オリンパスのタフカメラを普段から愛用する、昆虫写真家として著名な海野和男氏。タフシリーズの新モデルTough TG-5をいち早くフィールドで使用し、その進化を詳しくレビューしていただきました。
掲載日:2017年6月9日
オリンパスのタフシリーズは、昆虫を撮影するのにこれ以上ない素晴らしいカメラだ。ポケットに入るコンパクトなサイズながら広角から望遠まで最短撮影距離のまま光学ズームが可能で、1cmに満たない小さい被写体でも画面いっぱいに写すことができる。防水・防塵・耐衝撃などのタフ性能をあわせ持つのもフィールドで安心して使用できる点だ。昆虫などを撮ることが多いぼくにとって必携のカメラで、どこにいくときも必ずポケットに入れて持ち歩いている。
今回はタフシリーズの新モデルTG-5を持ってマレーシアとアフリカで撮影を行ってきた。さらに国内でも撮影を実施して、TG-5をじっくりと使ってみた。
ここでは、従来のタフシリーズと比べてTG-5がよくなった点や、特に便利だと感じた点をご紹介したい。
TG-5を使ってみて感心したのが動画撮影機能の向上だ。特に、フレームレート120fpsで記録するハイスピードムービーをフルハイビジョンで撮れるようになったのが素晴らしい。
ぼくはハイスピードムービーが大好き。通常の動画では見られない様子をスローモーションで表示するハイスピードムービーは、見る人を引き付ける魅力がある。写真展でハイスピードムービーを展示してもとても評判がよく、長時間の映像でも食い入るように見る人もいるほどだ。
「ハイスピードムービーは高価で高性能なカメラでないと撮ることが難しい」と思う人も多いだろう。だが、TG-5ならそれが簡単に撮れる。しかも超クローズアップで撮れるのだ。撮影時間が20秒に限定されるものの、ポケットに入るコンパクトサイズで、フルハイビジョンのハイスピードムービーをマクロ撮影できるのがTG-5の一番の魅力で楽しいところである。
さらに、TG-5は高精細な4K(4K/30p)ムービーも撮れるようになった。テレビ番組の撮影などはもはや4Kが当たり前になっていて、ぼくも最近は基本的に4Kで撮るようにしている。欲を言えば4K/60pに対応するといいのだが、このコンパクトなサイズで、超クローズアップした状態で4Kを撮れるカメラはほかにはない。
昆虫などの小さな被写体をハイスピードムービーや4Kムービーで、しかもマクロで撮影するには大がかりなカメラシステムが必要だ。機材も数kg以上になることもあり、フィールドで持ち運ぶだけでも苦労する。そういった点で、画質や機能に違いはあるもののコンパクトで同じことができるTG-5はすごいカメラであると言えよう。
ぼくは、ピントを少しずつずらして撮影した複数の写真を使ってフォーカス合成を行う深度合成をよく活用している。昆虫など小さな被写体をマクロで撮る場合、被写界深度が極端に浅くなる。昆虫写真家にとって、被写体全体にピント合った写真にするのに深度合成はなくてはならない手法だ。
ときには何百枚もの写真を撮り、撮影後に編集することもあるが、大変な時間と労力がかかる。最近では、カメラ内の深度合成機能が便利でよく使っているが、TG-4では深度合成で出力される写真の画素数が800万画素になるのが少々不満だった。だが、TG-5は、深度合成を使っても1200万画素のフル画素で出力されるようになった。800万画素では解像感が足りないと思うことがあったが、1200万画素あれば細かいディテールの再現性も高まる。これは大きな進化だ。
フラッシュディフューザー FD-1は、TG-5ならびにTG-4で昆虫を超クローズアップ撮影する場合に必須のアクセサリーだ。カメラに取り付けてアクセサリーの設定をオンにすれば、カメラ内蔵のフラッシュを利用して、マクロ撮影でも明るくライティングすることができる。
ぼくはいつもこのアクセサリーを装着した状態で使用しているが、TG-5は、TG-4とは異なり、リモートフラッシュをスレーブモードに設定しなくても、深度合成でFD-1を使ったフラッシュ撮影ができるようになった。設定にひと手間かけずに使えるようになったのがうれしい。アクセサリー用のロックボタンが追加されたのも改善点で、装着したアクセサリーが不意に外れることがなくなり、フィールドでもFD-1を装着した状態で安心して持ち運ぶことができた。
FD-1を使って深度合成を行う場合は、カメラ側のフラッシュの光量補正を「-1(*1)」に落としたうえで、FD-1側の光量の切り替えレバーを開いた状態(通常の状態)にするのがぼく流の使いこなし術。こうすることで光量が落ちないうえ、撮影後の内蔵フラッシュのチャージも早くなり、レスポンスよくフラッシュ撮影を続けられる。この方法を使えば深度合成をより高画質かつスムーズに行えるので、ぜひ試してみてほしい。
(*1)TG-4での設定方法となります。TG-5では深度合成時にフラッシュの光量補正はできません。TG-5は深度合成時にマニュアル発光量の設定が可能となりましたので、被写体の明るさに応じて、発光量の調整を行ってください。
OM-D E-M1 Mark IIに搭載されたプロキャプチャーモードを利用できるのもTG-5の注目点。いわゆるプリキャプチャー撮影機能で、レリーズを切る前にさかのぼって写真を記録してくれるのがとても便利だ。
被写体を目で見てからシャッターボタンを押すまでのタイムラグは、ぼくの場合、0.4秒くらいある。反応がいい人でも0.25秒くらいはあるだろう。カメラの性能が向上し、カメラのレリーズタイムラグが短くなっても、撮影者が目で見てから反応するまでの遅れは絶対に発生する。蝶が羽ばたくところなどは、見た瞬間にシャッターボタンを押していては、どれだけ連写しても撮ることができない。
プリキャプチャー撮影は、シャッターボタンを押す前の画像を一時的に保管しておいて、シャッターボタンを押したときに一定の枚数をさかのぼって記録してくれる。この機能を活用することで、レリーズを切る前のシーンを押さえられる可能性が高まるのだ。
TG-5のプロキャプチャーモードは、シャッターボタン半押しでプリキャプチャーがスタートし、全押しした0.5秒前から約5コマを記録する仕様となっている。「約5コマの記録では見た瞬間を収めるのは難しいかもしれない」と思って使ってみたが、思った以上にうまく撮ることができた。十分な性能で、こうしたコンパクトなカメラでプリキャプチャー撮影ができるのは非常にありがたい。
TG-5には従来モデルと同じように気圧センサーが搭載されているが、特にカメラの設定を変更しなくても、気圧の情報から標高(水深)を計算して表示・記録するようになった。写真のExifに撮影地点の標高のデータが自動的に加わるので、撮影後に撮った位置の標高がすぐにわかる。これはフィールドで使用するカメラとしてとても気が利いている。
今回のアフリカの取材では、以前に訪れた場所(2か所)で撮影を行ったが、TG-5を持っていくことでその場所の標高がはじめてわかった。片方は400mくらいでもう片方は600mくらいの標高だと思っていたが、撮影した写真で確認すると実際は両方とも750mくらいの標高であった。熱帯地方で昆虫や植物が多様性に富んでいるのは、だいたい700m前後の標高だ。TG-5を使えば、撮影後に標高が簡単にわかり、その場所が昆虫の撮影に適しているのかをすぐに把握できる。フィールドカメラとして非常に重要な機能を兼ね備えているのである。
オリンパスのタフシリーズのいいところは、だれでも手軽に超クローズアップ撮影ができることだ。どこにでも持ち運べる携帯性にすぐれたボディーで、広角から望遠まで最短撮影距離のままズームできるのはこのカメラしかない。これを1台持ってフィールドに出かければ、簡単に昆虫などの小さな被写体をマクロで撮れる。これが他のカメラにはないタフシリーズの優位性だ。今回、TG-5を使う機会を得て、あらためて、タフシリーズはフィールドカメラとして最高であると感じた。
そのうえで、タフシリーズの新モデルTG-5は動画撮影などの機能が進化し、TG-4やTG-3よりも多彩な撮影が可能になった。特に、TG-1/TG-2/TG-3のユーザーにとってTG-5は魅力的に映るのではないだろうか。高感度撮影時の画質が向上し、ハイスピードムービーや4Kムービーなども新たに搭載された。そうした進化点を踏まえると、TG-1/TG-2/TG-3ユーザーがTG-5のよさをもっとも強く実感できるはずだ。
被写体にレンズ先端から1cmの距離まで近づいて迫力のマクロ撮影ができる、タフシリーズの新モデル。最新の画像処理エンジンTruePic VIIIの採用によって、F2.0の明るい高解像力レンズを活かした高画質を実現。120fpsのハイスピードムービーや4Kムービーの撮影にも対応し、さらに多彩な撮影が可能になりました。