掲載日:2023年8月30日
皆さんはマクロレンズをご存知ですか。すでに持っている方もいらっしゃるでしょうし、持っていないけど興味があるという方もいると思います。また、持っているけど使い方がよくわからないという声も聞かれます。マクロレンズはひとことで言うと、接写が得意なレンズです。通常のレンズと比べると近距離でピントが合うので、小さな被写体も大きく写すことができるのです。近距離専用レンズではないので、中距離、遠距離と通常のレンズと同じように使うこともできます。
マクロレンズには種類があります。OM SYSTEMのM.ZUIKO DIGITALレンズシリーズでは焦点距離の異なる3本のマクロレンズがあります。M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro(焦点距離60mm相当*)、M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro(120mm相当*)、M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO(180mm相当*)のレンズがあり、30mmは標準域マクロ、60mmは中望遠域マクロ、90mmは望遠域マクロと位置付けられます。焦点距離が長いほど遠くの被写体が大きく写せて、背景のボケ量も増えます。しかし、レンズ本体が大きく、重くなり、価格もそれに比例していきます。ED 60mm F2.8 Macroレンズは、3本の中で中間の位置にあり、最初に発売されたレンズとなります。それだけ、一般的で使い勝手が良い焦点距離だということです。いずれもズームはできませんが、そのぶん接写能力が高い設計となっています。
今回はそんな知っているようで知らないマクロレンズの中でも「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」を中心に解説したいと思います。
ベゴニアの花芯部をクローズアップしました。渦を巻くように重なる花びらの曲線が美しく、花びらの優しいグラデーションも素敵です。マクロレンズなら、通常のレンズでは迫れない花の魅力を引き出すことができます。
マクロレンズなので接写能力が気になるところですが、それぞれの最大撮影倍率を見てみるとED 30mm F3.5 Macroレンズは2.5倍*、ED 60mm F2.8 Macroレンズは2.0倍*、ED 90mm F3.5 Macro IS PROレンズは4.0*倍(S-MACRO設定時)となり、ED 90mm F3.5 Macro IS PROが群を抜いていますが、通常花をアップで撮る分には2.0倍*程度で不足は感じないかと思います。
これはハイビスカスのシベをクローズアップした写真です。マクロレンズの2.0 倍*付近で撮影するとここまでクローズアップすることができます。形がユニークで色も美しいので、マクロレンズを使って、よく撮影する被写体です。
アリアケカズラという植物の花で、中心部が奥まった形をしています。写真はその奥にピントを合わせたものです。手前の花びらが前ボケとなって不思議な作品になりました。見る人に「なんだろう」と思わせる楽しさもありますね。
ED 60mm F2.8 Macroレンズの外観をみてみましょう。
このレンズは、中望遠マクロとしてはとてもスリムで、小型・軽量の185g。持ち運びしやすく、それでいて2倍*の撮影ができるのが嬉しいですね。
レンズの側面にスイッチがありますが、これは「フォーカスリミットスイッチ」といって、ピントが合う範囲を制限するものです。このレンズでいちばん質問が多い機能なので、お話ししておきましょう。マクロレンズは遠くからかなりの近距離までピントが合わせられるので、フォーカスの駆動範囲を制限することでより素早いピント合わせが行えます。このレンズの最短撮影距離は0.19m(センサーから19cmの距離)なので、通常使う際は「0.19〜∞」にスイッチを合わせます。近距離だけでピントを合わせる場合は「0.19〜0.4」にスイッチを合わせると、その範囲だけでフォーカスが駆動します。また1:1に合わせせると最大撮影倍率の2倍*まで瞬時に合わせることができます。しかし、オートフォーカス(AF)でピントを合わせようとすると、ほんの少しの距離の違いでピント位置が変わってしまうので、これはマニュアルフォーカス(MF)時に最短撮影距離で撮りたい時に使います。
近距離でピントを合わせるときはフォーカスリミットスイッチを「0.19〜0.4」に合わせるとフォーカスがスピーディーになります。しかし、少し離れた距離で撮ろうとして時にピントが合わなくなるので、切り替えを忘れずに行ってください。切り替えが手間な場合は全域に合う「0.19〜∞」に合わせておけばOKです。
次はレンズの上部を見てみましょう。数字とオレンジのバーが見えますね。これは撮影距離、倍率を示す表示窓で、このED 60mm F2.8 Macroレンズだけに備わっています。どれくらいの倍率で迫れているのかを知ることができるのと、MF時にどちらに回すと近距離方向にフォーカスがあっていくのかがわかります。
ピントリングの動きは滑らかで、MF時もストレスなく合わせられます。最短撮影距離付近で撮る時はけっこうぐるぐる回す感じです。マクロ撮影ではMFでのピント合わせを行うことが多いので、ぜひ慣れておいてください。
写真のように光がやわらかく、コントラストが低いシーンではAFが合いにくい場合もあります。多少陰影のある部分に合わせてみるとうまく合うこともあります。しかし、MFでもピントを合わせられるように慣れておくといいですよ。
別売のレンズフード「LH-49」も用意がありますが、これはぜひレンズと一緒に購入して欲しいです。フードは逆光時に強い光がレンズ内に入り込むのを抑えるためのものですが、フードがあることでレンズの表面が剥き出しにならず、花の花粉や雨が付いてしまうのを抑えることができます。そして、このフードは直進式なので、収納も便利です。
画質が気になるところですが、マクロレンズは近距離から絞り開放でもシャープ感が高く設計されています。トンボの写真を拡大してみた時に、解像力の高さに驚きました。細かな形状がリアルに再現されています。円形絞りを採用しているので、ボケの形にもこだわった設計になっていて、丸ボケの形も綺麗ですね。サギソウの背景にある丸ボケは木々の木漏れ日です。水面の反射や葉のテカリがボケると丸いボケになりますが、花の背景に輝きを感じさせたい時に入れることが多いです。
レンズの表面にはゴーストやフレアを排除する「ZEROコーティング」が施されているので、逆光で花を狙う時もクリアな描写で撮影できます。
まるで白鷺が羽ばたいているかのような姿をしているサギソウ。下から見上げ、木漏れ日の丸ボケを背景にして飛翔しているイメージで撮りました。円形絞りを採用しているので、ボケが角ばらず、綺麗な丸い形をしています。
AFはスムーズで静かです。クローズアップ撮影時もピントが合いやすいです。撮影倍率2倍*付近でも合いやすいですが、白い花びらなど、被写体のコントラストが低い場合はAFが迷うこともあるので、その場合はMFに切り替えましょう。また、ウメなどの小さな花を撮る時に、ピントが背景に合ってしまうことがありますが、カメラのAFターゲット枠をいちばん小さくすることで合いやすくなることもあります。
今回使用したOM-1やOM-5など、カメラボディー内の強力な手ぶれ補正機構を搭載したカメラ本体との組み合わせにより、マクロ撮影時に生じるシフトぶれも補正可能なので、三脚を使用しなくてもかなりブレを抑えてくれます。もちろん三脚が使えればより確実ですが、三脚が使えない温室や木道などから花を撮るときなどは手持ちでもシャープに撮れる安心感が得られるのは嬉しいですね。私も最近、手持ちでの撮影がほとんどです。もちろん、クローズアップ撮影時はブレが目立ちやすいので、しっかり構えることと、多めにシャッターを切って、その場で再生&拡大して確認することをお勧めします。
手持ちで水滴のクローズアップ撮影をしました。拡大率が高くなるほどブレが目立ちやすくなるので、手ブレが心配なのですが、強力な手ぶれ補正が効いているのでシャープに撮ることができました。全てのカットでピントが合ったわけではないので、多めに撮影して、チェックすることを忘れないことを心がけましょう。
ほこりや水が入り込むのを防ぐシーリングが施されているので、防塵・防滴性能が高いです。今まで、雨の中で何度も撮影しましたが、問題なく使えました。機材にカバーをしながら撮るのは結構ストレスなので、雨に濡れるのを気にせず撮れるのはかなりありがたいです。
ここからは花撮影時における、使いこなしテクニックをご紹介しましょう。
ボケは<1>絞りを開け(F値を小さくする)、<2>花に近づき、<3>花と背景(前ボケなら手前の花)が離れていることが条件です。絞り(F値)の開放値がF2.8と明るいのでぼかしやすいのです。私は望遠ズームの「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」レンズも愛用していますが、そちらの方が焦点距離の長さによって大きなボケが得られます。しかし、近づくという点ではマクロが上です。そこで、ちょっと離れた花は望遠ズームレンズで、近くの花はマクロレンズでと使い分けています。花の彩りを取り入れたボケはとてもやわらかで美しい雰囲気を作り出してくれます。
背景選びはとても大切です。主役を引き立て、画面を華やかにしてくれる背景を作りたいものです。ボケ量はもちろん、背景に入る色なども主役を邪魔せず、むしろ華やかにしてくれる背景を選びましょう。秋バラなので、背景には黄色く色づいた木々とピンクのバラのボケを入れました。
花や葉に付いた水滴はマクロならではの被写体です。通常のレンズではなかなか近寄れないので存在感を出すことができません。水滴は表面にピントを合わせるパターンもありますが、水滴に後ろの花が映り込んでいることがあるので、その場合は映り込みにピントを合わせましょう。ピント合わせがシビアなのでMFで合わせるといいですよ。また撮影倍率が高くなるので、フレーミングを安定させるためにも三脚があった方が落ち着いて撮影できます。
「深度合成」機能とは、ピントの位置を変えて写した複数の写真を合成して深いピントの深度を得る撮影技法です。クローズアップ撮影では被写界深度が極めて浅くなるので、ピントを合わせた前後がボケてしまいます。もちろん絞りF値を絞り込めば(F値を大きくすれば)全体をシャープに写すことはできますが、今度は背景までくっきりと写るので煩雑な印象になります。しかし、OM-1やOM-5などのカメラに搭載された深度合成機能を使うと、ピント位置をずらしての連写を自動で行い、合成も同時にカメラ内で行えます。花全体はくっきり写しながら背景はボケているという作品を作ることができるのです。
ランは立体的な形をしているので、背景をぼかそうと絞りを開ければ(F値を小さくすれば)花の前後までボケてしまいます。逆に、花全体をシャープに写そうと絞り込めば(F値を大きくすれば)背景までシャープに写ってしまいます。そこで、深度合成機能を使うことにより、花の手前から奥へとピントをずらして複数枚を自動で撮影、合成されます。それにより背景はボケていながら、主役の花全体はシャープに写るという撮り方が実現できるのです。
OM SYSTEMのカメラには多彩なアートフィルター機能が搭載されています。マクロレンズで撮った作品に合わせるのもいいですよ。私のお気に入りはソフト効果のかかる「ファンタジックフォーカス」機能です。マクロ撮影でのボケ表現と花のハイキーな雰囲気と組み合わせると相性バッチリです。通常撮影の作品と組み合わせても違和感がないので、作品展でも数点は入れますね。他にもレトロな雰囲気の「トイフォト」や「ヴィンテージ」機能なども素敵です。いろいろなアートフィルターを試してみてください。
強い光が射し込んでいるシーンでもファンタジックフォーカスを使うと、やわらかな雰囲気に仕上げることができます。見た目よりも少し明るめに写るように露出補正をかけると、よりソフト効果が強く感じられます。花以外にもテーブルフォト、ポートレートなど、ジャンルを選ばす使えるアートフィルターです。
花の色や光の状況によって、自分の好みに合う、合わないが出てくるので、いろいろ試して見るといいでしょう。渋い印象のヴィンテージIIIに、さらに画像編集ソフト「OM Workspace」を使ってソフト効果や周辺が暗くなる効果をプラスしました。ファイル形式「RAW」で撮っておけば、アートフィルターや効果を後から変えることができて便利です。
「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」を中心にOM SYSTEMのマクロレンズの魅力についてお話ししてきました。小さな花を大きく写したり、大きな花は美しい部分を切り撮ったりと、花を撮るなら1本は持っておきたいレンズです。小型・軽量なので、持ち運びもしやすいので、カメラにこのマクロレンズ1本だけをつけて近所をぶらぶら被写体探しなどもしばしば。普段は目に留まらないような小さな世界には魅力がいっぱいです。皆さんもマクロレンズを持って花の写真を撮影してみてはいかがでしょうか。
お寺の手水舎の下にアジサイの鉢が置かれていて、流れてくる水とアジサイを絡めて撮りました。水の流れを感じさせるためにシャッター速度は遅くしたいものの、手ブレしない程度のシャッター速度を選びました。お散歩中もマクロレンズがあると狙い方のバリエーションが増えますね。
カメラの「多重露出」機能を使い、ダリアのピントを合わせた画像と、全体がボケた画像を重ねました。またソフト効果のかかるアートフィルターをかけました。マクロレンズを上手に使いつつ、OM SYSTEMならではの機能を加えると、現実を写していながらも、より自分が想像する世界に近づけることができます。
*35mm判換算値