掲載日:2020年12月3日
野鳥撮影における理想的な望遠レンズは、1000mmF5.6だと僕は考える。なぜならば野鳥は被写体としてはあまりにも小さく、警戒心があるため接近させてくれないからである。鳥を脅かさないよう、自然な表情を引き出すためにも適切な距離を保って撮影したいので、焦点距離は最低でも800mm、できれば1000mmが欲しいというわけなのである。
ところがフルサイズセンサー向けの1000mmF5.6というレンズは存在せず、仮に実現したとしてもフィールドに持ち出すにはあまりにも大きく重くなるだろう。現時点では、一眼レフカメラ用で最長の超望遠レンズは800mmF5.6だが、重量は約4.5kgでハイエンドカメラと組み合わせたシステム重量は約6kgにもなる。さらに大型三脚との組み合わせが前提なので、総重量が10㎏はゆうに超えるため機動力が損なわれる。ゆえにフィールドで野鳥を探しながらの撮影では、フルサイズセンサーにこだわらずクロップセンサーの望遠効果を利用するのが賢い選択といえよう。マイクロフォーサーズ規格のOM-Dシステムでは望遠効果は2倍で、マスターレンズが300mmなら600mm相当[※]、500mmなら1000mm相当[※]の焦点距離として使えるため、小型軽量なシステムで超望遠撮影を楽しめるというわけだ。
これまで僕はM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROに1.4倍テレコンバーターMC-14を装着して焦点距離840mm相当[※]F5.6を「標準レンズ」として野鳥を撮影してきたが、もうひと伸び欲しいと思うことが多かった。そこで焦点距離1000mm相当[※]F5.6で使えるレンズを熱望していたのだが、このM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの登場で実現した。このレンズは焦点距離300mm-800mm相当[※]の超望遠ズームレンズで、1.25倍内蔵テレコンバーターを使用すると望遠端では1000mm相当[※]となるので、野鳥撮影に理想的なシステムになるというわけだ。さらに外付けテレコンバーターにも対応しており、1.4倍テレコンバーターMC-14使用時には焦点距離1400mm相当[※]F8.0、2倍テレコンバーターMC-20使用時には焦点距離2000mm相当[※]F11となり、圧倒的な超望遠性能を手に入れることができる。
※ 35mm判換算
OM-D E-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO。
焦点距離300mm-800mm相当[※]の超望遠レンズで、1.25倍内蔵テレコンバーター使用時には焦点距離1000mm相当[※]F5.6となる。外付けのテレコンバーターにも対応しており、1.4倍テレコンバーターMC-14使用時には焦点距離1400mm相当[※]F8.0、2倍テレコンバーターMC-20使用時には焦点距離2000mm相当[※]F11となる。
日本にはおもに冬鳥として渡来するジョウビタキは、もっとも身近なヒタキ類だ。多くの小鳥類の全長は15cm程度と、被写体としてはかなり小さい。ジョウビタキまでの距離は約15mと野鳥撮影時の距離感としては比較的近いほうだが、焦点距離1120mm相当[※]でもこれくらいの大きさにしか写らない。これより接近すると鳥が警戒して自然な表情を引き出せない可能性がある。
農耕地の野鳥を撮影する際は車窓から撮影すると比較的接近できることがある。それでもガンの仲間は警戒心が強く、50mも近づけない場合がほとんど。ゆえに1000mm程度の超望遠レンズは必要で、この写真は1.4倍テレコンバーターMC-14を使用して焦点距離1400mm相当[※]で撮影。
※ 35mm判換算
野鳥撮影向きの超望遠レンズといえば、大きく重いという宿命は避けられなかったものだが、このレンズは重量がわずか1.8kg台と軽量で小型だ。E-M1Xとの組み合わせでシステム重量2.8kg台、E-M1 Mark IIIとの組み合わせならシステム重量2.4kg台と驚異的な小型軽量化を実現している。
またオリンパス独自の強力な5軸シンクロ手ぶれ補正と相まって、多くの撮影シーンでは三脚を使う必要はない。そのため公園の散策路や山道など歩いて鳥を探しながら撮影するスタイルや、木道など三脚を使えない場所でも威力を発揮する。実際にさまざまな野鳥撮影フィールドで使用してみると、機材を肩から提げて歩き回ってもレンズが軽いため肩が痛くなることはないし、手持ち撮影時もレンズを保持できる時間が長いためシャッターチャンスを逃さない、そして手ぶれ補正能力が高いため撮影の歩留まりが良い。5軸シンクロ手ぶれ補正能力は、300mm相当[※]で約8段[※1]、1.25倍内蔵テレコンバーターを使用した1000mm相当[※]では約6段[※2]の補正能力を持ち、実写では焦点距離1000mm相当[※]で1/30秒程度までは高確率で止められる。ある程度シャッター速度を稼げる条件下であれば、2倍テレコンバーターMC-20を使用した焦点距離2000mm相当[※]でも手持ち撮影が可能なのは驚きだ。もちろん手ぶれ補正能力がいくら優れているからといっても、被写体の動きまでは止められないので、そのような場合は無理せずISO感度を上げて速めのシャッター速度を稼いで被写体ぶれを防ぎたい。
※ 35mm判換算
※1 CIPA規格準拠。2軸加振時(Yaw/Pitch) 半押し中手ぶれ補正:OFF 使用ボディー:OM-D E-M1X 焦点距離:150mm
※2 CIPA規格準拠。2軸加振時(Yaw/Pitch) 半押し中手ぶれ補正:OFF 使用ボディー:OM-D E-M1X 焦点距離:500mm(400mm+内蔵テレコンバーター×1.25使用時)
E-M1X + ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROと、E-M1 Mark III + ED 12-40mm F2.8 PROの組み合わせ。
システム全体が軽量コンパクトなので、小型のバックパックに詰め込んでも余裕がある。手ぶれ補正能力が高いため、三脚を携行する必要もない。
河畔の草地でさえずっていたホオジロ。小川の対岸にいたのでさすがに遠いだろうと思ったが、試しに2倍テレコンバーターMC-20を装着して焦点距離2000mm相当[※]でファインダーを覗いてみると、予想外に大きく見えたのでそのまま手持ちで撮影。日陰で暗い条件下でシャッター速度が1/90秒と遅めだったが、本レンズの手ぶれ補正能力の高さを実感した。
池の畔でカワセミを見つけた。散策路で人々の往来があるところなので、三脚は使わず手持ち撮影。木陰にいるため絞り開放でもシャッター速度は1/45秒と遅めだがピタリと止まった。背景ボケの美しさも野鳥撮影にはうれしい。
オナガガモの羽毛を2000mm相当[※]でクローズアップ撮影。オリンパスらしく近接撮影能力も高い。最短撮影距離はズーム全域で1.3mと短く、最大撮影倍率は1.25倍内蔵テレコンバーター使用時に0.71倍相当[※]、外付けの2倍テレコンバーターMC-20使用時で1.43倍相当[※]にもなる。
※ 35mm判換算
僕が野鳥撮影用超望遠レンズに求める一番の性能は、鳥の羽毛一本一本を鮮明に写せる解像力である。記録としての意味合いが強い野鳥写真においては、できるだけ大写しできて、かつシャープに写るレンズこそが良いレンズである。多くの野鳥撮影者が大口径超望遠レンズを使用するのは、それらのレンズが高い解像力を持つからである。超望遠レンズの世界では単焦点こそが至高であり、ズームレンズは画質面で劣るというのがこれまでの常識であった。とくに実焦点距離300mmを超える超望遠ズームレンズでは望遠端の画質が甘くなる傾向があり、望遠端の8割程度までが安定して使える領域というのが僕の見解だった。このED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROも他の超望遠ズームレンズと同じように望遠端の画質にはそれほど期待していなかったのだが、実写してみると自分の考えの誤りに気づかされた。ズーム全域で極めてシャープ、しかもテレコンバーターMC-14、MC-20を使用してもそのシャープでヌケの良い画質を維持しているのである。そしてこのレンズを使っているうちにズームレンズの自由度に気づかされた。単焦点レンズというのは確かに写りが良いが、固定焦点のため画面上で鳥の大きさをコントロールするには自らの足で鳥との距離を決めなければならない。ゆえに写程距離内でむやみに動くのは鳥に警戒されるリスクも大きいが、その点ズームレンズであれば撮影ポジションを変えずに画角や構図を追い込めるという大きなメリットがある。一概に野鳥撮影といっても、鳥の大きさは全長10cm程度の小鳥から翼開長2mを超える大型の鳥まで幅があるし、撮影距離も5mから50mとさまざま。画質を理由に単焦点レンズを使い続けてきた僕でも、このED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROならズームレンズの利便性を享受しつつも画質を追求できることを実感した。その画質の秘密は新開発の大口径EDAレンズや4枚のスーパーEDレンズを含む18群28枚の贅沢なレンズ構成で、Z Coating Nano採用で耐逆光性能も高い。
オリンパスのPROレンズといえば並外れた耐環境性能で定評があるが、本レンズも厳しい自然環境下でハードに扱える性能を有している。E-M1Xなどの防塵・防滴カメラとの組み合わせでは保護等級1級(IPX1相当)の防塵・防滴性能を発揮し、多少の降雨や砂塵舞う砂浜でも撮影を続けられるという安心感がある。またレンズ最前面にはフッ素コーティングが施されており、滑らかで傷が付きづらく、水滴が付着してもきれいに拭き取れる。
干潟を歩きながら採餌するソリハシシギ。野鳥写真の基本は、観察した鳥をシャープに記録することにある。本レンズは望遠端でも羽毛の一本一本まで解像する素晴らしい描写力を持ち、野鳥の持つ本来の美しさを余すところなく記録してくれる。
群れが広がったので咄嗟にズームを引いて広角端で撮影。画角を変えて構図を整えてオートフォーカス撮影まで、その間わずか一秒。ズームレンズの利便性を実感した。光学系にはZ Coating Nanoを採用して耐逆光性能を高めているため、太陽を大胆に画面内に取り入れてもゴーストなどの有害光は目立たない。
朝日バックの飛び立ちを撮影した直後、西の空には虹が出現した。写真に雨粒が写るほどの大粒の雨が容赦なく機材に当たるが、絶好の撮影チャンスを逃すわけにはいかない。このレンズの防塵・防滴性能を信じて撮影を続行した。
※ 35mm判換算
野鳥撮影に適した本レンズの登場に合わせて、カメラ側もより野鳥撮影で特化するべく、E-M1Xが搭載するインテリジェント被写体認識AFに、鳥認識AFが追加された(E-M1X Ver.2.0)。これはAFエリア内に鳥を捉えるとカメラが鳥を検出し、最適なポイントにオートフォーカス・追尾する機能で、これによりAFターゲットを手動で動かす時間的ロスが減少するため、シャッターチャンスへの対応力が向上した。野鳥撮影では測距点の選択ミスでシャッターチャンスを逃してしまうことが多々あり、精度の高い鳥認識AFはありがたい機能である。
もちろん撮影機材の性能が進化したからといっても、良い野鳥写真を撮れるかどうかは撮影者自身にかかっている。野鳥撮影における撮影の秘訣は、野鳥の動きを先読みして行動し、追いかけるのではなく鳥の方から写程距離まで近づいてきてもらうことにある。そのためには撮影対象の識別はもちろんのこと、相手の表情を読み取るなど総合的な観察力を身につけることが大切だ。
単体で焦点距離1000mm相当[※]、外付けの2倍テレコンバーターMC-20併用で最大焦点距離2000mm相当[※]という圧倒的な超望遠性能を持ちながら、手持ちでも快適な撮影を楽しめるM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO。このレンズは野鳥写真の世界を広げてくれる。
※ 35mm判換算
『鳥認識AF』機能を使用して撮影したオナガガモの飛翔。手持ちの動体撮影ではカメラとレンズを保持しながらフレーミングするのに手一杯で、マルチセレクターを操作して測距点を動かす余裕は無いため、精度の高い鳥認識AFはありがたい。
カメラを水面スレスレまで下げ、トリ目線で撮影したヒドリガモ。バリアングルモニターを覗きながらの撮影で、右に左に泳ぐカモの動きを正確に追うのは至難の業。そんなときに鳥認識AFは鳥の目にピントを合わせ続けてくれる。
※ 35mm判換算
他の追随を許さない機動力と信頼性でプロ写真家から絶大な支持を得ているプロフェッショナルモデルOM-D E-M1シリーズ。進化した高性能・高機能を、縦位置・横位置で同じホールディング性を実現した、防塵・防滴・耐低温設計の小型ボディーに凝縮。高い操作性と信頼性を兼ね備えた、あらゆる点でプロの基準を満たすハイスペックなミラーレス一眼カメラに仕上がっています。
他の追随を許さない機動力と信頼性でプロ写真家から絶大な支持を得ているプロフェッショナルモデルOM-D E-M1シリーズ。強力な手ぶれ補正機構と新画像処理エンジンTruePic IXを防塵・防滴・耐低温構造の小型軽量ボディーに搭載し、さらなる高画質撮影が可能になりました。シーンや被写体を選ばずに、あらゆる場所や環境下で思い通りの撮影を実現します。
究極の超望遠性能を追求して開発したハイスペックなPROレンズです。プロの要求に応える解像性能をズーム全域で実現したうえ、最大8段分[※1]の高い補正効果を発揮する世界最強の5軸シンクロ手ぶれ補正にも対応。オリンパスの交換レンズとして初めて1.25倍のテレコンバーターを本体に内蔵し、最大1000mm相当[※]での超望遠手持ち撮影を可能にしています。大口径超望遠ズームレンズながら小型軽量で機動力に優れ、PROレンズに相応しい防塵・防滴・耐低温性能や操作性も実現。野鳥や野生動物、スポーツなど幅広いシーンで最高のパフォーマンスを発揮する1本です。
※ 35mm判換算
※1 CIPA規格準拠。2軸加振時(Yaw/Pitch) 半押し中手ぶれ補正:OFF 使用ボディー:OM-D E-M1X 焦点距離:150mm