちょうど夕日が北の空に沈む頃だった。
上記3枚目の写真はOM-1とED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROで撮ったもの。2枚目のTG-7の写真と比較して、空の淡い色合いが出ているのは伝わるだろうか。
この夜は少しだけ車中で仮眠をとった。翌朝4時に起きると、すでに外は明るい。“早速出発しようかな”と思ったが、なんとエンジンがかからない。“バッテリーもやはり買い換えるべきだったか”そう思いポータブルのスターターでエンジンをかける。そろそろと走り出し、氷の張った池に向かった。全面が結氷していては氷の下は撮ることはできない。“一部だけ溶けている池はないかしら”と思って走っていると割とすぐに見つかった。バッテリーが上がらないようエンジンをかけたまま車を止め、池へとアプローチをした。きっと冷え切って帰ってくるからと、車は暖房をかけておいた。下半身にはヒップブーツ(太ももまである長靴)を履いて入水したが、体が瞬時に硬直するくらい冷たい。いやいや、“寒いとか冷たいとか言ってはいられない”と自分を鼓舞し氷に近づいた。
氷は綺麗だった。柔らかい、というか暗い太陽光を浴びて鈍く光っていた。コントラストは低いが、氷の造形が妖しく美しい。やはり近寄って撮影した方が面白そうだ。モードダイヤルを回して顕微鏡モードに変更した。TGシリーズを使い慣れていなくても、顕微鏡のマークがそのままダイヤルに書いてあるのでTG初心者でもわかりやすい。
氷に触れるほど近づけてみると、どこまでも近づける。なんとTG-7はレンズ先端から1cmまで近づけるらしい。あとで花の撮影でも試してみよう。いよいよカメラを水中に入れてみる。当たり前だが、水中に入れてしまえばモニターが見えない。ここからは半ば勘で撮るようなものだ。ピントの合う位置を真ん中に設定し、角度を少しずつ変えながら数枚撮ってみる。
撮れるには撮れたが、水中と外の明るさが大きく異なるため、水中か水上のどちらかが白飛びか黒潰れしてしまいそうだ。このようなシーンではフラッシュディフューザー FD-1があると便利なのだが、今回は持ってきていなかったので、構図で調整するしかないかと思いカメラを一度水中から出して、少しポジションを変えた。“できればこの季節の雲の多いアラスカの空も入れたいな”そんなことを考えながら、すっかり冷え切った右手を直接お腹に当て温めながら撮影を続けた。
次のポジションでは少し露出補正で明るさを下げて空まで入れて撮影した。モニターで確認をすると、空の調子も少し出ている。片手で撮れる手軽な撮影でここまで写るなら十分だ。水中から氷の薄いところへカメラを真上に向けて撮ると氷の微妙な造形も写すことができた。
今回の遠征はいつもより時間が短い。急ぎ足で池の撮影を終え、次の撮影地に向かわなければならない。車に戻ると、車内があたたかいのが嬉しかった。運転席で一息入れると、ふとカメラが心配になった。キンキンに冷えたカメラをあたたかいところに持っていくと結露してしまうからだ。“しまった、ちゃんと拭いて何か布に包んでおかなきゃ”と、助手席にいるTG-7に目をやった。カメラと目が合うと、「何か?」と言わんばかりの無表情。結露はゼロだった。TGには防水性能や耐低温性能があることは前述したが、耐結露という性能も高い。あまり聞き慣れない性能かもしれないがとても大事な性能の一つで、このように気温差の激しいフィールド撮影でもレンズやモニターなどが結露しないのは非常に助かった。一安心し、次に向かったのはアラスカ北極圏にあるブルックス山脈だ。
北極圏にむかうセスナ機内で、TG-7から新たに搭載された「縦位置動画撮影」も試してみた。スマホで見るのにちょうど良さそうだ。
ここからはTG-7には少し厳しい撮影になる。なぜなら、北極圏にはただただ広い風景が広がっており、マクロで撮るようなシンボリックな被写体が少ないからだ。“そういう場所向けのカメラではないかもしれない”と思いながらも山脈に向けシャッターを切った。TG-7のモニターで確認する分にはきちんと写っているようにみえるのだが、“印刷するとどうかな”と気になった。帰国してからA3に印刷してみたので、そちらの様子もみていただきたい。
A3サイズに印刷した時の様子。ことマクロの性能に目が行きがちなカメラだったが、これなら遠景撮影でも及第点と判断。流石に一眼カメラと比べれば解像力は落ちるが写真展でも使えるレベルだ。
北極圏に到着してからは、インターバル撮影も試してみた。インターバル撮影の設定内にある「タイムラプス動画」をONにして、さらにTG-7から新たに追加された「露出平準化」機能もONに設定。この露出平準化機能の役割がとても大きく、今までは撮影中に明るさが変わる被写体(夕焼けなど)がフレームに入っていると、露出が不安定になり、仕上がりの動画が明るくなったり暗くなったりと大変見えにくいものになってしまう場合があったが、露出平準化機能をONにすれば、コマ間の急激な露出変化をカメラ側で抑制してくれるため自然な感じでタイムラプス動画を生成してくれる。もし自分で調整しようと思うと数百枚の写真を補正しないといいけないので大変な作業だ。
露出平準化機能をONにして撮影したタイムラプス動画を下記掲載するので見てほしい。
左上に太陽があり、雲に隠れたり出たりしているシーンを4秒ごとに299枚をインターバル撮影したものだ。従来であれば太陽が出てる時は全体がやや暗く、太陽が隠れているときは全体がやや明るく写り、そのまま繋げると明滅する動画になってしまう。何も補正せずにここまで滑らかに仕上がるのはなんとも有難い。露出平準化機能の設定もとても簡単で、メニューボタンより「撮影メニュー2」⇒「インターバル撮影 ON」内にある「露出平準化」をONに設定するだけだ。また同メニュー設定画面内にある「タイムラプス動画」設定もONにすれば、カメラ内でタイムラプス動画の生成もできてしまうのでとても便利だ。
次のタイムラプス動画は、三脚が使えないシーンで岩の上に置いて撮ったものだ。
こちらは現地時間の15:20~16:40の間に16秒に一枚のペースで撮ったもの。5秒あたりに画面真中付近に出てくる淡い虹も写っているのがわかる。肉眼ではわかりにくい薄い虹だったのだが、小さいボディでここまで撮ってくれたら十分だ。一度のインターバル撮影設定が299枚までという制約だが、個人的には3,000枚程度まで設定できたらなお嬉しい。そこまでの枚数設定ができると24時間の撮影がしやすくなる。アラスカでは太陽の動きの記録に24時間撮ることが多く、一度の撮影がそのくらいの枚数になるからだ。(ちなみにOM-1では9,999枚まで設定が可能だ)
雨が上がった後、咲き始めた高山植物も撮った。1cmまで寄れるマクロの撮影は楽しかった。ツンドラに寝転びながら花に近づいたとき、いつもより花に近づけていることに気づいた。考えてみれば、それはそうだ。カメラの厚さが3センチ程度なので一眼カメラで寄る時より物理的に近くなる。これは興味深い気づきだった。その後もマクロ撮影を楽しんだ。
5月後半の北極圏は摂氏0度に迫る寒さだった。カメラはもちろんバッテリーもパフォーマンスの低下は感じられなかった。なにより、TG-7だと設定をちょこちょこ変えなくても撮影が完結するので、指がかじかんでいても“パッ”と撮れてしまうのがなんとも気楽だった。
残る滞在時間は9日。もう少し北に行くか迷っていたが、曇りばかりでまだ強い太陽光を浴びていない。直感に従って、光を求めて南下することにした。
TG-7はアラスカの北部と南部のフィールドで活躍してくれた。他の機材や装備全般にも言えることだが、アラスカの厳しいフィールドで使えるものは、日本のアウトドアやフォトトレッキング、キャンプではかなり頼れる存在になる。249gと軽量で、かつ強靭なボディのTG-7であれば、日本の山から海のアウトドア全域をカバーするはずだ。
日本に帰国してから、北アルプスにも連れて行った。アラスカでは試せなかったライブコンポジットの機能を確認するためだ。
しかしこの日は満月、星を撮るにはなかなかハードなシチュエーション。どこまで撮れるか心配だった。21時ころ、山小屋を出て空を見ると、雲が多いが星はチラホラ見えていた。小さめの三脚にTG-7を乗せ、構図を決めた。「ピント合わせどうしようかな…」と思いながらシャッターボタンを半押しすると、あっさり夜空に食いついた。仕上がりを心配しながら撮ったその時の写真がこちらの2枚。
満月が雲に隠れてくれたおかげもあって、思っていた以上の星が写っていた。ピントも合っている槍ヶ岳の右側にある小屋の光も記録されているのがわかると思う。雲の動きもシャッターを切っていた約10分間の動きが記録され、雲が高さによって色々な方向に流れているのが面白い。翌日は、設定の簡単さも手伝って、月の動きを撮ったり、雲の少ない方角の空を入れたりして撮った。こんなに軽い機材でこんな楽しめるなんて!と夜の北アルプスではしゃいだ。
ライブコンポジットの設定もとても簡単だ。ダイヤルを「SCN」に合わせ、「夜景を撮る」メニューの中から「ライブコンポジット」を選んで「OKボタン」を押すだけ。ピント合わせは、シャッターボタン半押しで簡単にピントが合ったため個人的には一番助かったポイントだ。
Tough TG-7はアラスカでも北アルプスでも活躍した。大きなカメラを持つのは嫌だけど、星も撮りたいという人にもおすすめできる、なんとも頼れるカメラだ。
今回使用はしていないが、TG-7ではワイヤレスリモコン(RM-WR1)が使えるようになったので、シャッターボタンを押したときの手ぶれを防ぎたい場合には一緒に持って行きたいアクセサリーの一つだ。
※RM-WR1に付属している有線リモコン用ケーブルは使用できません。
*35mm判換算 焦点距離