PEN × 写真家 大門 美奈 撮ることを軽やかに。新しいPENと歩く日常

掲載日:2026年09月09日

掲載日:2026年09月09日

カメラを選ぶとき、私がいちばん大事にしているのは「持ち出す気になるかどうか」だ。どれだけ高性能でも、鞄の中で存在感を放ちすぎるカメラは、使用する機会を選んでしまう。旅行のときだけ、特別な撮影のときだけ——そのようにいつまでも防湿庫の中でくすぶっているカメラが今も複数台ある。

OM SYSTEMとして初めて登場したPENと過ごした数ヶ月、その心配は無用であった。小型軽量なボディーとレンズのバランスは、「今日はカメラを持っていく日」ではなく「今日もPENと出かける日」に変えてくれた。仕事の合間、駅までの道、 近所のスーパーへの往復など、「撮る予定のない時間」にこそ、思いがけないチャンスはあるものだ。荷物を増やしたくない日でも、鞄の隙間に収まってくれる軽さがあるから、結局持ち出すことになる。

レンジファインダースタイルの佇まいも、構えたときに主張しすぎない。一眼レフのように大袈裟になることもなく、シャッターを切る所作にもどこか懐かしい手応えがある。身構えずに、目線の高さでさっとシャッターを切れる感覚は、被写体に威圧感を与えないという点で、ストリートスナップにとっては重要な要素である。カメラを構えている、という緊張感を相手に与えないことは、日常の表情を切り取るうえで、性能以上に効果的な部分かもしれない。

今回は25mm F1.8 IIの単焦点レンズを基本に、寄りたいときは45mm F1.8、広く空気ごと切り取りたいときは17mm F1.8 II、自由に焦点距離を変えたいときはPENと同時に新しく発売された標準ズームレンズ(14-42mm F3.5-5.6 III)と、気分と場面によって付け替えて歩いた。いずれも驚くほど軽いので、レンズ交換自体が億劫にならない。その日の気分で組み合わせを変えられる身軽さは、小型軽量というスペック表記だけでは伝わらない実感だった。

PEN + 25mm F1.8 II

50mm相当*, 1/4000秒, F1.8, ISO 100
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -5, Midtone: 0, Shadow: +1

カラープロファイルコントロール

街は一瞬で表情を変える。原宿の交差点、夕暮れの路地、雨に濡れたスクランブル交差点、ついさっきまでなんともなかった風景が、光の角度がひとつ変わるだけで、急に「撮りたい」と思わせる光景になる。そうした瞬間はいつも不意に訪れるものだからこそ、すぐにカメラを構えられる状態であることが大前提だ。

シーンモード(SCN)やアートフィルター(ART)のような、初心者でも迷わず使えるモードの存在も大きい。設定に気を取られている間にシャッターチャンスを逃す、という経験が驚くほど減った。細かい設定を詰めるよりも先に、まず一枚を残せる。そのための引き出しが最初から用意されているのは、ストリートスナップのような「待ってくれない」被写体を相手にするときには非常に頼りになるものだ。

PEN + 45mm F1.8

90mm相当*, 1/400秒, F2.5, ISO 200
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 0, Midtone: -1, Shadow: 0

カラープロファイルコントロール

今回いちばん自分の作風と向き合うきっかけになったのが、カラー/モノクロプロファイルコントロールだった。これまでモノクロは撮影後の現像で作るものだと思っていたけれど、このカメラでは撮る前から色そのものを設計できる。カラープロファイルコントロールにはフィルムを選ぶ感覚で楽しめる4つのプリセットが用意されていて、渋みのある濃厚な発色から、淡く柔らかいトーンまで、12色それぞれの彩度を追い込んで自分の好みに調整でき、プリセットに保存しておくことができる。日が傾き始めた時間帯に黄や橙、赤を少しずつ強めていくと、記憶の中の色にどんどん近づいていくのに夢中になり、目の前に写し出される色の効果のおかげで撮影が捗る、なんてことも一度や二度ではなかった。

PEN + 45mm F1.8

90mm相当*, 1/1250秒, F1.8, ISO 200
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 0, Midtone: -1, Shadow: -1

カラープロファイルコントロール

モノクロプロファイルコントロールもカラーと同様に奥が深い。カラー同様に4つのプリセットが用意されており、さらに、粒状フィルム効果でざらついた質感を足したり、赤外線写真のような赤のカラーフィルター効果で空気を締めたり、逆にコントラストを抑えて柔らかい印象にしたりと、素材そのものの見え方を現場で作り込める。周辺を落とすシェーディング効果をかけると、まるでオールドレンズで撮ったような滲みが加わって、何気ない路地の一枚が急にもっともらしい顔つきに変化する瞬間があった。

PEN + 25mm F1.8 II

50mm相当*, 1/1250秒, F1.8, ISO 200
モノクロプロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 2, Midtone: -2, Shadow: -3

モノクロプロファイルコントロール

PEN + 45mm F1.8

90mm相当*, 1/320秒, F1.8, ISO 200
モノクロプロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 0, Midtone: -2, Shadow: 0

モノクロプロファイルコントロール

面白いのは、これが撮影後の加工ではなく、撮る前に選ぶ「その場の判断」だということだ。目の前の被写体を見て、これはコントラストを効かせた硬めのモノクロがいい、これはソフトなカラーがいい、と直感で選び分けていく。その積み重ねが、結果的に「自分らしさ」という漠然としたものを、具体的な色や階調の選択として輪郭づけてくれた気がする。調整した設定はそのままプリセットとして残せるので、気に入った仕上がりに出会ったら、次はそれを起点に微調整していくだけでいい。撮るたびに自分の好みが更新されていく感覚は、ちょっと癖になりそうだ。

PEN + 17mm F1.8 II

34mm相当*, 1/200秒, F1.8, ISO 200
モノクロプロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -2, Midtone: -2, Shadow: -1

モノクロプロファイルコントロール

雨の夜、傘を差しながら片手で構えても、5軸手ぶれ補正のおかげで思った以上にシャープに写る瞬間があって驚いた。人混みの中を歩きながらの撮影は、 雨の暗さも手伝って手ぶれのリスクが高い。それでも「止まってくれる」という安心感があるから、歩きながらでも自由にシャッターを切り続けることができるのだ。

PEN + 17mm F1.8 II

34mm相当*, 1/60秒, F1.8, ISO 200
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -7, Midtone: 0, Shadow: 0

カラープロファイルコントロール

街を離れて海に向かうと、カメラに求めるものが少し変わってくる。潮風、砂、ときには波しぶきなど、気にせず構えられるかどうかが、撮影のテンポそのものを左右する。IPX1相当の防塵・防滴性能のおかげで、そうした環境でも神経質にならずにシャッターを切ることができた。天候を気にして撮影のリズムを崩されることがない、というのは、実際に体験してみるまで想像していた以上にありがたいことだった。

海辺には、街とはまた違う種類の「一瞬」がある。強力な5軸手ぶれ補正のおかげで、こうした動きのある被写体も余裕で追い続けられる。落ち着いて設定を追い込む余裕もない中で、とにかくシャッターを切って、あとから見返して驚くということも度々あったが、そんな撮り方ができるのは、間違いなくこの手ぶれ補正性能のおかげだ。

PEN + 25mm F1.8 II

50mm相当*, 1/4000秒, F2.2, ISO 125
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -4, Midtone: 0, Shadow: 0

カラープロファイルコントロール

PEN + 25mm F1.8 II

50mm相当*, 1/1600秒, F6.3, ISO 200
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -4, Midtone: 0, Shadow: 0

カラープロファイルコントロール

PEN + 17mm F1.8 II

34mm相当*, 1/4000秒, F4.0, ISO 200
カラープロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -5, Midtone: 0, Shadow: 0

カラープロファイルコントロール

今回いちばん新鮮だったのは、OM SYSTEMの特徴的な機能のひとつであるコンピュテーショナル フォトグラフィの「ライブND」撮影機能を使った一枚だった。手持ちのまま、まるで 長時間露光をしたかのように、動きのある波の質感がやわらかくにじみ、時間そのものが写り込んだような一枚になった。
物理的なNDフィルターを用意しなくても、スローシャッターの表現をその場で確認しながら試せるというのは、初心者でも気軽に「作品づくり」を楽しめる機能だと感じた。
今回は使用しなかったものの、コンピュテーショナル フォトグラフィには「ライブND」の他にも「ハイレゾショット」「深度合成」「HDR」「多重露出」「ライブコンポジット」機能などがあるので、これらを生かした作品づくりを楽しめるのではないかと期待している。

PEN + 17mm F1.8 II

34mm相当*, 1/5秒, F22, ISO 64
ライブND(ND8)
モノクロプロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: -1, Midtone: -4, Shadow: 0

モノクロプロファイルコントロール

地元の浜に戻った一日の終わり、静けさの中で最後まで撮影を楽しめた余韻が、写真の余白に滲んでいる気がする。

PEN + 14-42mm F3.5-5.6 III

84mm相当*, 1/640秒, F5.6, ISO 200
モノクロプロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 0, Midtone: -2, Shadow: 0

モノクロプロファイルコントロール

砂の上に落ちていた一枚の羽根。旅の終わりに、ふと足を止めて見つけたディテールだった。

PEN + 14-42mm F3.5-5.6 III

84mm相当*, 1/160秒, F5.6, ISO 200
モノクロプロファイルコントロール/ハイライト&シャドウコントロール : Highlight: 3, Midtone: -4, Shadow: 0

モノクロプロファイルコントロール

数ヶ月のあいだ、PENと過ごして気づいたのは、性能の良さそのものよりも、「撮ろうと思った瞬間にためらわずシャッターを切れる」という安心感の大きさだった。持ち出しやすさ、 スタイリングのよさ、環境を選ばない防塵・防滴性能、とっさの瞬間を逃さない手ぶれ補正、そして色そのものを設計できるプロファイルコントロールやライブNDのような遊び心のある機能——どれも派手すぎず、しかし確実に、日常の中で写真を撮り続けるという行為を後押ししてくれる。

正直なところ、撮影を始める前は「プロファイルコントロール」という言葉の響きに、少し身構えていた。細かい数値を操作する作業は、性に合わないかもしれないと思っていたからだ。けれど実際に触ってみると、それはフィルムを選ぶ感覚に近かった。好みのプリセットに軽く手を加えるだけで、記憶の中の色にすっと近づいていく。設定を追い込むというより、対話をしているような感覚だった。

「自分らしい表現を愉しめるカメラ」というコンセプトは、決して大げさな言葉ではなかった。カメラが自己主張するのではなく、撮る人の視点にそっと寄り添ってくれる。そのことこそが、このカメラの本質だと思う。旅先で不意に立ち止まって撮った一枚も、帰宅途中で何気なくシャッターを切った一枚も、どちらも同じくらい愛おしく思えるのは、きっとこのカメラが、撮ることそのものを軽やかにしてくれたからだろう。

*35mm判換算値

記事内で使用した機材

大門 美奈

横浜出身、茅ヶ崎在住。国内外のスナップ、日本の伝統美や陰影を活かした表現を得意とし、特にモノクロームの表現に定評がある。代表作に写真集『浜』(赤々舎)や『Al-Andalus』、新橋芸者を撮り下ろした「新ばし」など。現在は作家活動のほか、カメラメーカー等での講師活動、雑誌・WEBへの寄稿など多角的に活動している。