掲載日:2023年11月22日
これほどまで軽快に撮影ができる超望遠レンズはほかにあるだろうか。M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS は、レンズ単体で焦点距離200-800mm相当*という幅広い望遠域をカバーしている。それなのに重さ1.120g(三脚座無)、大きさ86.4×205.7mmと驚異のサイズ。更に、2倍テレコンバーターMC-20(別売)を装着すると最大焦点距離1600mm相当*の超望遠撮影が可能なのだ。自然風景の撮影では、被写体が逃げることはないが物理的に被写体へ近づけない状況は多々ある。そんな時レンズ単体だけでも800mm相当*という超望遠は不可能を可能にしてくれる。また最短撮影距離1.3m(ズーム全域)、最大撮影倍率0.57倍相当*という超望遠で寄れる迫力のテレマクロ撮影を可能にした。そこに見えるのは未だかつて見たことのない世界だ。加えてレンズ内手ぶれ補正を搭載しており、800mm相当*という焦点距離を手持ちで手ぶれのない撮影ができる。そして防塵・防滴性能(IPX1)はM.ZUIKO PRO シリーズと同様であり、自然風景を撮影する上でとても心強い。実際雨の中で撮影をしていても、濡れることを気にせず撮影に集中できることは非常に快適だ。
これだけ揃っているのにM.ZUIKOのスタンダードレンズ。しかしPROに匹敵する描写力を持つ優れものレンズだ。
そんなOM SYSTEMの強みでもある小型軽量な超望遠レンズを実際に持って自然風景を撮影してみた。
一般的に風景撮影で使用する「望遠レンズ」のイメージは35mm判換算で200mm前後の焦点距離である。200mmでも花を撮れば背景がボケ、太陽を撮れば圧縮効果が得られ大きく写る。しかしそれでも見えなく気づかない世界が存在する。800mm相当*でファインダーを覗くとそこは別世界が広がる。それによって、今まで気付くことのなかったものの存在や自然の神秘にも近づくことができる。
田んぼの畦道に咲く秋の彼岸花を撮影する。1.3m先にある800mm相当*望遠の世界は未知の世界が見えてくる。ここまで来るとピントはシビア。MF(マニュアルフォーカス)でしっかり蕊の先にピントを合わせてシャッターを切る。手ぶれ補正もしっかり効いている。
OM-1+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISの組み合わせで一番魅力的に感じるのが、両機の機動力だ。レンズについて言うと、レンズ側面に配置されている各種スイッチを使用することでフォーカスや手ぶれ補正を瞬時に切り替えが可能である。なかでも、フォーカスリミットスイッチは超望遠レンズで重要な存在だ。割り当ては「1.3m-6m」「1.3m-∞」「6m-∞」となっていて、それぞれの距離範囲でAF(オートフォーカス)が効くようになる。狙う焦点距離が変わった瞬間切り替え、効率良くスイッチを活用することでより早いAF性能を発揮できるわけだ。
赤そばの花が一面に咲いており、時折の風に細くて長い茎は揺らされていた。花の撮影ではMFも良く使うが、この時はAFで揺れる花を追うことにした。シャッタースピードはブレのないよう1/800秒、背景をきれいにぼかす為、絞り値は開放F6.3。主役の花が撮影場所から近かった為、焦点距離は642mm相当*での撮影となった。フォーカスリミットスイッチを「1.3m-6m」にしたことで、AFはかなりの速さだ。
超望遠レンズM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISはコンピュテーショナル フォトグラフィの深度合成機能に対応している。ピント位置の異なる複数の写真を撮影し、自動で合成する機能だ。手前から奥までピントの合った被写界深度が深い撮影ができる。マイクロフォーサーズはパンフォーカス撮影を得意とするが、超望遠となるとそうはいかない。この機能を使えばそれが可能になる。テレマクロ撮影でも有効だが、自然風景では遠距離撮影でもぜひ使ってほしい。
晩秋の池に咲くヒツジグサを見つけた。水面は畔に立つ紅葉した木々が映り込み真っ赤に染まっている。ここは以前焦点距離200mm相当*で撮影をしていたが、池の真ん中に咲く花は小さなものだった。今回は800mm相当*のレンズを使用しているので、理想な構図を得られた。しかし、ヒツジグサにピントを合わせ何枚か撮ってみるが、絞り値をF8.0に絞っても奥までピントが合わせることができない。そこでF6.3の絞り開放で深度合成機能を使ってみる。処理後に出来上がった一枚は見事に奥の葉までピントを合わせてくれた。
こちらも同じく深度合成機能を使っている。水面には先ほどより小ぶりな葉がたくさん存在した。失敗したのが、絞り値F8.0に絞ってしまったことでシャッタースピードが1/125秒とやや遅くなったことだ。水面には揺らぎがあるので完全に止めた図を作りたいのであれば、絞り開放でシャッタースピードを速めるのが理想である。超望遠撮影での深度合成機能はまだまだ奥が深いと感じた。
レンズ単体でも焦点距離800mm相当*までカバーできる超望遠レンズであるのに、重さは1,120g(三脚座無)、大きさも86.4×205.7mmと片手でも撮影可能なかなりのコンパクトサイズだ。望遠レンズを小さくすることができる、これはマイクロフォーサーズ規格の強みでもある。しかし「コンパクトにすれば描写性能が落ちるのではないか」と聞かれたことがある。手に取って撮影してみれば、そんな不安も一瞬でなくなる。800mm相当*をつけたOM-1は何ともバランスが良く見える。それを手に持って池の畔を歩き回ってみることにした。
夕日が水面を照らした。太陽の映り込みをそのまま撮りたくレンズを向ける。随分手前だったので473mm相当*の広角側で撮影した。強い反射が入っても、ゴーストフレアーが出ず主役の左手前にある葉の描写は素晴らしい。葉の縁にできる光条も見事だ。
こちらも夕日の光が水面の揺らぎできらきら反射している。足元の紅葉した枝を入れて水面をぼかすことで太陽の光線と玉ボケが神秘的な表現になった。200mm相当*側でも見事な描写力を発揮した。焦点距離を200mmから800mm相当*まで瞬時に対応できるのは、一瞬で変わっていく自然風景撮影には大変ありがたいことである。
紅葉した葉は、全てが美しい状態ではない。写真撮影の時はできるだけ美しく残っている葉を探している。この時も畔の斜面下方で状態の良い紅葉を見つけた。800mm相当*という超望遠域のおかげで、葉の一枚一枚と影までもはっきりと描写されている。更に水面の反射をとらえた玉ボケが美しい。これがM.ZUIKO PROレンズでないことが不思議なくらいだ。
湖畔から見事な紅葉の映り込みを撮影。風のない瞬間を狙い、シャッタースピード1/4秒でより水面を滑らかにしている。焦点距離200mm相当*での撮影だが、心配する周辺光量落ちもない状態だ。これでどの焦点距離領域でも高い描写力を発揮することを確認することができた。
日頃撮影をしていると、レンズやボディーに対する要望が次々と出てくることが多い。しかしM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISに関しては、要望がほぼ見当たらない。防塵・防滴性能を備え、超望遠レンズでありながらコンパクトである。さらに最短撮影距離1.3m(ズーム全域)、最大撮影倍率0.57倍相当というテレマクロ撮影が可能で、ズーム全域で高い描写性能を実現している。これだけみても自然風景を撮影するのに最適な高い機動力を持つ高性能と思えるレンズであるのはわかる。では最後に早朝霧の中、太陽が昇るまでの時間帯を撮影した作例を見ていただきたい。
晩秋、毎年ここではこの時期に初雪が見られる場所だ。現地に到着して三脚を立てカメラを設置する。刻々と変わる空気を感じながらスタンバイをしておく。薄ら明るくなると地面から湧き出るように霧が見え始めた。その水滴がレンズやカメラに付着して濡れている。防塵・防滴性能が有難いと感じる瞬間だ。レンズフードが長いおかげでレンズ表面には曇りがない。他の撮影者は広角レンズで前一列に並び撮影している。200mm相当*での撮影は、少し離れて小高くなった場所から可能であった。その場所は独り占めだ。霧の中でも高い描写力には変わりなく、細い一本一本の枝と晩秋漂う残った枯葉が浮かび上がる。
これが焦点距離800mm相当*の世界だ。冬になればここには虫も来なくなる。最後の足掻きのように蜘蛛は糸をはり巡らせていた。今までも自然と向き合って撮影はしてきたが、この800mm相当*の世界はそれをはるかに超え、自然と一体化できると言った方が似合う表現だ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISは焦点距離800mm相当*の望遠域をカバーしているが、更に望遠の世界を撮ってみたい方、元々望遠の目をお持ちで新たな表現を探している方。そんな方におすすめしたいレンズだと思う。
*35mm判換算値