掲載日:2023年2月8日
新たに発売された「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」は35mm判換算で180mm相当*となる望遠マクロレンズです。以前から、OM SYSTEMのマクロレンズは60mm相当*の「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」、120mm相当*の「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」がありますが、それらよりも“大きくぼかせる”、“撮影距離が保てる”といったメリットを持つ望遠マクロの要望は多く、花写真家の私も待ち望んでいたレンズです。
焦点距離の異なる3本のマクロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」で撮り比べました。まず、わかりやすい違いは同じポジションから撮影したときの、写る被写体の大きさの違いです。焦点距離が長くなるにつれて、より大きく写っています。花壇の少し奥にある花も狙えるし、昆虫を撮るときにも撮影距離を保つことができます。
【比較:同じポジションから撮影】
次に、この3枚で比べましょう。上の比較とは異なり、バラが画面上で同じ大きさになるように自身が移動して撮り比べました。M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro レンズでは近づいて、M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO レンズでは離れて撮影しています。背景の違いを見て欲しいのですが、焦点距離が長くなるほど背景の写る範囲は狭くなり、ボケが大きくなっているのがわかります。花をクローズアップしつつ、背景をぼかすのが私の作風なのですが、このレンズを使えば、通常のレンズよりもアップで撮れるうえ、背景がきれいにぼかせるのです。
【比較:被写体が画面上で同じ大きさとなるよう撮影】
焦点距離による違いは「写る範囲」と「撮影距離」「背景の写る範囲」「ボケ量」に現れます。それぞれのレンズにメリットがあるので、自分がどのように撮りたいかによって、3本のマクロレンズを使い分けましょう。
旅する蝶と呼ばれるアサギマダラ。赤ソバに止まっているところを狙いました。近づくと花畑の奥の方へ逃げてしまいますが、望遠マクロのM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROレンズなら被写体との距離を保てるので、少し離れた位置からでも撮影できました。
180mm相当*の望遠マクロレンズとしては453gと軽量で、コンパクト。持ち運びやすく、手持ちで撮影していても腕が疲れにくいのが嬉しいです。インナーフォーカス式を採用していて、撮影倍率が変わっても全長に変化がありません。かなり花に近づいて撮影するので、繰り出し式のレンズでは撮影倍率を上げるとレンズが長く伸び、花にぶつかる恐れがあります。撮っていた水滴が落ちてしまったり、レンズに花粉がついてしまうような心配がありません。
レンズ側面を見ると、オートフォーカスの駆動範囲を制限し、より素早いピント合わせを行なうことができる「フォーカスリミットスイッチ」があります。スイッチはレンズの斜め上に位置しているので、カメラを構えている間に操作しやすいです。通常撮影時は0.25m-∞で撮影しますが、より撮影倍率を高くしたい時は「S-MACRO」に切り替えましょう。すると、このレンズ単体での最大撮影倍率である4倍相当*の撮影ができます。撮影倍率に関しては、この後の項目でより詳しく解説します。
ピントリングは幅広く、使いやすいデザインです。マニュアルフォーカスでピントを合わせることも多いので、フォーカスリングの操作性は重要なポイントです。ピントリングはクラッチ式になっていて、前後にスライドさせることでAFからMFへの切り替えもスムーズです。ピントリングを手前に寄せるとMFに切り替わり、フォーカスリング位置に応じた撮影倍率が表示されます。
また、レンズ側面にある「L-Fn」ボタンはレンズファンクションボタン。カメラのメニューからこのボタンにさまざまな機能を割り当てることができます。私はカメラボディー側のAF設定がMFとなる「MF切替」に設定していて、高倍率撮影時に厳密にMFでピントを合わせたい時に、このボタンを押すことでAFとMFを瞬時に切り替えることができるようにしています。
同梱のレンズフードがあります。本来は強い光が直接レンズ表面に差し込まないようにするものですが、花撮影に夢中になっていると、つい花にレンズ表面をくっつけてしまうことがあり、レンズの表面に花粉や、水滴が付いてしまったりします。しかし、レンズフードがあればレンズ表面を汚してしまうことも少なくなり便利です。装着はロック式で、取り外ししやすく、簡単には落下しにくくなっています。
このレンズはPROシリーズ初のマクロレンズであり、画質は極めてシャープ。OM-1画質の高さも相まって、撮影中にチェックすると、ピント面のシャープさに驚かされます。また、パソコンで拡大してみると、花の細部まで解像されていて、おしべの花粉まで細かに見ることができました。撮っていて、“とても気持ちいい”という表現がぴったりきます。OM-1でコスモスを撮ったとき、花の中心部を拡大してみてみたのですが、カメラとレンズ双方の高い画質が相まって、植物らしい瑞々しさのある質感が細部まで描写され、花がまるでそこにあるようなリアルさに驚きました。それでいて、望遠マクロレンズならではの大きく、滑らかなボケが美しく、花のふんわりとした雰囲気を出すのにぴったりです。また、逆光撮影時もシャープネスを損なわず、クリアな描写が得られます。
通常の撮影に比べて、クローズアップ撮影ではブレが目立ちやすくなります。狭い範囲を拡大しているので、わずかな揺れが大きなブレとなって写ってしまいます。ピンボケのように思える画像も、実はブレているためにボヤッとして見えるということも多いのです。OM SYSTEMのカメラは全てボディー内手ぶれ補正が搭載されていて、しかも、かなり強力です。試しに手ぶれ補正をオフにしてみると、いかに手ぶれ補正効果の恩恵を受けているかが良くわかります。
マクロ撮影は三脚が必須でしたが、今では手持ちでもシャープに撮ることができるのは手ぶれ補正機能の向上のおかげ。しかもこのレンズにはレンズ側にも手ぶれ補正機能が付いており、レンズに搭載した手ぶれ補正機構とボディー内の手ぶれ補正機構が協調して手ぶれを抑える5軸シンクロ手ぶれ補正※が働きます。高い撮影倍率で撮ることが多くなるマクロレンズだからこそ、強力な手ぶれ補正機能を活かして、気軽にマクロ撮影を愉しみましょう。
※5軸シンクロ手ぶれ補正対応ボディーとの組み合わせ時
基本の状態では0.25m-∞までピントが合い、撮影距離0.25mでの撮影倍率は2倍*となります。そして、この時の絞りの開放値はF3.5(実効FnoはF4.5)です。さらに、レンズ側面のフォーカスリミットスイッチからS-MACROにすることができるのがこのレンズの特徴で、撮影距離0.224m(4倍*)から0.5m(0.5倍*)の高倍率撮影を行なうことができます。撮影距離0.224m時の絞り開放値はF5.0(実効FnoはF8.0)です。モードによって絞りの開放値が異なる点は注意しておきましょう。
さらに、このレンズにはテレコンバーターレンズを装着することが可能です。2倍のテレコンバーターレンズMC-20を使用すると焦点距離が伸びるだけではなく、撮影倍率も上がります。S-MACRO使用時は、最大で8倍*まで倍率を上げることができます。ここまで撮影倍率が高くなると、手ぶれ補正が強力とはいえ、前後の揺れによってピントがずれるし、フレーミングが定まらないので、三脚は必須と言えます。被写界深度も極めて浅くなるので、場合によっては深度合成機能を使ってみましょう。
高倍率の撮影ができるにもかかわらず、AFは静かでスムーズ。ピント合わせでカメラが迷うことも少なく、ストレスなく撮影できるのはありがたいです。これは通常モードだけではなく、S-MACROモードでも、さらには2倍のテレコンバーターレンズを使用した8倍*の撮影倍率でもAFが使えます。コントラストが低めの場所ではどうしてもピントが合いにくいシーンもあるので、その場合はMFに切り替えましょう。MFでのピント合わせはライブビューの拡大機能が便利です。画面の一部を拡大しながらピント合わせが行えます。
IP53の防塵・防滴性能を備えているので、雨の中での撮影も安心です。防塵・防滴性能を搭載したカメラと合わせて使えば、さまざまな天候下でも撮影に集中できます。実際に雨の中で撮影しましたが、何の問題もありませんでした。また、傷や汚れがつきにくいフッ素コーティングがレンズ前面にされているので水滴も除去しやすく撮影時のストレスも感じませんでした。ただし、レンズ交換時はカメラ内部に水滴が入らないように注意してください。
バラについた水滴です。このレンズの最短撮影距離で撮影したので、撮影倍率は4倍相当*です。ピントは水滴の表面に合わせました。さすがに手持ちではピントがずれてしまうので、三脚に据えて、慎重にピントを合わせました。
「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」の魅力は伝わりましたでしょうか。今回、私自身が使ってみて、“気持ちがいい”というのがいちばん正直な感想です。クローズアップができる、大きなボケが作り出せるというのはもちろんですが、画質がとてもいいので作品を作る上で自信を持って使えます。他のマクロレンズよりも高倍率の撮影ができるので、花びらの一部に迫ったり、水滴を狙ったりといった撮影もこなすことができ、新たな世界も広がって行きそうです。
室内で撮影した水滴の写真。よく見ると花がすっぽり入っていますが、これは後ろにボケているガーベラが映り込んだものです。とても小さいので存在感を出すには拡大率の高いマクロレンズを使いたいものです。ブレないように三脚を使い、映り込んだ花にMFで慎重にピントを合わせました。
*35mm判換算 焦点距離